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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第6章【番外】スイートピーサイド編
148/155

第11話・・・死_シラー_『食人鬼』とひょっとこ・・・

『謎の電話……んー、これはまた厄介なことになったね…』

 針生との戦闘を終えたネメシアはシラーと合流し、他隊員達と連絡を取っていた。

 ネメシアの労いも早々に、話題は針生にかかってきた謎の電話へと移った。

 スイートピーの悩ましい言葉に、ネメシアが「ええ」と応える。

「やられた振りして聞き出そうとしても答えてはくれなかったわ」

『確かに』ダリアが相槌を打つ。『ネメシアから聞いた状況を踏まえると、迩橋漏電の可能性は低いな』

『だったら、手っ取り早く吐かせましょうか』

 コスモスがあっさりと告げた内容は〝拷問をする〟という意味を含んでいる。

『針生は忠誠心が高い方じゃない。痛めつければ吐いてくれるでしょう』

『この中で「拷問検資(ごうもんけんし)」の資格あるのはダリアさん、シラーさん、コスモスさんの三人だよね』

 

 スイートピーの言う『拷問検資』とは『聖』内の資格の一つで、有事の際に『拷問』をする者を選出しているのだ。

 拷問はただ痛めつけるだけでなく、人体構造を隈なく熟知した専門的知識と、常人なら吐き気を催す作業をやり抜く精神力が要求される。

 生半可な人間が拷問すると逆に心に傷を負ってしまうのだ。

 だからこそ、『聖』では予め選別している。


 スイートピーが『それなら』と。

『コスモスさんにお願いするね。……ダリアさんはデータ処理で手が放せないし、シラーさんは引き続きネメシアさんのサポートに徹してほしい。コスモスさんの役割はしばらく私が肩代わりする。……それでいい?』

 小隊長として指揮を執るスイートピーの考えに、コスモスは『構わない』と賛同し、ダリアが『俺も』と同調する。



「……どうやら、それは無理みたいね」



 しかしそこでネメシアが沈鬱な声で告げた。

『無理? 何が?』コスモスが話の腰を折られて強気の言葉を放つ。『針生は気絶させて「全収納器(ハンディ・ホルダー)」で回収したんでしょ?』

 コスモスが確認すると、ネメシアは横の()()()()を見ながら、溜息混じりに苦々しい表情を浮かべる。

「隣でシラーに容態を確認する為に針生を一旦外に出したんだけど………、」

 一拍置いて、ネメシアがその事実を簡潔に告げた。


「針生はたった今死んだわ」


『えっ』

『……』

『なんだって?』

 息をしていない針生の体に手を触れて容態を確認したシラーが通信に参加する。

「〝診波法(サージ・アーツ)〟で軽く診ただけだが、どうやら体内に埋め込まれた極小の士器(アイテム)が原因らしい。性能まではわからないが、生命の危機に関わるダメージを受けて暫く目が覚めなかったら特殊な電流を流して心臓を停止させるとかそんなところだろう。……もう、手遅れだ」


 診波法(サージ・アーツ)

 対象の体内に(エナジー)を波紋のように広げて異常を検知する法技(スキル)だ。

 周囲にエコーのように(エナジー)を飛ばして探知する探知法(サーチ・アーツ)の応用法技(スキル)で、対象の体内に潜む〝異常〝によっては難易度が中級から上級へと跳ね上がる。


『シラーが言うならその可能性が高いんだろうな』

 ダリアの全幅の信頼を置く発言に誰も異論はない。

『疑う余地なく、迩橋漏電が予め仕込んでおいた士器(アイテム)ね。……これまでそういう話を聞かなかったから失念してたわ』

 コスモスの言葉にスイートピーが『うん』と頷く。

『機密情報を知る側近にだけ埋め込んでるってことだよね。迩橋漏電なら士器(アイテム)との相性を診断する為とか、いっそのこと病気をでっちあげるとかの口八丁で〝体を開く〟くらいのことはできるだろうし』

 スイートピーが『はあぁ~あ』と可愛らしい溜息を吐いて、さらに続けた。

『そうなったらもう仕方ない。切り替えなきゃ。……それで早速なんだけど、ネメシアさんにはプランCの方向で潜入してもらおうと思うんだけど、いいかな?』

「……」

 スイートピーが小隊長として判断すると、ネメシアがほんの少し微妙な表情を浮かべた。

『いいんじゃない? 針生に変化(へんげ)して潜入するっていう手もあるけど、その謎の電話が来たら一発アウトだろうし』

 真っ先にコスモスが同意する。

『……それじゃ』ダリアが少し申し訳なさそうに結論づける。『……ネメシア、お願いできるかい?』

『ええ。それが最善でしょうからね』

 芳しくない反応だったネメシアも当然断るはずもない。

 その後もプランの細かな変更点を話し合い、各々通信を切った。


『ネメちゃん』

 

 最後に残ったスイートピーがいつもの呼び方でネメシアに言葉を送った。

『さすがだね! ……信じてたよ』

「……ふん」

 ネメシアが背の低い女ながら勇ましい笑みを浮かべる。

「大げさよ。……『聖』の正隊員はこれしきの苦境、いくらでも乗り越えてみせるんだから、いくらでも任せなさい」

『ありがとう。やっぱりネメちゃんはカッコいいなっ! ……お兄ちゃんには負けるけど』

「ちょっと! 最後のいる!?」


 そんなおちょくりあいを挟んで、ネメシアからの通信も切れた。




「……全くスイートピーは。今は任務中だぞ」

 隣でネメシアとスイートピーのやり取りを聞いていたシラーが「はぁ」と溜息を吐く。

「スーもわかってるわよ」ネメシアが優しい口調で言う。「……それでも、話しかけずにはいられなかったの」

「まだまだ子供ということか」

「ちょっと? バカにしてるの?」

「そんなわけないだろ。……スイートピーは(クロッカス)に対する態度以外は早熟だからな。少し安心した」

 シラーは微笑み、懐から短冊型の御札を取り出した。トランプの手札のように広げる。

「それより、早くお前を回復させるぞ。無傷で勝利したとはいえ、別己法(アナザー・アーツ)で戦闘までしたんだ。体力や(エナジー)がごっそり削れてる」

 

 今回の『初一(そめいち)』が終わったの少し後に現れる亜氣羽(あげは)という少女は別己法(アナザー・アーツ)を平然と使いこなしていたが、それは別格だ。

 理界踏破(オーバー・ロジック)一歩手前の超上級法技(スキル)はそれほど繊細且つ慎重に扱わなければならないものである。


「……わかってるって」

 スイートピーが肩を落としたながら頷く。

()()、苦手なんだから、お手柔らかにね」

「悪いがそれはできない」

 シラーは無感情に告げると、その御札を宙に放った。

 数十枚の御札が水を纏いながら頭上を舞い、水中を泳ぐ魚の群れのような一体感の動きでネメシアの周囲を渦巻く。

「……ちょっとぉ、多くない?」

「踏ん張れ」

 シラーは短く返し、(エナジー)を込めた。


「『戦型(スタイル)陰陽師(おんみょうじ)螺尚牢(らしょうろう)」』………『気付八番(きつけはちばん)回流生螺(かいりゅうせいら)』」


 唱えると同時に、ネメシアの脳内に癒しの水が波紋のように広がると同時に、心臓に強烈な衝撃が走る。

「……っ!!」

 疲労した脳に広がる治癒の波動と、精神に直接触れて叩き起こすような激烈さに体が驚き、意識が飛びかけるが、同時に体中の細胞が急速に回復して(エナジー)が沸きあがってく。



『聖』第四策動隊所属、コードネーム「シラー」。

 組織内に存在する家系の中でも、探知阻害の司力(フォース)を代々受け継ぐ。


 シラーの(ジェネリック)は鎮静系水属性。司力(フォース)は『戦型(スタイル)陰陽師(おんみょうじ)螺尚牢(らしょうろう)」』。

 念心法(クリンズ・アーツ)という娯楽を断った環境で修行することで身につく強靭な精神を(エナジー)に反映させて、相手の精神に直接ダメージを与える上級法技(スキル)を主体に戦う『戦型(スタイル)陰陽師』を完成させた一つの形。

 探知阻害がメインの司力(フォース)ではあるが、それを回復に応用した技もいくつかある。


 今回の技『回流生螺(かいりゅうせいら)』は念心法(クリンズ・アーツ)と鎮静の(エナジー)で精神と脳に直接作用することで脳内ホルモンの分泌を操り、強引に細胞を回復させ、大気中の(エナジー)を取り込みやすくする技だ。

 精神に敢えて圧を加えるので、気絶してしまうかのような重いインパクトを受けてしまうのが難点である。


 

「………ふぅ~。相変わらず変な感覚ね。休みたい気分なのに体は元気」

 ネメシアが小さい肩を回しながら感心する。

「……ネメシア」

 そんな彼女に、シラーが尋ねた。

「元気ないのか?」

「…っ、な、何よ急に…!」

 仮面の裏で驚くネメシアに、シラーが動じることなく答えた。

「お前を何年見てきたと思ってる。少しの調子の変化にだって気付けるに決まってるだろ」

「………っ」

 ネメシアが口を噤んだ。

 逆の立場であればネメシアもシラーの変化に気付けるからこそ、何も言い返せなかったのだ。

「針生との戦闘で何かあったのか?」

 聞くシラーに、ネメシアは肩を竦めた。

「……本当に大したことないわよ。……針生が自分の育った環境に不満爆発してたからね。…それで、クローと会った時のこと思い出してただけよ」

 それを聞いてシラーに得心がいく。

「ああ、お前が泣かされた時のことか」

「うるさいわね…! それはもう散々反省したわよ…!」

 ネメシアがうんざりしたように言うと、シラーが堂々と言葉を返した。

「何度も言ってるが全てを反省することはないからな。……なんせ、()()()()()()()を悲壮の沼から救ってくれたのは、他でもないネメシア(おまえ)のお節介なんだから」

 二人の間に、一陣の風が吹く。

「……わかってるわよ」ネメシアが天を仰いだ。「相手によってやり方を変えなきゃいけなかったってことよね」

「その通りだ」

「…なんかそう真っすぐ肯定されると逆にむかつくわね」

 イラッとするネメシアを、シラーは無視して話を進めた。

「とにかく、それならネメシアの調子もすぐ戻るだろう。早くプランCの準備に取り掛かるぞ」

「…はいはい。…そういうマイペースに真面目なところ、一周回って落ち着くわ」


「……俺は真面目なんかじゃない。ただ目の前のことで精一杯なだけだ」


 シラーが仮面の裏で仏頂面を浮かべて吐き捨てた。



 ■ ■ ■



 裏組織『爬蜘蛛(はぐも)』の別荘。執務室。

「……針生と連絡が取れなくなった?」

 迩橋漏電は携帯を耳に当てながら、部下からの報告に片目を細めた。

「…ああ。……ああ。……わかった。お前は戻れ」

 迩橋が通話を切り、両肘をデスクに付けて深く考え込む。

(……針生は自由奔放だが目上の人間に対しては諂うわかりやすい愚者だ。私の機嫌を損ねるようなことはしないはず。……その針生が店を出てから音沙汰無しとなると……何かあったと見るべきか。生命活動が基準値を下回った時に発動する士器(アイテム)自動自死(オート・アウト)』の起動を確認できないのはやはり難点だな)

 針生は女性関係で多くのトラブルを抱えている。

(女性絡みの怨恨で針生が狙われ、最悪殺されていたとしても、『爬蜘蛛』にはなんら影響はないからそれでいいが、……もし『爬蜘蛛(はぐも)』そのものが標的(ターゲット)だとしたら厄介だな…。側近の中で最も弱いとはいえ、針生を倒す奴らが迫りつつある…)

 正体不明の敵の影を感じ取り、迩橋は警戒心を一気にMAXまで引き上げた。


 バタンッ、と、その時突然執務室のドアが開いた。


「くんくん……嗚呼(あぁ)()(にお)いがする…」


 断りもなく開かれたドアの向こうから現れたのは身長190センチを超えるブランドもののスーツを着用した爽やかな男だった。

 一流の実業家と言われれば信じてしまう、雑誌の一面を飾ってもおかしくない見目である。歳は30そこそこだが、手入れの行き届いた容姿は実年齢より大分若く見える。

 そのスタイリッシュな容姿からは想像できない変態的な発言をしながら、その男は迩橋の前へと歩み寄っていく。

「………佐滝(さたき)

 迩橋が不快感を露わにして男の名を呼ぶ。

 針生と同じく迩橋漏電の側近であるそのスタイリッシュな男、『食人鬼(しょうじんき)』こと佐滝に、迩橋が苦言を呈す。

「いつも言ってるだろ? ノックぐらいしてくれ」

「これはすまない。だが悪いのはそっちなんだよ? ……なんせ、愛しの君(マイ・ハニー)が香ばしい臭い(アロマ)を漂わせていたのだから」

 佐滝は迩橋のデスクの前で止まらず、そのまま迩橋の横に回り込んで、頬と頬の間隔が数ミリの距離まで近付ける。

 そして再度「くんくん」と臭いを味わった。

嗚呼(あぁ)……やっぱりいつもと違うね…っ。この臭い(アロマ)は初めてだ…冷徹で狡猾で…その内に潜む打算的怒り……。〝便利な何か〟を失ったかのような草臥(くたび)れた諦めの感情……………」

 数瞬考えて、佐滝が口を開いた。


「誰か亡くなりました?」


「……はぁ」

 迩橋が溜息を吐く。

「いつも思うよ。君にその士器(アイテム)を授けたのは失敗だったんじゃないかって」

「そう言わないでくれよ、愛しの君(マイ・ハニー)

「いい加減離れてくれ」

 迩橋がいつまで経っても離れない佐滝の肩を押して遠ざけよう………としたが、その迩橋の腕を佐滝がガシッと掴んだ。

「…! 佐滝! なんの真似だいッ?」

 迩橋が殺気を露わにするが、上司のそんな姿に佐滝はむしろ興奮したのか頬を赤らめる。

「……もう一度言いますが、悪いのはそっちですよ? ……愛しの君(マイ・ハニー)…ッ」

「…ッ」

 まるで豪勢な食事を前にした美食家のような恍惚とした表情を浮かべる佐滝に、嫌悪感が増幅され迩橋が怯む。

「貴方はわかっていない。自分が今、どれだけ極上(ごくじょう)臭い(アロマ)を発しているか。……僕がどれだけ涎を垂らすのを我慢しているか……ッッ」

「……()()()()ならくれてやる。……だから放せ、佐滝」

嗚呼(あぁ)…どうしよう……ッ。もう()()()()()()()()()じゃ我慢できないところまで来てしまってるらしい…ッ!」

 まるで他人事のように自分を分析しながら、興奮を高まらせる佐滝に、迩橋は明確な身の危険を感じた。


満胴(みつどう)ッッ!!」


 そして躊躇なくその名を叫んだ。

 迩橋の腕を掴んで興奮の絶頂にいた佐滝が逆に身の危険を感じて、一瞬で後ろに後退した。

「……おやおや、本当に貴方は極端ですね。満胴さん」

 そこには小太刀を振り下ろすひょっとこの面をつけた者の姿があった。黒い衣装を纏い、見える肌には全て包帯が巻かれている。

 小太刀の刃は迩橋の腕を掴んでいた佐滝の腕の位置にあり、佐滝が瞬時に離れなかったら腕が切り落とされていただろう。

『……シュ~~~』

 ひょっとこ面こと満胴は言葉を発さない。深い呼吸音だけで威圧を放っている。

「佐滝」

 迩橋が呼ぶと、佐滝が優雅な仕草で頭を下げた。

「申し訳ありません。少々昂ぶり過ぎました。以後気を付けます」

「……これは初めて言うが、()()()()からね?」

 迩橋の〝次やったら殺す〟という宣言に、佐滝が身震いする。それは僅かばかりの恐怖と……大きな興奮だった。

「承知しました、愛しの君(マイ・ハニー)

 佐滝は大人しく踵を返す。

 ドアノブに手を掛けた時に、ふと思い出したように聞いた。

「ところで、誰か亡くなったのは間違いないのですか?」

「……ああ。おそらく針生が亡くなった」

 それを聞いた佐滝はというと。


「…………針生? そんな人間いましたっけ?」


「ほら、よく私と君の伝言係をしていた人だよ」


「ああ、そう言えばいましたっけ。……いつもドブのような臭い(アロマ)だったので僕の脳が覚えることを拒絶していたようです」


「それでいいさ。……もう、いない人間だ」


「……嗚呼(あぁ)、貴方のそういう人間性の乏しいところが人間味があって、すっごく香ばしいです」


 それだけ言い残し、佐滝は部屋を去った。



(……佐滝の発作はいつものことだが、あそこまで激化するのは初めてだ。……どうやら針生は思った以上に大きな存在だったのかもしれないね。…………まあ、〝道具〟としてだけど)


 迩橋が頭の中を切り替える。


(さて、何者かが私達を狙ってるなら、まず側近達を始末していくはず。……どこのどなたか知らないが、佐滝、満胴は針生とは格が違うよ?)

 

 いかがだったでしょうか?

 登場キャラをしっかり強調できていたら幸いですっ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] そんな強者すら上回る聖!いやあ楽しいですね。
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