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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第5章 トレジャー・ガール編
116/155

第7話・・・がむしゃら_卑怯_甘く見てる・・・

 検証を込めて9時に投稿してみました。

 ずっと本の中の物語に憧れてきた。


 ドキドキ、ワクワク、ハラハラ、キュンキュン。


〝ボクもこんな気持ちになりたい〟


 館生活が嫌いだったわけではないが、どうしても憧れを捨てきれなかった。


 そんな時、外の世界に出るチャンスが巡ってきた。


 後先考えず、外に出た。


 ……時間は限られてるが、それでもドラマチックでロマンチックな心昂る出来事が巻き起こる………そう、思ってた。


 でも、そう思い通りに物事が運ばないことを知った。


 そんな時、〝物語の主人公〟と言わんばかりのルックスと力を持つ同年代の男と出会った。


 ついに自分の前に王子様が現れた。


 彼なら刺激的な展開をもたらしてくれる、そう直感した。



 …………でも、それも幻想に過ぎなかった。



 …………………こうなったら……もう…。




 ■ ■ ■




「どんな理由があるか知らないけれどね! 醜い矜持プライドに呑まれて目的を見失うようでは、フォーサーとして三流以下よ!」


 クーラーボックスを武器として構える化粧の濃い男性オカマ、綺羅星桜の厳しい言葉に、勇士がたじろぐ。

 愛衣とのことがあり、視野が狭くなっていたのは間違いなかった。

「……黙れッ!!」

 それでも、素直に認められない勇士は大声を張り上げた。

「悪党が偉そうに言うなッッ!!」

 言うや否や、勇士は全収納器ハンディ・ホルダーからもう一本の刀を取り出した。

 二本の刀を構える勇士を見て、綺羅星が「へえ」と目を細める。

「二刀流だったのね。何をそんなに勿体ぶっていたのかしら?」

「行くぞ!」

 綺羅星の話を聞かず、二刀に紅蓮の炎を纏って勇士が加速法アクセル・アーツで突っ込む。

 身体能力フィジカルはA級トップクラスの勇士の全力疾走は同じA級でも目視すら困難……そのはずだが。

「そこよぉ!」

 綺羅星は難なく勇士の刀の振り下ろしにクーラーボックスで迎え撃った。

 クーラーボックスの表面のざらざらした凹凸を利用して勇士の刀は受け流され、もう一本の刀で追撃するがそれは余裕を持って躱される。

(なんつう動体視力だ…! だがこの近距離戦に持ちめば俺の領域だ! さっきはクーラーボックスが開くことをそこまで警戒してなかったから不覚を取ったが、知った以上俺の反射神経で反応できる!)

 勇士は至近距離を保ち、絶えず炎の刀を振るう。

 真下からの切り上げを綺羅星は大きな図体から考えられない細かく滑らかな動きで躱し、勇士の横顔目掛けてクーラーボックスで殴打を狙う。

 勇士は綺羅星と距離を取らないよう、後ろに跳ぶのではなく下に屈んで空振りさせる。そしてそのまま綺羅星の両脚を横薙して斬る。

 だが勇士が刀を横薙するより早く、綺羅星が蹴り上げた太い脚が勇士の腹に入った。

「カハ…ッ!」

 全身に広がる痛みに呻く勇士だが、それでも歯を食いしばってその場に踏みとどまり、更に回転しながら、綺羅星へ向けて二刀を同時に振るった。

(紅華鬼燐流・一式『双火炎そうかえん』!)

 回転し、その遠心力を利用して重い二連撃を放つ技だ。

「『剛氷の美打(ビューティー・ノック)』」

 勇士の『双火炎』の一撃目に合わせて、綺羅星がクーラーボックスをメリケンサックのように拳と一体化させた拳骨で、刀を殴るように逸らす。そしてその衝撃は刀を伝って勇士の身体に伝わり、一時的に腕が痺れた。

(この直接身体の芯に響く感覚…!〝衝直法ストライク・アーツ〟か!)


 衝直法ストライク・アーツ

 拡張系特有法技(スキル)

 己と相手のエナジーを吸収同化することで、相手のエナジーによる防御をある程度無視して衝撃を直接伝える法技スキルだ。

 

 理界踏破オーバー・ロジック一歩手前の『聖』のコスモスや『憐山』のイーバが使用してた貫穿法ダイレクト・アーツの、下位互換法技(スキル)である。


 身体の自由が一時的に奪われた勇士の右横に回り込んだ綺羅星がクーラーボックスを振り上げる。

 このままでは頭に直撃して大ダメージを負ってしまう。

 勇士は動揺しつつも慣れた動作で剣技を発動した。

(紅華鬼燐流・五式『俊天華しゅんてんか』!)

 体内のエナジーで筋肉を収縮させて、不可能な動きを可能にする剣技だ。

 これなら筋肉が痺れていようと関係ない…………はずだった。

(…ッ?)

『俊天華』によって確かに腕は動く。一時的とはいえ、痺れているとは思えない。

 ……でも、引っ掛かる感覚があった。

 …………そして。

「ぐぁッ!」

 勇士は二刀をクロスさせて綺羅星のクーラーボックスが頭に叩き落される前に防御を張ったが、その腕に思った以上に力が入らず、刀の上から頭を殴打されてしまった。

 刀が威力を散らしてくれたので意識を奪われるまではいかなかったが、それでもダメージは小さくない。

 勇士はさすがにこのままだと形勢が悪いと見て後ろに跳び、距離を取った。

「……思ったよりタフね。さすが強化系と言うべきかしら」

「ハァッ、ハァ…ッ、ハァ……!」

(何が起こってやがる…!)




 勇士が自分の身に起きていることに当惑しているその後ろで、漣湊は既に看破していた。

(……なるほど。あの綺羅星って人、肉弾系に見えて本当にゴリゴリの拘束系ってわけか。勇士と実力は互角なんだろうけど、やっぱり情報の格差が大き過ぎて後手後手だ。……これはきちーな)

 分析しながら、視線を変えずに湊は隣の亜氣羽を意識する。

(………()()()も気になるし、どうなることやら)




 綺羅星が溜息をつく。そこには疲れが見えたが、それは肉体的というより精神的な疲労に見えた。

「…火属性…近接タイプ……負ける気はしないけど、やっぱりやり辛いわねぇ」

「…?」

 呟く綺羅星に勇士が眉を顰める。すると。

「『霧煙幕ミスト・スモーク』」

 綺羅星が霧を発生させて目くらましをした。

(ッ!? この霧の中で不意打ちするつもりか!)

 勇士は少し驚きこそしたが特段慌てることはなかった。

 むしろ見慣れた戦法に安心したところもある。

 勇士は落ち着いて身を少し屈ませ、刀の間合いにのみ探知法サーチ・アーツを集中し、万全の迎撃態勢を整えた。

(こんな霧、炎で消し去ることなんて簡単だが、逆に利用してやる! 四方八方どこからでも来てみやがれ! 俺が斬り捨てる!)

 ……そんな勇士の予想は大きく外れた。


「ぐあッッ!」


 それは、勇士の後方から聞こえた聞き馴染みのある声だった。

「ッッ!?」

 勇士は反射的に炎を展開し、霧を払った。


 視界が明けた先に見えたのは………綺羅星に首を鷲掴みにされ、拘束された琉花の姿だった。

 

「琉花ッッ!!」

 勇士が鼓膜を突き破る程の大声で叫んだ。

 しかし琉花は返事することもままならないようだ。

 首を掴まれて本来は手足の身動きは取れるはずだが、先程勇士の身体を拘束した『霜氷の囮フロスト・バン・パウダー』によって自由が奪われている。

 綺羅星は勇士と湊・亜氣羽がいる位置を結んで三角形を形成するように距離を取って、穏やかでありながらどこか冷徹な笑みを浮かべた。

「動かないで頂戴ね。素直に従っていれば何もしないから」

「信じられるか! 琉花に触るな!」

 勇士が全身に炎を纏い、敵意を漲らせる……が。

「ぐああぁッ!!」

 琉花の苦痛の染みた声に、「ぐ…ッ!」とたじろぐ。

「そうそう、そのまま動かないでね~」

「卑怯者…!」

「あらあら、本気で言ってるのかしら? だとしたらフォーサー失格ね」

 戦場では卑怯もくそもない。

 綺羅星の言っていることは正しい。

 勇士は「ぐ……っ」と下唇を噛み、視線を湊に移した。

「湊……どうすれば…」

「あら? さっきは助言を無視したのに、すぐ助けを求めるのね。……面の皮が厚いこと」

「ッッ! うるさいうるさいうるさい! 嫌味ばっかり言いやがって! だったら聞いてやるよ! 目的はなんだ!? 亜氣羽さんの身柄か!?」

 自棄になった勇士が叫び散らかす。

 それを綺羅星はくつくつと声を抑えて笑いながら答えた。

「そう言ったらどうするつもり? 素直に差し出してくれる?」

「そんなことできるか!」

 勇士が瞬時に答え、綺羅星が肩を落とす。

「……ここで即答するのは男らしいと思うけど、その正義感を実現する実力が伴っていないと、意味がないわよ?」

「なんなんだよ…! 一体なんなんだよ……!」



 ………こんなところで躓いている場合ではない。

 自分にはもっと強大で凶悪な敵を殺さなければいけないという使命がある。 

 ……それなのに、なんだこの様は。

 思うように戦えなかったり、好きな子に避けられたり、その好きな子と仲が良い男によくない感情を抱いてしまったり、仲間を人質に取るような卑劣な人間にそんな勇士の心を見透かされてしまったり、責められても何も言い返せなかったり、……………もう、勇士の頭はいっぱいいっぱいだった。

 今、物事を考えることが辛過ぎる。

 どんな敵でも難なく倒したい、どんな状況に陥っても巧みに立ち回りたい、言葉で攻めてくるなら言葉で言い負かしたい、……そんな理想ばかりを掲げて、結局何もできない。

 そんな自分が、死ぬほど情けない。



「………………俺は…………俺は勝たなきゃ……勝ち続けなきゃ、ダメなんだッッ!!」

 しかしそれでも心折れることなく、がむしゃらに己を奮い立たせて、勇士は雄叫びと共に爆発的なエナジーを纏った。

 纏ったエナジーは竜巻のように勇士を中心に渦巻いている。

 それを目の当たりにした綺羅星が眉を顰めた。

「ちょっとぉ!? まさか身体を強化して一瞬で距離を詰めてこの子を助ける気!? そんな脳筋戦法が効く   」

 ……その綺羅星の言葉は、途中で終わった。



 突如………、鈍い打撃音と共に…………………勇士が突き飛ばされたのだ。



 え? と目を丸くしたのは綺羅星だった。

 綺羅星は変わらず、琉花を人質に取ったまま一歩も動いていない。

「……ぅっ……な、なん……っ!」

 吹き飛ばされた勇士は打撃された脇腹を抑えながら、自分を突き飛ばした人物をまるで〝裏切られた〟と言わんばかりの驚愕の表情で見つめる。


 勇士を殴った張本人は、被るキャスケットの位置を整えながら、言い放った。



「もういいよ! この雑魚! 雑魚雑魚雑魚! カッコいい王子様ムーブもできない口だけ野郎は引っ込んでて! もう君に期待しないから!」


 口を尖らせながら言う亜氣羽は、我儘な駄々っ子そのものだった。



 ■ ■ ■



「はあ~あッッ! なんでこんなに上手くいかないのかなぁ! 本の中ではとんとん拍子でロマンと刺激が降り注ぐのに! ボクには微妙なことばかり! 反応にも困るし! 挙句負けるし! ボクはヒロインにはなれないの!?」

 駄々っ子と化した亜氣羽が思いのままに叫んでいる。

「あ、亜氣羽さん…? 一体君は…」

「うるさい! 君とは今喋りたくない!」

 問う勇士に亜氣羽がぴしゃりと言い捨てる。

 先程までとがらりと雰囲気が変わった亜氣羽が、綺羅星に目を向ける。

 綺羅星も想定外の状況なのか、様子を伺って静観している。

「……さすがに助けるべきだよねー」

 亜氣羽が呟いた瞬間だった。

 バチバチバチ! と綺羅星の右腕、琉花の首を持つ腕で激しい雷撃が起きた。

「ぅッ!?」

 綺羅星はたまらず琉花の首から手を放してしまう。

 それを観察した湊が条件反射で分析した。

(…今の雷、自分の体から放出するんじゃなくて、突然相手《綺羅星》の体で発生した…。方法は幾つかあるが、何にしても高等技術だな。まあ焦っていたとはいえ勇士を突き飛ばした時点で相当な実力者なんだけどね…)

 そしてその亜氣羽の雷撃で琉花の身体を覆っていた『霜氷の囮フロスト・バン・パウダー』の塊が砕けてある程度体の自由が効くようになる。

 琉花は「ハァ、ハァ…っ」となんとか保っていた意識をフル稼働して綺羅星から離れた。

 距離的に一番近い湊の元へ退避した。湊は鎮静のエナジーでF級ながらに琉花の気を落ち着かせる。

 綺羅星はそれほど大きなダメージを受けていないようで、琉花をもう一度捕まえることもできたが、動かなかった。

 既に勇士や琉花など眼中になく、亜氣羽に意識を集中している。

「……ようやく嬢ちゃんとお話ができると思っていいのかしら?」

 隙のない佇まいの綺羅星が亜氣羽に問う。

 対して亜氣羽は淡い銀髪とトレンチコートを靡かせながら、ぷくっと頬を膨らませて言った。

「なーにがお話だよ! 元々ボクの物を奪おうとしてる盗人ぬすっとの癖に!」

 言われた綺羅星がくつくつと笑う。

「あれは私が苦労に苦労を重ねて手に入れた宝なのよ? それを後から自分の物だって主張されて、奪われたら、そりゃあ納得できないわよ」

「だから! あれはボクの落とし物なんだって言ったじゃん!」

「言葉だけを信じる程、私は平和ボケしてないわ」

 堂々巡りな二人の会話から、関係性が薄っすら見えてきた。

(なるほどねぇ)

 湊が情報を吸収し、事情を察していく。

「まあ、でも」

 綺羅星が声のトーンを落として言う。

「ただ私としても最近考えを変えて、宝は諦めても良いと思ってるのよね。……嬢ちゃんの〝正体〟について、お話をさせてくれたら、ね」

 綺羅星の射貫くような視線が、亜氣羽に刺さる。

 亜氣羽はポーカーフェイスで微動だにしない……なんてことはなく、むしろ「むぅぅぅ!」と面倒な気持ちをこれでもかと露わにしている。

(子供かよ)

 湊が心中で突っ込む。

「残念っ。さすがに〝正体それ〟は無理。………でもまあそれはそれとして」

 一拍置いて、亜氣羽が続けて言う。


「今思いついたんだけど、せっかくこうして人も集まったし、ちょっと楽しいイベントでも開く?」


 楽しいイベント、と言う亜氣羽の表情には〝暇つぶし〟という感情が滲んでいた。


「……イベント? 何をするつもり?」

 綺羅星の問いに、亜氣羽は何気なく歩きながら答えた。

「ボクさ~、恋愛本も好きなんだけど、バトル系の本も結構好きでさ~。色んな陣営の色んなキャラクターが己の信念の下に感情を爆発させて戦う場面とか熱くてついつい読み込んじゃうんだよね」

 亜氣羽は「だから」と続けて。


「ボク、綺羅星おばさんおじさんチーム、あとそこの似非王子様チーム、一応は三陣営揃ってるわけだし、バトルロイヤル的なイベント開いたら少しは楽しいと思わない? 本みたいな熱い展開はあんま期待してないけど、これだけ人がいればドラマチックな場面が一つか二つかあることを願って。…………あ、景品はボクの〝宝〟でいいよ」


 景品が宝、そう聞いて綺羅星の目にやる気が漲ったのがわかった。

 亜氣羽の正体を引き合いに出して諦めると告げてはいたが、やはり見過ごせない大物であることは間違いないようだ。

「いいわね! その話、乗った!」

 宝を入手するチャンスだと、脊髄反射で綺羅星がOKを出す。

「言っておくけど、そこの似非王子様だけじゃなくて、ボクも倒さなきゃダメだからね?」

「承知の上よ」


「あのー」


 そこに、冷静な声が割って入った。

 湊の声だ。

 今まで大して目立ってはいなかった湊に、綺羅星と亜氣羽の視線が突き刺さる。亜氣羽もすっかり強者ポジションだ。

 傍の琉花に不安そうな視線を送られながら、湊は全く緊張した様子もなく答えた。


「水を差すようで悪いんですけど、そのイベント? 俺達参加する意味ないですよね?」


 冷静に、的確に、本質を突いた。



 亜氣羽は断られると思っていなかったのか、「え?」と目を丸くした。



(……勇士のこと散々雑魚とか馬鹿にしてたけど、この女もベクトル違うだけで俺達のこと甘く見てるよなぁ)


 いかがだったでしょうか?

 そろそろ一区切りつく頃です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] メスガキわからせパターンはあるのか?
[良い点] どんな敵でも難なく倒したい、どんな状況に陥っても巧みに立ち回りたい、言葉で攻めてくるなら言葉で言い負かしたい 湊の事じゃないか。というか本当Aランク一人相手にこの体たらく。よく聖を倒す!と…
[一言] そりゃあね。そこの小物王子が勝手に参戦しただけで、実はメリットデメリット、なんも定かでもないし、参戦義務もないしねぇ
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