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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第4章 激闘クロッカス直属小隊編
105/155

第23話・・・命乞い_コンバート・フォーサー_「ふんっ」・・・

 また文字数多くなってしまいました…。

 途中休憩挟みながら読んで頂けると幸いです。

 ……同じことを二話連続で言っています。

「終わったみたいね」

「ああ。完全にレイゴの心が折れてる」

 クロッカスとレイゴが戦闘を繰り広げていたアジト屋上を一望できる上空に、コスモスとアスターがいた。

 コスモスの無遁法アンノー・アーツで姿・気配を完全に消しているので、湊との死闘に集中しているレイゴでは気付けるはずもない。

「それにしても、クロッカスの理界踏破オーバー・ロジックはいつ見ても冷や冷やするね」

 まだ『霊魂晶グローリー・ジェル』による『憑英格化ひょうえいかくか』中で、江戸川乱歩の装束を纏ったアスターが苦笑しながら続けて言う。

「起こりうる未来を、分岐も含めて全て100%予測することで未来干渉を可能としている。それは言い返せば、少しでも予測がズレていたら発動しないってことなんだから。……まあ、それができるから『超過演算デモンズ・サイト』と呼ばれるんだろうけど」

「……でも、やっぱり仲間を心配させるような技はあんまり使ってほしくないわよね…」

 アスターは最後に杞憂だと肩を竦めるが、コスモスが憂慮の籠った声で同意した。

 仮面で顔は見えないが、コスモスがどれだけ不安に駆られているかがわかる。

 アスターは失敗したと感じた。

 クロッカス命のコスモスの不安を煽ってしまったと。

「でも」

 しかし、コスモスが気丈な声を張り、続けて言った。

「そんなところも好きなんだけどね」

「………そ、そうだね……うん」

 結局惚気られ、これも杞憂だったと悟るアスターであった。




 ■ ■ ■




「ま………ッ、まってくれ…ッッ……たのむ……ッッッ」

 クロッカスVSレイゴが湊の勝利で決着した直後、レイゴが左手と折れた両脚でズルズル身をよじらせながらそんなことを言ってきた。

「え、命乞い? さすがにそれは見苦し過ぎない?」

「ヤダ……死にたくない……死にたくない……ッッ!」

『狂剣のレイゴ』はどこへやら、そんな面影を微塵も感じさせないほどレイゴの心が折れてしまっている。

「あー」

 恐怖と絶望で委縮してしまっているレイゴを見て湊が考察する。

(やっぱり狂人法バーサーク・アーツの影響だよな……。廃人化して情報を引き出せなくなる前に無理矢理解いたはいいけど、好き放題やらせ過ぎたか。これ瑠璃さんになんか言われるかなー。でもできるだけレイゴの気分を乗らせて最高の『華喰悉血カグツチ』をやってもらう必要があったから仕方なかったんだよなぁー)

 湊が事後処理のことを考えて少し憂鬱になっている間も、レイゴが「頼むよ…」「…死にたくない…ッ」「どうして……ッッ」と身勝手で不快な助命な言葉を投げかけている。

「あ、じゃあちょっと聞いていい?」

「な、なんだ…!? なんでも答える…ッッ!」

 レイゴは謎の希望を見て従順に頷いているが、湊としては〝喋りたそうにしているからせっかくだし質問してみよう〟という気持ちしかない。

 しかし当然その辺は触れずに、湊は()()()()()()予定だったことを先んじて聞いた。

「紅井勇士って名前、知ってる?」

「あかい…ゆうし…?」

「そう。紅井って苗字は偽名かもしれないけどね。あんたが紅蓮奏華家にいた頃、聞いたことない?」

 湊の獅童学園でのルームメイトにして紅蓮奏華家の人間、紅井勇士。

『聖』が調べる限り、紅蓮奏華家のどの家系列にも見当たらない。少々謎に包まれた男だ。

「歳は14歳。あんたが本家を出たのは13年前だから、生まれた時にぎりぎりいたはずなんだけど」

「えッ……ゆうし……ゆうし……?」

 自分の命が懸かっていると思っているのか熱心に記憶を掘り起こすが、思い当たる節がないようだ。

(……年齢的にレイゴの同世代の誰かの子である可能性が高いんだけど、覚えはない、か。『天超直感ディバイン・センス』を使える以上、紅蓮奏華家の血筋だってことはほぼ確定のはずだから、考えられる可能性としては、紅蓮奏華の男性陣が外の女に作らせた子供を数年後に引き取ったか、勇士という名前も偽名か…)

 と、湊がそこまで考えた時、

「あ!!」

 レイゴが大きな声を上げた。

「何か思い当たることあった?」

「も、もしかしたら『人造士子コンバート・フォーサー』かもッッ!」

「っ?」

 レイゴの発した単語に、湊が仮面の裏で眉を顰める。

「『人造士子コンバート・フォーサー』ってあれだよね? 体外受精による遺伝子や塩基配列操作で生み出された、俗に言う試験官ベビー。……まさか、紅井勇士が…?」

 想像が及ばなかったわけではない。

 しかし紅蓮奏華家は閉鎖的な部分が多いのでそれ以外の可能性が高いと考えていたのだ。

「そ、その…」

 湊の問いかけに、レイゴは目を泳がせながら答えた。

「く、呉之依くれのえ家って知ってるか…?」

 また厄介な名前が出てきたと思いながら、湊が頷いた。

「もちろん。『紅蓮奏華の煉手れんしゅ』でしょ?」


 呉之依家。

 裏社会での潜入・諜報・破壊活動を専門とする紅蓮奏華直下家。

 紅蓮奏華家が『御十家』を抜けて『フォーサー協会』の陽天十二神座ようてんじゅうにしんざ・第六席まで上り詰めたのは、呉之依家あったこそである。


(『妖具』の瘴気を宿して生まれた紅蓮奏華克己フリージアを殺すよう強く進言したのも呉之依家なんだよなぁ)


 紅蓮奏華家の右腕として畏怖されることから、『紅蓮奏華の煉手』と呼称されている。


 湊が続けて言った。

「その呉之依家が秘密裏に本家の人間のDNAサンプルから『人造士子コンバート・フォーサー』を造ったって、そう言いたいの?」

「そ、そうだ!」

「根拠は? 呉之依家は裏稼業専門で、研究関係は専門外のはず。それにそもそも、活動内容・実態は細かい内容でさえ頭首を中心とした紅蓮奏華上層部しか知らないはず。お前が殺した優秀な兄・紅蓮奏華哉土(さいど)ならともかく、お前みたいな問題児にそんな詳細情報が渡るとは思えない」

 冷たく言い放つが、レイゴは自信があるようで声を張り上げた。

「そ、その兄が死に際に言ってたんだよ! 〝ゆうし〟って!」

「……っ」

 湊はその情報を得て、急速に脳を回転させた。

「続けろ」

 熟考しつつ話を促す。これは湊の中で確定しつつある予測の裏付けの意味を兼ねている。

「う、噂が流れてたんだ! 俺が本家を出る半年前ぐらい! 呉之依家で『人造士子コンバート・フォーサー』を造ろうとしてるっていう噂を! 言う通り呉之依家の詳しい話は知らないし、研究は専門外だからくだらない噂だと俺も思ってたんだけど……どっか引っ掛かってはいたんだ…。

 それで紅蓮奏華を出た後に哉土あにきに見付かって…『華喰悉血カグツチ』で打ち勝って、最後に刀を突き刺す直前に、呂律が回らない声で言ってたんだよ!」


『あばよ。やっぱ俺が一番だ』

 そう言い、レイゴが心臓に刀を突き立てる……寸前、



『…ゆう……し……っっっ』


 

 そう、言っていたという。


「その〝ゆうし〟がなんで『人造士子コンバート・フォーサー』って言い切れるの?」

 湊が聞くが、これも推測は立っていた。

「兄貴が二十歳ぐらいで婚約者が出来た時に話してるの聞いたんだよ! 自分の子には『勇敢なフォーサー』になってほしいって意味を込めて『勇士』って名付けようって! ……結局その婚約者が死んで独身を貫くとか言ってたんだけど…っ」

(………なるほどねぇ)

 レイゴの言葉で裏付けが取れた湊は仮面の裏で少し顔を引き攣らせた。

(理由は不明だが呉之依家に研究部門が発足し、『人造士子コンバート・フォーサー』の実験開発に取り組んだ。……その時に採取したDNAサンプルが哉土一人だけとは考え辛い。おそらく秘密を共有した紅蓮奏華上層部全員のサンプルを採取しただろうな。その噂が出始めたのがレイゴが紅蓮奏華家を出る半年前ということなら、勇士の年齢とも辻褄は合う。可能性は他にも考えられるけど、俺予想一番確率高い上にレイゴの高精度『天超直感ディバイン・センス』の保証付きだからな……もうこの線で調べるしかないか)

 そうすると、また新たな疑問が生まれてくる。

(一旦そう結論付けるとして、大きな疑問点は二つ。……一つ目が〝呉之依家の研究員〟。『聖』は呉之依家のことをマークしてる。レイゴの話は13年前の話だから、今はもっと発展してると見るべき。今日に至るまで呉之依家のそういった研究的動きに気付けなかったと考えると、意外と規模が小さい少数精鋭での研究なのか、組織単位の人員をどこかから入れたか…。ここ約十年の紅蓮奏華家全体のパフォーマンスが落ちていない以上、物理的に大人数を研究部門に割けるとは思えないよな…)

 ……そして。

(そして、二つ目の疑問が〝勇士の母親〟。……『人造士子コンバート・フォーサー』だと産みの母親はいない。面倒を見ていた女性か、DNAサンプルを提供した女性が本当の息子として愛していたのか、自分の出生の秘密を知らず勇士は本当に母親だと思っていたのか…。正直、どれでもいい。ただ勇士は母親を『聖』に殺されたと思い込んでる……はてさて、勇士の出生がそれに関わってくるのか…)

 現状だとヒントが少な過ぎて逆に様々な仮説が立てれる。

 なのでこれ以上は考えても仕方ない。

 ……湊が一旦そう結論付けると。

「な、なあ……話した………話したから……な?」

 レイゴが何かを期待した眼差しでこちらを見上げていた。

 そんなレイゴを見て、湊は淡々と思った。


(てかこいつ、勇士の父親の仇なんだよな)


 遺伝子上ではあるが、勇士の父・紅蓮奏華哉土を殺した男だ。

 脳の廃人化が進んで正常な判断ができなくなり、見逃してくれるなどという意味不明の期待を抱いている。

「安心して」

 湊は明るい声を上げる。

 レイゴの顔がパッと晴れたところに。


「お前が今まで殺した人達の何十倍も苦しい拷問が、お前を待ち受けてるから」


 はッッ!? レイゴが目を瞠り大口を開けた瞬間、屋上のコンクリートにめりこむぐらいの風圧をレイゴに落とし、激痛と共に意識を奪って黙らせた。



 かくして、『聖』第四策動隊隊長・クロッカス直属小隊による『憐山』幹部ジストのアジト襲撃作戦は、誤算が生じつつも予定外の収穫を経て幕を閉じた。

 

 最後、『憐山』アジト内の情報収集や痕跡消しなどの事後処理をして、一行はジストと捕獲したレイゴ達を連れて『聖』のアジトに戻った。


 ちなみに、湊はジストと再び顔を合した時に、

「来るよね?」

 と湊が決定事項かのように聞くと、

「お願いします」

 ジストは覚悟が決まった顔で頷いた。



 ■ ■ ■




『聖』アジト。

 ジストは大して負傷もしていないことから、早速、総隊長室で()()()()と対面していた。

 西園寺瑠璃。

『聖』の長と。

 瑠璃の両側には髪の分け方が違うだけで同じ顔の双子の女性が侍っており、ジストの隣にはスターチスが同じように佇み、口頭で今回の作戦の結果を簡易報告していた。

「……と、以上が今回の報告かのう。詳細は後ほど書類でまとめます」

 一通り聞いた西園寺瑠璃が「ええええ~」と表情豊かに口端を引き攣らせた。

「レイゴいたの…? あの変態が? きもっ」

 あまりに素直過ぎる反応にジストは目をぱちくりさせた。クールビューティーとして知られる西園寺瑠璃とは思えない態度だったからだ。

 そんなジストの気も知らず、会話が続く。

「そうじゃぞ? そのレイゴ相手にお主の娘が頑張ったんじゃぞ?」

「もうほんとそれ! よく戦ってくれたわ! 後でたくさん()でちゃうあイタッ!」

 うっとり笑みを浮かべる瑠璃の頭に空手チョップが落ちた。

「さすがに落ち着いて下さい。初対面の人の前ですよ?」

 赤茶髪のショートヘアの前髪を左に搔き分けた女性、第一策動隊隊長のスカーレットが溜息を吐きながら忠告する。

「スカーちゃんひどい! 人を子供みたいに!」

「ほんと子供っぽいところを直して下さいよ」

 瑠璃とスカーレットのやり取りに、ジストは呆然としてしまった。

(……なんだか、私が今まで散々警戒した『聖』の印象が崩れていく気分だ…)

「あはははは! めっちゃきょとんってしてる! ごめんね! いきなりこんなの見せられて驚くよね!」

 呆然とするジストに向けて、スカーレットと顔が瓜二つで前髪を右に掻き分けた女性・チェリーが笑いながら気を遣う。

 ジストはチェリーに向けて首を振った。

「いえ、確かに驚きましたけど……スターチスさんから聞いていた通り、仲が良くて素晴らしい組織なのだと、思いました」

 ジストの言葉に、室内がシンと静まり返った。

 変なことを言ったかとジストは心配になったが、瑠璃がみんなの気持ちを代表して、

「ありがとう。それが『聖』の自慢よ」

 お礼を述べた。

「貴方も『聖』に入りたい?」

 そして流れるように、ジストに対する本題へと移行した。

 ジストは瞬時にその空気を悟り、姿勢を正した。

「はい! 許して頂けるのであれば……娘の、傍にいたいです」

 クロッカスやスターチスは受け入れてくれたが、西園寺瑠璃やスカーレット達が殺人組織の幹部にどんな反応をするかわからず、ジストの言葉が尻すぼみになる。

「そうねぇ」

 見た感じ拒絶や嫌悪の感情は見えない瑠璃が、もったいぶるような仕草で言葉を紡いだ。

「うん、いいわよ。ようこそ、『聖』へ」

「………ん?」

 もったいぶる、そう思ったが、すんなり了承され、ジストはまた呆然と瞬きを繰り返す。

「ふふふっ、意外とコロコロ表情変わるのね」

「い、いやでも…こんな簡単に…」

「そもそもクロッカスにOKって言われてるんでしょ? 言っておくけど、それだって予め私が許可出してるんだからね? 今更それを却下なんてするわけないでしょ」

「…………あ、…はあ……そ、な、なるほど……っ?」

 なるほどと言いつつ首を傾げるジストを見て、隣のスターチスが「頭が追い付いてないようじゃのう」とこれまた楽しそうに言っている。

 瑠璃が姿勢を正して落ち着いた雰囲気で、ジストに告げた。

「もちろん、『聖』は誰でも受け入れるわけではない。……打算的なことを言うけど、巨大裏組織の人間でも、深恋ちゃんみたいな末端なら受け入れやすいけど、貴方みたいな幹部クラスははっきり言って〝牢獄〟か〝安楽死〟よ。……まあそもそも、裏組織の幹部が()()()心を入れ替えた例なんてほとんどないんだけどね」

「……っ」

 ジストは、何も言うことができなかった。何も言わず、瑠璃の次の言葉を待った。

「正直、クロッカスに提案された時も悩んだわ。いくら私より頭の良いクロッカスの考えでも、ここは総隊長として厳しい決断をするべきじゃないかって。……でも、ある情報を伝えられ、了承したの」

「情報…?」

 頭上に疑問符を浮かべるジストに、瑠璃が柔らかな笑みで聞いた。

「クロッカスが娘さんから聞いたんだけど、……貴方、深恋さんに小さい頃から〝人殺し〟の訓練をさせてたんだって?」

「ッッッ!! は、はい……ッ」

 目を瞑りたい過去に触れられ、ジストが顔を俯かせる。

「でも、」

 瑠璃が、優しく寄り添うように、言った。

「……悪人しか、殺させなかったんだってね」

 そう。

 ジストは確かに深恋が幼少の頃から、深恋の手で多くの人間を殺めさせてきた。

 だがそれは全て悪人。善人は、一人としていないのだ。

「それしか……っっ」

 ジストが、全身から喋る力を絞り出すように体を力ませながら、言った。

「それしかできなかったんです……ッ! いつかあの子が正規組織に保護された時…、例え『憐山』の命令でも善人を殺していたらどんな処分が下るか…どんな目に遭うかわからなかった……ッッ。もし酷いことになったら、あの子の母親に顔向けができなかった…ッ。あの子の母の意に反して殺人技術を教え込んだ私にできることは……それしか……やれることがなかった……ッッ」

 ジストの瞳からは大粒の涙が流れていた。

 それは自分の無力さが情けなくて溢れ出てた涙だった。

「もちろん、悪人でも善人でも殺しは殺し。そこを履き違えてはいけないけど……『聖』はそんな人達に居場所を与える組織でもあるからね。……貴方を『聖』に入れることに了承したわ」

 今にも泣き崩れそうなジストに、瑠璃が告げる。

「ぅ……っっ!」

 更に吹き出しそうになった涙を慌てて顔に手を当てて涙を堰き止める。

 誰かに褒められるためにやったわけではないが、自分が信じて突き進んだ道が認められ、堰を切ったように歓喜が止まらなくなってしまったのだ。

「とはいえ!」

「っ!?」

 しかしジストの感情に急ストップをかけるように瑠璃が声を張る。

 既に瑠璃を上司と認めたジストが反射的に背筋を伸ばした。

「私が認めても意味はないわ。………やっぱり最後は、この子に決めてもらわなくちゃ」

「っっ!?」

 ジストは瑠璃の言葉が終わると同時に、背後に、先程までなかった気配を感じて、振り向いた。


 ……そこには、コスモスと………深恋が、いた。


「…………ッッッ」

 イーバとの戦いで激しく消耗した深恋は意識を失っていたが、『聖』で処置を受けて目を覚ましたのだろう。

 ……そして、コスモスの無遁法アンノー・アーツで気配を消してジストの背後にずっといたのだ。

(一体いつから…っ)


「今の話、ほんと?」


 深恋が、真っすぐジストを見て、聞いてきた。

 その言葉で、ジストの言葉を全て聞いていたことが、明らかになった。

「……ほ、本当だ……っ」

『憐山』アジトで顔は合わせたが、落ち着いて話すのは今が初めてだ。

 ジストは緊張と動揺で脳や心が掻き乱されている。

 ……だけど、深恋には心の乱れが表出していない。ジスト以上に混乱してもおかしくないはずなのに。

 深恋が、口を開く。

「『憐山』に襲撃する前から聞いてたし、貴方とクロッカスの話も通信機を通して聞いてた。………それを踏まえて、一言ひとことだけ言わせて」

「あ、ああ…もちろんだ」

 深恋の只ならぬ威圧の込められた言葉に、ジストは当然だと頷いた。

 すると深恋はジストの傍まで歩み寄り、手を伸ばし、

っ」

 ジストの耳をぐっと引っ張って、自分の口元まで近付け、


「不器用過ぎッッッッ!!!!」


 鼓膜を破らんばかりの大声で叫んだ。

「んがっっ!!?」

「ほんと怖かったんだからね!? ずっと! ずっと怖かったんだからね!? なんにも楽しいことなんてなくて! 散々人を殺させて! 十刀流とかいう気持ち悪い剣術も覚えさせられて! ……でもまあそれはいいわよ。それはもう『聖』に入ると同時に『憐山』でのことは私の中で区切りつけたつもりだから。………それはそれとして! お母さんのことどう思ってるの!? 私が気絶してクロッカスが戻ってくるまでの間、スターチスさんと色々話してる時にお母さんのこと聞かれて〝好きかどうかわからない〟とか〝そういう感情がわからない〟とか〝ただあの子の母が死んで妙な喪失感があった〟とか色々ほざいてたらしいわね!? それさっき聞いてすごいムカついたんだけど! それ好きってことじゃないの!? 一丁前に大人ぶってないで認めろヘタレ!」


(((((全然一言(ひとこと)じゃない)))))


 瑠璃、スカーレット、チェリー、スターチス、コスモスが同じことを思った

 ちなみに、今の深恋の言葉の嵐を全て至近距離の耳で聞き受け止めたジストはというと。


「…………………(バタリ)」


 白目を剥いて倒れた。

「………………………はあぁ」

「落ち着いた?」

 息を吐く深恋に、隣のコスモスが聞くと。

「とりあえず、ね。………でもやっぱり色々言いたいことあり過ぎる…ていうか、今私が言ったこともなんかズレたから………また今度、みっちり付き合ってもらうわ。ふんっ」

 

 その深恋の顔は、とても生き生きしていて、コスモスや瑠璃達は思わず顔が綻んだ。



 いかがだったでしょうか?

 次話で今章終了予定です。


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[良い点] ランキングに載ってて発狂しました。ついでにここまでぶっ通しで読んじゃいました。またこの作品が読めて嬉しいです!とてもブランクがあるとは思えない読み応え、分量も多くて満足です!更新ありがとう…
[良い点] 深恋とジストの関係も何とか修復出来そうですね。深恋の側にって事は、病治した後になるでしょうが、湊の直属小隊入りすんのかな? [一言] 少しでも予測がズレていたら発動しないってことなんだから…
[一言] 更新ありがとうございまーす。 とりあえず、やりたいことを やりたいように突き進もう。 基礎があればやり直せるさー。 勇士の暗示が簡易的な敵の対象として聖を危険視 してたらどうしよう
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