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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第6章【番外】スイートピーサイド編
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第8話・・・『初一』開始_キャバクラ_針生・・・

 

 スイートピーは休日を過ごした後も小隊の仲間達と共に会議を重ね、コスモスにダメ出しをされつつもベストな作戦へとブラッシュアップを掛けていった。決行日が近付くと個人練習もほどほどにフォーメーションや互いの戦力・技・思考力を確かめるための模擬戦を行って認識の共有を万全にした。

 


 ………そして、スイートピーの『初一(そめいち)』にして初『小隊長』任務の日が訪れた。



 とある地方の街の上空。

 夜空と雲に隠れながら、紫の仮面と黒ずくめの戦闘服で身を包んだ五人が粛々と姿を現す。

 独立策動部隊『聖』の面々だ。

 空中に(エナジー)を固定してその上に立つという歩空法(フロート・アーツ)で空に立っている。

 先頭には『小隊長』のスイートピーが不動の姿勢で佇んでいた。いくら仮面と戦闘服を纏っていも背格好で小学生ぐらいの子供だと一目でわかる。そのミスマッチは一見可愛くも見える……が、

「ようやくこの日が来ました」

 そのスイートピーが発した言葉は、子供っぽいソプラノボイスながら、異様な覇気を醸し出していた。

 今回の任務を必ず成功へ導くという確固たる思いが肌で感じ取れる。

 滲み出るオーラは既に立派な『小隊長』だ。


 スイートピーがさり気なく振り返り、今回部下となる四人の内の一人に目を向ける。


「今回の作戦の起点は貴女(あなた)です。お願いします」



 ■ ■ ■



 裏組織『爬蜘蛛(はぐも)』のリーダーは迩橋漏電(じばし ろうでん)

 その迩橋には三人の側近がいる。

 三人は戦闘力や判断力、応用力などの総合的なパラメータを吟味して迩橋が直々に雇った者達で、まだ創設半年程の『爬蜘蛛』がここまで急成長できたのは迩橋漏電の個人的な士器(アイテム)知識の他に、この癖の強い三人の側近を飼い慣らして他の組織に付け入られないよう巧みにやりあえたことが大きい。

 

 故に三人は『爬蜘蛛』の中でも強い権力を所有し、俗物的な言い方をすれば『好き勝手』が許されている。

 その三人の中でも特に『好き勝手』しているのが、針生(はりう)という男だ。


 ※ ※ ※


「うぇ~~~~い! 楽しもうぜい~~!」 

 その街では有名な裏社会の人間御用達のキャバクラ。

 糸目細身の男性、針生はそこで毎日のように豪遊していた。

 両脇に四人の美女を侍らせ、酒を呷る姿は品性の欠片もなかったが、キャバ嬢や給仕の者は嫌な顔一つせず針生に更に金を吐き出させるよう調子付かせることだけに専念していた。

(……けははっ)

 針生は心の中で嘲った。

(どいつもこいつも俺を盛り上げようと必死だな……ハハッ! 弱者共がッ、そんなに金が欲しいかッ、けはははははッ!)

 針生は人の欲に敏感だ。

 こうして金の為に他人が自分を持ち上げる欲塗れの性根を眺めることが針生の人生の楽しみの一つとなっている。


 酒をぐびぐび飲んでいると、今しがた隣に座った女性に針生の目が惹かれた。

「君、昨日いなかったよね? 名前は?」

 針生が隣に座るロングヘアで巨乳の綺麗な女性に聞く。

「く…孔美(くみ)です…」

 孔美。

 水商売の経験が浅いのか初々しさがあって針生の好みど真ん中だ。金銭面の問題で望ましくなくてこの仕事に就いたのだろう。

 ぺろっと針生が下唇を舐める。

「孔美ちゃん、この後一緒にどう? ……もちろん、お金、払うよ?」

 言うと、孔美の目の色が変わった。〝欲〟を宿した目だ。

(ああ…、目先の一時的な欲に釣られる女はいつ見ても飽きないなぁッ)

「いい? いいよね?」

 孔美は押し黙り……力無く頷いた。

 勝った。

 針生は勝利は確信し、「ほら! みんな飲め飲め!」とさらに酒を注文して更に盛り上がっていく。


「針生さん、今日もありがとうございます」

 するとそこへこのキャバクラの店長が話しかけてきた。

 年齢は四十代のいかにも媚びを売るのが得意そうなへらへらした男だ。

「おう! 店長も飲めよ!」

 と針生がグラスを差し出し、店長は「仕方ないねぇ」とへらへらしながら座った。

「毎日来てくれるのは嬉しいけど、『爬蜘蛛』の方はいいんですか? もうじき大きな取引があるって聞いてますよ」

「ああ、『霧煙炭(きりえんたん)』とのやつか」針生が笑いながら答える。「そんなもんはうちのボスが勝手に段取りを組んでくれるから任せておけばいいんだよ!」

「なるほど! さすが迩橋さんですね! ……ところで、」

 店長が「ところで」と言った瞬間、針生の目付きがほんの少し変わった。

 浅ましい〝欲〟を感じ取ったのだ。

 店長はそんな針生の機微を知る由も無く、続けた。

「よければ今度迩橋を連れてきて下さい。これだけ針生さんにお世話になってるんです。是非ご挨拶を……」

 店長の言葉がしぼんでいった。

 針生が全く笑ってないことに気付いたからだ。

「店長」低い声で針生が言う。「俺一人じゃ不満か?」

「いえ、そんなことぶぉふぁッ!?」

 針生が店長の髪を掴み、テーブルに叩きつけた。

 皿、グラス、酒瓶などの飲食物が飛散し、テーブルには亀裂が入った。

 同じ席の女性達が悲鳴を上げ、周りの席の人達の視線を集める。

「別にいいんだよ、所詮俺は迩橋漏電の部下。トップじゃない。俺には上がいる。俺の権力なんてたかが知れてるからもっと上の人物と繋がりたい。そういう〝欲〟、俺は嫌いじゃない。……ただな」

 針生が髪を掴んだまま眼前に店長の顔を持ってくる。針生の細い瞳がキラリと怪しく光った。

「小者が分不相応の〝欲〟を持つことが大っ嫌いなんだよ」

 針生が捨てるように髪を放した。

「ぐっ」と呻き声を上げる店長に、針生が冷ややかな視線を送る。

「店長よ、こんな地方でちんけな店を開いてちんけな客を満足させてるぐらいで調子に乗んじゃねぇ」


「おおい! ちんけな客って誰のことだ!?」

 その時、周りに座ってた客が怒鳴り声を上げた。

 厳つく派手な風貌でヤクザだと一目でわかる。そのヤクザに続いてほぼ全ての客が立ち上がり、針生を一瞬にして取り囲んだ。

「てめぇこそちょっと金払いいいからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!?」

 子供であれば大泣きしてしまう啖呵を切るヤクザだが、針生は細目を歪ませて「けははっ」と笑った。

「出た出た、小者小者っっ。……おっさん、本場アメリカのギャングって見たことあるか? 俺は20年以上、本物の荒くれ者の威圧に晒されてきたんだ。それに比べれば、子供過ぎるぞ?」

「んだとッッ!?」

 ヤクザの男性の頭に血が上り、顔が真っ赤になる。

「そこまで煽り散らすんなら覚悟はできてんだろうなァァァッッ!!?」

 そのヤクザが(エナジー)を纏う。

 それに続いて他の(フォーサー)(エナジー)を放出し、(フォーサー)でない者も手に武器を持った。

 店長が傷だらけの顔を押さえながら「け、喧嘩は困ります…!」と叫ぶが、時既に遅し。

 総勢30人近いヤクザが「「「うおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」と雄叫びを上げて針生に殴りかかった。


「けははっ、雑魚がッッ」


 だがしかし、針生は慌てることなく懐から一本の短剣を取り出した。


(俺は選ばれし人間! お前ら小者とはもう違うんだよッッ!)


 

 ■ ■ ■



「そんじゃ、店長。この女の子達連れてくけど、構わないよな?」

「あ、あぁ……」

「じゃあ、明日も来るから……、ちゃんと綺麗にしておけよ?」

 それだけ言い残すと、針生は両脇に二人の女性(怯えた表情)を抱えて店を出て行った。

 

 出て行った後、店長は恐怖で膝が笑い、尻餅をついた。

 店の至る所では、30人近いヤクザが一人残らず血祭に上げられ、赤い海を形成していた。

 


 ※ ※ ※



 日が暮れてすっかり夜になった時間帯。

 針生は二人の女性達を連れて人気のない路地裏を歩いていた。

「ど、どこに行くん……ですか?」

「怖がんなくていいよ、孔美ちゃん」

 針生が「けはは」と笑う。

「この先にうちの組織が用意してくれた俺専用の車があるんだ。すげぇだろ? 側近になれば車を一台と運転手まで付けてくれるんだ。うちのボスは太っ腹だぜ!」

 と、その時。

 針生のポケットから音楽が流れた。

「あ? 電話?」

 少し不機嫌そうに針生が目を細め、女性達の両肩に回していた腕を放して携帯を取り出す。

「もしもし? 誰だよ………ッッ! えッ!?」

 針生の目がカッと一瞬で酔いが覚めたように見開く。

「はい……いえ、そんなことは……はい………はい………え…、いや、それはちょっと………いや、……」

 先程までの傲岸不遜な態度はどこへやら、電話越しだというのに頭をペコペコしている。


「誰と電話してるんだろう? 迩橋漏電…?」

「どうだろう…?」

 女性二人が首を傾げている。


「そ、その…なんとかそれだけは……」

 針生が何かを断ろうと平身低頭の姿勢で言葉を重ねている。

「でも………………え!? そ、それは本当ですか…!?」

 何か驚きの事実を告げられたらしく、針生が驚いた。

「さ、さすがに……でも……………………………………………………………………うん、そうです……ね……。はい、わかりましたよ……」

 観念したのか、針生が了承し、電話を切った。

 そして針生がとぼとぼと疲れた表情で女の子達の元へ戻っていく。

「な、何かあったんですか…?」

 孔美ではない方の女性が針生に恐る恐る聞く。

「いやぁ、参ったよ」

 はぁぁぁ、と針生が大きな溜息をついて……………、




 次の瞬間、針生が懐から取り出した短剣で女性二人の首を狙って斬り薙いだ。




 鮮血が飛び散り、麗しい二人の女性の首が宙を舞う…………本来、そうなるはずだった。

「……やっぱりさっきの()()()の話は本当だったか…」

 針生がもう一度大きな溜息を吐いた。


「俺好みだったんだけどなぁ…。残念だぜ、孔美ちゃん」



 気絶した女性を抱えて佇む孔美……いや、変装を越えた変化の達人・ネメシアが、静かに佇んでいた。



 ■ ■ ■



『聖』第四策動隊所属・コードネーム「ネメシア」。

 (ジェネリック)は具象系水属性。

 司力(フォース)は『完似創人(ビー・キャラクト)』。

 分身法(フロック・アーツ)の応用で、146センチの身長を活かしてすっぽりと自分を包み込むように(エナジー)を纏い、別人に成り代わる能力だ。

 

 己の一挙手一投足に仮面を貼る『完偽生動(フェイク・ナチュラル)』、分子レベルの(エナジー)操作により他系統の感覚を再現する偽気法(バーリー・アーツ)、精密な(エナジー)を操作で振動させて任意の声を発する技術、体の水分を操作して更に体格を絞る技術など、〝欺き〟に全てを注いで作り上げている。

 ちなみに、ネメシアは『完似創人(ビー・キャラクト)』を発動中は黒ずくめの戦闘服は着用しているが、紫の仮面は外している。




 今回の任務ではネメシアが鍵を握っている。

 最初の作戦会議でスイートピーはネメシアを潜入させる案にコスモスが苦言を呈していたが、それはコスモスが少々厳しめに言ったものであって、案自体を否定したわけではない。

 

 むしろネメシアという変化(へんげ)専門家(プロ)がいてそれを活用しない手はない。


 幾度かの作戦会議を経てネメシアはキャバ嬢の一人に成りすまして『爬蜘蛛』の幹部格であり、女をアジトで甚振るサディスト・針生に気に入られ、別荘内に安全に入ることで今回の任務のファーストステップは完了となる。


 第六隊が調べ上げた針生の女癖や性格のデータから好みのタイプを算出し、キャバクラの女性スタッフの中から類似する人物をピックアップしてネメシアがその子に変化(へんげ)し、見事に針生の御眼鏡にかなった。


 あとはこのまま気の弱い女の皮を被って針生に別荘まで連れて行ってもらう。

 

 ………そのはずだった。




(これは……どういうことよ……ッ)


 孔美に変化(へんげ)したままのネメシアが下唇を噛んだ。


(誰かからの電話を受け取った瞬間、バレた。……迩橋漏電が相手だとしてもどうやってうちのことを見抜いたっていうのよ!)


完似創人(ビー・キャラクト)』の〝変化〟はS級でも見破るのが困難だ。本物の孔美は保存系の士器(アイテム)と合わせて全収納器(ハンディ・ホルダー)に匿っているし、どこでバレたのかがわからない。



「さ~~てと、」

 針生がニヤリと笑う。

「孔美ちゃん、君は一体どこの組織なのかな~? じっくり聞かせてもらおうかな~っ!」



(………うちがまだ『聖』だとはバレてないみたいね…。考えられるとすれば探知系の士器(アイテム)だけど……………まあ、取り敢えず今はいいわ)


 ネメシアの心の声に、黒みが増し、次の瞬間……針生とネメシア、それと気絶した女性一人を囲むように結界が形成された。


「おー、いつの間に張られていたんだ」


 針生に首を狙われたその瞬間からネメシアは結界を張る為に(エナジー)を巡らせ、裏路地の一区画を覆った。


(この皮はもう邪魔ね)

 ネメシアが『完似創人(ビー・キャラクト)』を解く。

 孔美の姿が(エナジー)の粒になって霧散し、同時に発生させた小規模な白い霧で一瞬姿を隠し、ネメシアは仮面を付けた。


「……ッ!」

 そして霧が晴れたネメシアの姿を見て、針生が瞠目した。

「その仮面……ッ!『聖』……ッッッ!?」



「あんたのことはまだ生かすつもりだったんだけど……こうなったら仕方ないわね」

 ネメシアが(エナジー)を纏う

 濃密で、猛々しい威圧を放っている。身長146センチと言えど、紛うこと無きA級の(エナジー)の奔流に並みの(フォーサー)なら立つことすら怪しい。


 ……しかし。

「………………………けはッ」

 乾いた笑い声が響いた。


「けはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッッッ!!」

 

 そして下品な笑い声が木霊する。

「『聖』ッ!『聖』かッ! 身長はちっちゃいがビッグな奴が来たじゃないか! 俺もそれだけビッグになったってわけか! いいねぇ!!」

 

 針生が先程キャバクラ店内で見せた短剣を、再度懐から取り出した。


 ぐねりと歪な波のように曲がりくねった形状の短剣だ。


「この『錯流刀(さくりゅうとう)』でたっぷり嬲った後、俺のペットとしてたっぷり可愛がってやるよ!」

 


「なに? ロリコンの気質もあるの? きっも」


 

 ネメシアは仮面の裏で侮辱の眼差しを向けた。

 いかがだったでしょうか?

 最初のマッチメイクです笑


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