04話「セッション2-1 鬼の場合」
レナ、バレッタ、クロ、ラヴィの4人がパーティを組んでから数ヶ月。
4人の冒険者達は数々の依頼をこなしていった。
大陸の北部、ガルド山脈の山道で人間の2~3倍ほどあるオーガ〈鬼〉が雄叫びを上げる。
「敵はオーガ3匹! バレ姐さん、僕が『韋駄天の足輪』を付加するから先行して突撃を!」
「あぃよっ!」
バレッタが両足に力を溜め、深い踏み込みの後。
「我が求めるは神速を尊ぶ『韋駄天の足輪』っ!」
クロの詠唱が終わり、バレッタは爆発的な速度を得てオーガの群れへと突っ込む。
「ラヴィさんは詠唱をっ! レナちゃんには今から『剛力の腕輪』を付加するからもう少し待ってね」
「はぁい~」
ラヴィはにこりと笑って同意し、詠唱を開始した。
「お願いしますっ!」
コクリと頭を縦に振って、巨剣を正眼に構える。
「我が求めるは怪力を得られる『剛力の腕輪』っ!レナちゃん、突撃ぃっ!」
レナに筋力増強の魔法を掛ける。
「はいっ!」
風のように切り込み、舞うように避ける。
バレッタの剣舞のような攻撃に3匹のオーガは翻弄される。
「木偶の坊が何匹集まったって、アタイは捕まえられないよっ!」
「ウガァッ!」
オーガがバレッタの声に反応して大木のような腕を叩きつけるが空しく空を切る。
空振り後の無防備な急所に弾雨の如き刺突が襲い掛かる。
「秘剣『啄木鳥〈きつつき〉』っ」
タフなオーガであっても急所を的確に連打されれば一溜まりも無い。
瞬く間に血達磨に変わったオーガ1匹が倒れる。
「ハッ、一丁あがりっと」
「詠唱完了ぉ~『炎の蛇』ぃ~」
突き出した右手が発火し、蛇を模った炎がバレッタに気を取られているオーガに巻きついた。
「ゴガァァァァ」
オーガは全身に巻きついた炎の蛇に焼かれながらも手に持っている棍棒をラヴィに向かって投げる。
投擲された棍棒は回転しながらラヴィに向かって飛来する。
「我が求めるは悉くを拒絶する『聖なる盾』」
ラヴィに直撃する寸前、クロの唱えた光の盾が回転する棍棒を弾いた。
「ガルゥォォォォ!」
やがて炎の蛇はオーガの全身を焼き尽くし、煙を上げながらオーガは力尽きて倒れる。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
レナは大声を上げながら最後のオーガに突貫する。
「ゴオォォォン」
それだけの大声を上げているのだ、オーガが気付かない筈も無く、リーチの差を活かして横薙ぎに棍棒で薙ぎ払う。
人間のレナとオーガ(鬼)の身長差は2~3倍ほど、その棍棒の一薙ぎで人間一人を潰すのは余りにも容易い。
だが、レナはそれを真っ向から立ち向かう。
「『天空割り』ぃぃっ!」
両手で握った巨剣を下から上に―――全力で斬り上げる。
オーガの持つ巨大な棍棒とレナの持つ巨剣がぶつかる。
剣戟は一回。
上方に弾け飛ぶ棍棒と振り抜けた巨剣を見れば、どちらの力が上だったのかは一目瞭然。
確かにクロから剛力の腕輪を付加して貰ったが、それでもオーガと力比べをしようなんて普通は考えない。
それでも勝ったのはレナで、武器を無くして無様に立ち尽くすのはオーガである。
そしてオーガは未だに無傷で。
オーガの眼前に飛んだレナは顔面を狙い―――。
「『大地砕き』!」
巨剣を振り下ろした。
自分の棍棒を真っ向から弾き飛ばす巨剣の一撃を食らえば一溜まりも無いのは言うまでも無く、オーガはその一撃を受け、倒れた。
「よぅしっ! これにて討伐依頼完了ですっ!」
「それよりアンタ達も探しなさいよ!お宝ちゃんは何処に眠ってるのか分からないのよ?」
「お疲れ様です皆さん。いやぁ、皆強くなりましたよね~」
「ふふふ、またそんな事言ってぇ~クロ君の援護のお陰ですよぉ~」
「僕のは飽くまでも補助ですから……皆の自力の賜物ですってば。ぁ、バレ姐さん、手伝いますよ」
ラヴィに手を握られてクロは慌て、赤面しながら目を逸らし、ぺこぺこ頭を下げながらバレッタの宝探しを手伝いに走った。
無事にオーガ討伐も終わらせ、冒険者達は宿へと帰還する。
冒険者達がパーティを組んで数ヶ月、力量もそこそこ中堅に差掛かろうとして来た頃。
魔法都市トルバスのとあるイベントのチラシが冒険者の宿『雨地亭』に届いた。
「……大闘技大会ですか?」
「そうさ、アタイ達もオーガ程度の蛮族は倒せるようになった事だしね。そろそろこう言うのに出て、お金を……じゃなくて力を試す時さね」
「でもこれって個人戦ですよね? 僕みたいな神官には関係ないですよ~」
「アンタは自己強化して戦えるでしょうが!」
「でもでも、自分の力量を測るには良い機会かもしれないですねっ!」
「流石レナ、話が分かるねっ! ラヴィも自分の魔法が何処まで通用するのか試してみたいんじゃない?」
「う~ん、そうねぇ~レナちゃんも出るみたいだからぁ~私も出ますよぅ~」
「うぇえ!? 予想外に皆やる気ですね!?」
「こんなお金になる事を今やらないで、いつやるってのよ!」
「……バレ姐さんは結局賞金狙いじゃないですか!」
そうやって話は纏まり―――僕はあまり納得していないのだが―――僕達、4人の冒険者は魔法都市トルバスの大闘技大会に出場が決定した。