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トルバスの冒険者  作者: うち
セッション2
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08話「セッション2-5 影術師フェンリルの場合」

月刊トル冒

 闘技大会Dランクの参加者は16人。

 しかし、次のレナの対戦相手は二回戦で接戦を繰り広げた後に両者とも相打ちとなった為、勝者無しに。

 つまり二回戦を勝ち抜いたレナはそのまま自動的に決勝戦へと進む事になった。


 第三回戦、第一試合。

「マール選手、フェンリル選手。闘技場へ」


 事実上の準決勝である三回戦が始まったのだが、二回戦で血達磨となってしまったレナは治療魔法を受けていた為、この試合を見る事はなかった。

 ―――とは言え。

 その戦いは一瞬で勝負が着いた。

 試合開始の合図と共に踏み込んだフェンリルがマールの鳩尾を一瞬で穿ち、文字通り瞬く間に三回戦は終わった。


 医務室で治療を受けながらレナは同じく医務室で休む仲間達と話す。

「バレッタさんとラヴィさんの仇、次で返してきますっ!」

「レナちゃん。次の対戦相手、フェンリルさんは影術師よぉ……影術を使ってくるからぁ……影に気をつけてねぇ~」

「レナ、アイツは強いよ。影で間合いが伸びる……どうやらアタイもそれにやられたみたいだ。気ィつけな」

「……レナちゃんならやれるよ、フェンリルさんとは実際に戦ってない僕はこれしか言えないですけど『頑張って下さい』」

「はいっ!皆さんの分も頑張って勝って来ます!!」


 決勝戦、最終試合。

「フェンリル選手、レナ選手。闘技場へ」

 医務室にて治療魔法を受けたレナの体に外傷は見当たらず、全快の状態、万全の状態で闘技場に立つ。

 相手はバレッタを破り、ラヴィを打ち倒した敵。


 セリアン〈獣人〉のフェンリル。

 2m強の体躯に重圧を感じさせる眼光。

 影を操る影術師、無手と言う武器を持つ拳闘士の技能を持つ。

 その攻撃は速く、重い。


 だが、人間の戦士レナも負けてはいない。

 身の丈同様の大きさを持つ大剣を軽々と扱い、一振りで悉くを粉砕する一撃を持つ。

 頑強〈タフ〉さは先の戦いで披露した通り、生半可な攻撃では勢いを衰えさせる事すら不可能。

 今大会Dクラスの中で随一のパワーファイターである事は先ず間違いない。

 ブンブンと自身の身長程の巨剣を振り回して開始位置に着く。


「試合開始ッ!」

 開始の合図と同時に矢のような速さでフェンリルが動いた。

「『影狼〈かげろう〉』」

 2匹の狼がフェンリルの影から現れ、レナに向かって疾走する。

 左右からの同時攻撃。

「どっせーい!」

 対するレナは巨剣の水平回転斬り。

 一刀で2匹の影の狼を斬り伏せる。斬られた狼達は影へと戻り、消滅するが。

「『影狼 郡〈かげろう ぐん〉』」

 その程度では止まらず、フェンリルの影から次々と狼が現れ飛び出す。

 それを見たレナはすぐに前傾姿勢になり―――。

「壱歩っ!」

 一歩、前に出て袈裟掛けに狼を斬る。

「弐歩っ!!」

 二歩、更に前進して次の狼を逆袈裟で弾き飛ばす。

「参歩ッ!」

 三歩、大きく踏み込んで巨剣の横薙ぎを狼に喰らわせる。

「疾ッ!!」

 四歩、大地を蹴り砕いて一気にフェンリルの懐へと、跳ぶ。

「剛ッ!!!」

 五歩、肩に背負うように持ち構えた巨剣を勢いそのままに、振り下ろす。

「ッ!!?」

 弾丸のような速度で飛び込んできたレナに一瞬だけ驚いたフェンリルは腕を交差して防御の姿勢を取る。

「『影装〈えいそう〉ッ』!」

 フェンリルが防御〈受けてくれる〉ならレナも望む所、全身全霊を掛けて振り被った巨剣がフェンリルを捉え―――。

 轟音と共に闘技場のタイルが弾け、フェンリルは後方へと吹き飛ばされる。


 砂埃の中から立ち上がったフェンリルは黒かった。

 そう、“黒かった”としか例えようが無かった。

「影の鎧……?」

 灰色だった毛が真っ黒に、漆黒に染まり、ゆらりと立ち上がる様は幽鬼のそれと同じ。

 見る者の怖気を促す迫力を醸し出す。

 そして、影を纏ったフェンリルが無言のまま前傾姿勢を取る。

「ッ……!(来るッ!!)」

 フェンリルが唸り声を上げたのと、闘技場の床が弾け飛ぶのは殆ど同時だった。

 驚異的な瞬発力で間合いを詰めたフェンリルが影を纏った爪でレナを両断する。

 フェンリルの挙動が殆ど無動作〈ノーモーション〉だったにも拘らず、レナは巨剣で漆黒の爪を受け止める。

 無論、その場に留まれずに剣を構えたまま後退させられはしたが、なんとか受け止める事が出来た。

「うぅぅぅ、速くて、重い………」

「グゥ……ガァァァッ!!!」

 吼えながら一歩下がり、爪を使っての貫き手―――巨剣の腹で受ける。

 地を蹴って、空中で横に回転しつつの後ろ回し蹴り―――巨剣を横に構え、受ける。

 勢いを殺さずに更に回転し、二段回し蹴り―――巨剣の角度を変え、受ける。

「防ぐだけで精一杯なんて、あたしの戦い方じゃないよねっ!」

 そもそもあたしは防戦が得意じゃない!

 元より一撃粉砕が彼女のスタイルなのだ。

 叫び、一瞬の溜めの後の―――。

「『地平薙ぎ』!」

 横薙ぎ一閃。

 手応えは皆無、一瞬で反応したフェンリルは即座に間合いを外す。

 そして、

「『影装 集〈えいそう しゅう〉』」

 全身を覆う影がフェンリルの右腕に集まる。

 黒い影がフェンリルの右腕へ移動する。

 影が集う右腕が徐々に大きく、禍々しく変貌していく。

「すごい……」

「フゥー、フゥー……フゥー……これで……一気に片付ける」

 荒々しい息を落ち着かせながらフェンリルは変貌した右腕を振り被る。

「これで決着ですね。あたしの剣と貴方の爪、どちらが強いか……」

 巨剣をゆっくりと大上段に持ち構える。

「フゥッ!」

「勝負ですっ!!」

 フェンリルが息を吐くと同時に振り被った右腕をレナに叩き付ける。

 爪で切り裂くのではなく、叩き付けると言った方が正しい。

 そう、だからそれはあまりにも力尽く過ぎた。

 力対力なら、とレナもそれを望み、それを真正面から受ける。

「『大地砕きッ』!!」

 純粋な力と力がぶつかる瞬間―――。

「えっ……!!?」

 ―――僅かにレナが体勢を崩す。

 巨剣を振り下ろす際に、レナの足元から影の狼が飛び出し、レナの足に噛み付く。

 通常ならその程度の攻撃ではレナの突進は止まらない。


 油断したつもりはない。

 だが、余りにもタイミングが悪すぎた。

 集中しなければならない技と技のぶつかり合いの瞬間に意識外からの攻撃。

 来ると分かっていれば耐えれる攻撃を無防備に受けてしまっただけ、たったそれだけなのだが、レナは大きく体勢を崩した。

 敵の、フェンリルの大きく変わった右腕に気を取られ過ぎたっ!!


 体勢を崩せばどんな技も満足に出せる筈がない、ましてや全力を出し切る技ならば尚、出せる筈が無いのだ。

「くッ!!」

 体勢を立て直した時には既にフェンリルの巨腕は目前まで迫っており―――。

 その後の事はレナの記憶からぶっつりと途切れている。


 結局、巨剣と影の巨腕のぶつかり合いは影の巨腕の勝利と言う事で幕を下ろし、大闘技大会Dクラスの優勝者はフェンリルとなった事を試合後、意識が戻ったレナに伝えられた……。




レナ:戦士技能Lv3

バレッタ:軽戦士技能Lv4、斥候技能Lv4、野伏技能Lv3

クロ:戦士技能Lv2、神官技能Lv4、付加師技能Lv3、学者技能Lv1

ラヴェンナ:魔術師技能Lv3、学者技能Lv1

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