05話「セッション2-2 大闘技大会の場合」
大闘技大会はトラン王国国内で一年に一回開催される祭りである。
開催場所はランダムに決定し、今年は魔法都市トルバスが選ばれる。
尚、大会では力量差を減らす為に階級別に分かれており、A~Eクラスの5階級に分けられる。
「確実にと思ってEクラスの優勝を狙ってたけど、まさか鑑査で階級分けしてるなんてね……」
「全員Dクラス。つまり決勝戦で会おう! ですねっ! あたし、負けませんよー!」
「私ぃ、優勝したら新しい魔道書を買っちゃおうかなぁ~ふふふ~」
「ふっふっふ残念ねぇ、優勝はアタイのモンだからねぇ、こればっかりは譲れないねぇ」
「レナちゃんもラヴィさんもバレ姐さんも……これ以上フラグを立てるのは止めて下さいよ!」
やる気満々の三人の横でクロは深い深い溜め息を吐いた。
低階級から順当にカリキュラムは進み、闘技大会三日目。
Dクラスの大会が始まる。
大会形式はトーナメント、第一試合、第二試合も終わって、第三試合。
「第三試合。ラヴェンナ選手、プルコ選手。闘技場へっ!」
「はぁい~」
選手待合室でラヴィの気の抜ける声が響く。
「ラヴィさんっ頑張ってくださいねっ!」
「アタイ等の一番手として頑張ってきなっ!」
「油断せずに全力でやれば大丈夫です。ラヴィさんならやれますよ」
それに続いてレナ、バレッタ、クロが励ます。
「はい~頑張ってきますよぉ~」
そんなラヴィの様子を見ていた巨漢が近づいてくる。
「ほほっ、オラの相手さオンナっ子だか? へっへぇ~オラ、ノッケからツいてるみてぇだァな~」
ラヴィの後ろに立ち、下品な笑いを隠しもしない巨漢がラヴィを見下す。
「むっ。そんなのやってみなくちゃ分からないじゃないですかっ!」
それを聞いてレナが激昂するが。
「あぁレナちゃん、このヒトは単純にフラグを立ててるだけだから気にしないであげて」
「え? え?」
「クロ……アンタは時々訳の分からない事を言うねぇ……」
「いやぁ、僕の言う事はあながち間違ってないと思いますよ?」
クロの言ってる事はイマイチ分からなかったが、その表情を見る限りクロもラヴィの勝利を信じているようだった。
異様な熱気を醸し出す闘技場にラヴィは立つ。
対するプルコは剣と盾を持つ、鉄の鎧を着た大男。
「うえっへっへぇ~降参するならァ痛くしねぇだァよ」
プルコの下卑た笑い声と共に試合が始まる。
「それでは試合開始!」
ぎゅっと握った杖に魔力を集中させる。
「我が前に歯向かいし愚かな者へ『炎の壁』を!」
ラヴィの短縮詠唱〈クイックスペル〉が終わり、術式に従って杖の前に炎が発現し―――杖を振るってその巨大な炎を放った。
下卑た笑い声を上げていたプルコの目前を焼き焦がす。
「……は?? う、うおわあぁあぁぁぁぁ!?」
プルコは驚いて後ろに下がるが詠唱付きの火力の所為で前髪が黒焦げになる。
「次はぁ~外しませんよぉ~?」
プルコの驚く時間を一瞬与え、ラヴィは2発目の詠唱し―――。
「ちょ、待っ! こっ降参っ! 降参だべぇぇぇっ!」
が、プルコが両手を挙げて降参し、試合は終了した。
「ほらね?」
「………あークロ、ラヴィってあんなに火力あったっけ?」
引き攣った笑みを顔に貼り付けたバレッタはクロに聞く。
「はい。前衛で戦ってるバレ姐さんじゃあまり印象に残ってないと思いますけど、ラヴィさんは最初からあんな感じですよ?」
「あっちゃあ、こりゃホントに最大の敵は味方になりそうだねぇ……厄介なのはレナだけかと思ってたけど、こりゃあ気を引き締めないとねぇ」
「そうかもしれません。1試合目と2試合目の試合を見てたんですけど。僕達の実力はDクラスの中でも結構上の方みたいですね……」
「えぇっ? そうなんですか!? 強い人と戦えると思っていたのにー」
話を聞いていたレナが残念そうに項垂れる。
「……ちっ。さぁてどうしたモンかねぇ」
バレッタが舌打ちをした所で試合を終えたラヴィが戻ってきた。
「皆ぁ~」
ラヴィさんが胸を……ぁ、いや、間違えた。腕を振りながら待合室に戻ってきた。
「ラヴィさ~ん、お疲れ様です」
「……こりゃ奥の手は隠さないといけないかもしれないねぇ」
「ラヴィさん、カッコ良かったです~!」
「ふふっありがと~」
何かを思案するバレッタを放って皆でラヴィを褒めているのも束の間。
「第四試合。フェンリル選手、バレッタ選手、闘技場へ!」
ラヴィに引き続き、バレッタが次の試合に呼ばれる。
「げっ、アタイが第四試合って事は2回戦はラヴィとじゃん。アタイもくじ運悪ぃねぇ……」
「いやいや、バレ姐さん。まだ初戦で勝ったわけじゃないんですから油断しない方が……?」
「そうですよ~バレッタさん。油断大敵ですっ!」
「大丈夫大丈夫、油断をするつもりはないよ。賞金貰うまでが大会だからねぇ」
「そんな遠足じゃありませんって!」
「クロ! 男の癖に細かい事は気にしないっ! まぁ、ちゃっちゃと決めてくるから心配すんなって。はっはっは~」
なんて剛毅に笑って、バレッタは無い胸を張って闘技場へと向かった。
「……おいクロぉ? 今アンタから不快な念を感じたわねぇ、後で覚えておけよ?」
「え、えぇぇぇ!? 間違ってないけどなんか理不尽ですよっ!?」
バレッタの頭に巻いたバンダナが闘技場の熱気に圧されて棚引いている。
対戦相手は灰色の体毛で背は高く(2m程度)、無駄のない引き締まった体をしている。
相手は狼の男セリアン〈獣人〉だ。
無手で両拳を握り締めている事から拳闘士だと言う事が伺える。
「ふぅん。セリアンの身体能力を活かしての拳闘士って事かい」
「………」
バレッタの言葉は聞こえている筈だが、フェンリルは寡黙を貫く。
「それでは、試合開始っ!」
自分の話を無視されたのが頭にキたのか、バレッタは開始の合図と同時に地を蹴った。
「コロポックル〈小人〉の敏捷さを思い知らせてやるよっ!」
一足飛びに距離を詰め、2対の短剣を交差させる―――。
「誇り高いのか知らないけど、お高く留まってんじゃないよっ!」
フェンリルの胸を×の字に切り裂く。
しかし、目の前に居た大きなセリアンの男を見失い、短剣は空振った。
目の前に居た筈のあの男が居ない!?
その代わりに真上から影が差し、目を細めたところに大降りの踵落としが振り下ろされる。
「ッ!?」
寸前で短剣で防いだが、バレッタとフェンリルが打ち合う。
コロポックルはその短身にも関わらず力は強いが、それでも亜人随一の力を持つセリアンの身体能力には及ばない。
力が拮抗したのは一瞬―――。
「いっ痛ぅぅぅっ!」
闘技場の床が砕け、バレッタは闘技場の端から中央まで飛ばされる。
更にフェンリルはよろけるバレッタに追いつき―――拳を振り下ろす。
「墳ッ!」
咄嗟に身体を捻って躱す。
「まだ、まだぁっ!!」
コロポックルの矮躯を更に小さく、屈み込んで、フェンリルの懐に潜り込む。
左手の持ち手を逆手に右手を順手に持ち替え―――。
「『啄木鳥〈きつつき〉』ッ!!」
フェンリルの左脇腹目掛けて、豪雨のような刺突の嵐を繰り出す。
一撃一撃の威力は低いが、高速の刺突が回りに回る。
「くっ!」
脇腹への攻撃を受け、堪らず距離を取ったフェンリルに、今度はバレッタが追撃を掛ける。
それを読んだのか、待ち構えるフェンリルは右腕でアッパー気味のカウンターブローを放つ。
焦って放った所為か、間合いが甘い。
「(こりゃ直前で一歩引いて詰みかねぇ)」
バレッタの思考は一瞬、後は冷静に間合いを計って―――避ける。
完璧なタイミングで一歩引き、空振った隙に仕留める。
「―――な」
だから次の瞬間、バレッタは何故自分が闘技場に仰向けで倒れているのかが理解出来なかった。
「え、あれぇ?」
疑問符を浮かべたまま呆然としたバレッタは対戦相手のフェンリルを眺めながら、意識を途切れさせた。