03話「セッション1-3 子鬼の場合」
入り口にあった簡単な罠以降は特に変な仕掛けもなく奥へと進んでいく冒険者一行。
少し進むと左右への別れ道に差し掛かる。
「さぁて、どっちに行く?」
松明を持った先頭のバレッタが全員に聞く。
「そうですね…どっちかから物音が聞こえたりしてませんか?」
「いいや、何も聞こえないねぇ。ここは運任せで良いと思うけど?」
「私は右が良いと思いますぅ~」
「じゃああたしも右でっ!」
「うん。それじゃ右に行きましょうバレッタさん」
「あぃよ、警戒しながらゆっくり進むからな」
「はい。お願いします」
冒険者一行が右に進むと、通路から部屋のように広がっている所に出る。
中は暗くなっていてよくは見えないが、確実に何かが居る気配があった。
「何か居るみたいだ……全員準備しなっ」
バレッタは短剣を構える。
「親玉ですかね?」
クロは槌矛を握る。
「さっきは不意打ちを受けて活躍できなかったけどぉ、今度はちゃんと私の魔法見せてあげるわよぉ~」
ラヴィは杖を前に向ける。
「あたしが突撃するので前方に松明を投げて合図を下さいっ」
レナは背負った巨剣を担いだ。
「それじゃいくよっ!」
バレッタが松明を放り投げる。
同時にレナが地を蹴った。
「グゴッ!?」
放り投げた松明に照らされ、2体のホブゴブリンと4体のゴブリンが冒険者達を見つけるが、飛び込んだレナが剣を振り下ろす方が速い。
「どっせぇぇい!」
「グキィ!!」
一番前に居たゴブリンが巨剣に吹き飛ばされ、戦闘が始まる。
更に先制を取ったのはバレッタ。
レナの脇を通って2対の短剣を無防備なゴブリンへと奔らせる。
「ギギッ!」
それに怯んだ隙を利用して後退する。
「蝶のように舞い、蜂のように刺すっ! これがアタイ等、コロポックルの戦い方ってヤツさね!」
バレッタから攻撃を受けたゴブリンが棍棒を持ってバレッタに襲い掛かる。
素早くステップを踏み、動くバレッタを捕らえきれず棍棒を空振りさせ、更に切り刻まれてゴブリンは倒れた。
「早くも2体ねぇ、よぉし私もいくわよぉ~『魔力の弾丸』」
魔術師が使う魔法。
上流階級〈貴族〉―――他にも魔法の才能が芽生えるものも居るのだが―――の者が使える不思議な力。
神聖魔法とは別系統で純粋な魔力を術式で変換し、行使する術である。
両手で持つ杖から集中した魔力が2発、勢い良く放たれ―――。
―――レナに攻撃しようとしていたゴブリン2体に命中して爆ぜる。
「レナちゃんもバレッタさんも凄いけど、ラヴィさんも凄い……」
「ギィッ!」
「ゴゴブッ!!」
後ろのホブゴブリン2体が叫びながらレナに向かって棍棒を振り下ろす。
咄嗟に巨剣で防ぐが大型の棍棒の2連撃には耐え切れず、レナは後ろに弾かれる。
すぐに立ち上がろうとするが、ダメージが大きくレナは剣を杖代わりによろよろと立ち上がる。
「大丈夫レナちゃん!? 今回復させるからね!『治癒の光』!」
「アタイがあいつ等をかき回すからラヴィは援護頼むよっ!」
「は~いぃ~!」
すぐにもバレッタは飛び上がり、擦れ違いざまにホブゴブリンの肩口を切り裂いた。
「さっきより魔力を集中しちゃうわよぉ~」
ラヴィの持ったスタッフの先が魔力で輝く。
「ゥガ?」
その光に気付いたもう1体のホブゴブリンが反転してラヴィの所へ走る。
「させませんっ!」
クロから回復を受けたレナが間に入ってラヴィを庇う。
ホブゴブリンは突進の勢いを殺さずにタックルでレナを跳ね飛ばそうと―――。
「まだ回復が終わってないのにっ! 『聖なる盾』!」
咄嗟の判断でクロはレナに槌矛を向ける。
レナの前に神の盾が召喚され―――ホブゴブリンの身体を受け止める。
「ゴッ!?」
「ふっふっふー、悪に屈する正義は無いのですっ!」
レナが振った巨剣で体勢を崩したホブゴブリンに対して―――。
後ろに居たラヴィの詠唱がが完了する。
「いくわよぉ~『魔力の槍』っ!」
杖から閃光が迸り、ホブゴブリンを貫く。
「グ、アァァ………」
槍状に集中させた魔力の直撃を受け、ホブゴブリンは力無く崩れ落ちる。
「やったぁ倒したぁ」
「よしっ!次ぃ!」
「バレッタさんは!?」
「遅いから当たりゃしないけどさぁ! その代わりに堅いんだよっコイツっ!!」
言ってる傍から大降りされた棍棒がバレッタの立っていた場所を叩く。
「チッ、『燕返し』ッ!」
棍棒を寸での所で躱し、下から奔る短剣がホブゴブリンの棍棒を綺麗に切断する。
「グガッ!?」
「へっ、ザマァ見ろってんだ!」
「フ、ギッ!!」
棍棒を無くしたホブゴブリンが素手でバレッタを追うが軽々と避けられる。
「遅いよっ!」
「今助けますっ!」
巨剣を握りなおしてレナが駆け出す。
「僕も行きます!」
槌矛を片手にレナに続くクロ。
「私は少し休憩ぇ~」
ラヴィは後方待機。
「僕も一応このパーティの男一点! ここがドワーフの打撃力を見せる時!」
クロは槌矛を振り被り、ホブゴブリンに突進する。
「これがあたしの全力全開っ!」
レナは両手で握り締めた巨剣を大きく振り被る。
風を切る音が聞こえ―――。
次の瞬間、轟音と共に最後のホブゴブリンがうつ伏せに倒れた。
「………は?」
僕は思わず声が裏返ってしまった。
いやぁ、後ろからの攻撃だったからって人間がそこそこ大型のホブゴブリンを一撃で倒しちゃ駄目だよ?
「………あ、え?」
クロは槌矛を振り被ったまま、唖然と立ち尽くす。
「一撃ぃ粉っ砕っ!」
「レナちゃんすご~い!」
「えへへっ、そんな事無いですよ~」
「……なんか、アンタって凄く苦労しそうよね」
バレッタに優しく肩を叩かれるクロは振り上げた所在をなくした槌矛をゆっくりと下ろした。
「それを言わないで下さいよ~バレッタさん。更に惨めじゃないですか~」
部屋の中の全てのゴブリンを倒した後、盗賊のバレッタが部屋の探索を始める。
「さぁ~て、お宝ちゃんは~っと♪」
部屋の隅々を探していると、端の方で鈍く光る鉄の箱を見つける。
「よし! こりゃお宝ちゃんだねっ!」
注意深く箱を調べるが、罠は見つからず苦もなく箱は開いた。
「そしてぇ、中には金銀財宝が……って空ぁ!?」
箱の中は空っぽ、広がる空洞、途方もないガッカリ感。
洞窟や遺跡などの宝箱には何かしらの中身が伴うのが常識である。
「……先に誰かに取られたのかねぇ」
「いや、普通にゴブリン達じゃないですか? まぁ、そういう事もありますって、元気出してくださいよバレッタさん」
さっきの仕返しとまではいかないが、今度はクロが優しくバレッタの肩を叩いた―――生暖かい眼差しで。
「あっ! ならさっきの分かれ道を左に行くよ! 多分、そっちにゴブリンが残ってる筈さねっ!」
「確かに……まだ調べる必要はありそうですが……他の二人はどう思います?」
「あたしも調べた方が良いと思いますっ! 残ったゴブリンが村を襲ったら意味がありませんからねっ!」
「私もまだ余力はあるしぃ、行きましょうかぁ~」
目的が完全にトレジャーハントになってしまったが、冒険者達はもう一つの道へと進む事にした。
洞窟を戻った冒険者達は分かれ道の左側へ、少し進むとさっきの部屋と同じような開けた場所があり、奥に居たゴブリンファイターと目が合う。
「ヌ!? シンニュウシャカ! アイツラ ミハリヲ サボッタナ!!」
ゴブリンは驚きながらも、すぐに手元に置いてあった両手斧〈バトルアックス〉を持ち、冒険者に襲い掛かった。
「喋るゴブリンだろうが先手は頂きさねっ!」
バレッタが素早くゴブリンの脇を抜け、通り様に短剣で斬り付ける。
両手斧で薙ぎ払うがバレッタには掠りもしない。
通り抜けたバレッタは斧を持ったゴブリンの後ろを取り、更に攻撃を仕掛けようとして―――。
「バカメッ!」
背後から杖を持つゴブリンの魔法を受け、吹き飛ばされる。
「しまっ!? く、ぁ……」
自身に魔力が無い代わりに魔法抵抗力は高いコロポックル族でも流石に不意を撃たれての魔法の直撃は耐え難く、バレッタは壁に叩き付けられて、そのまま倒れた。
「タダノ ゴブリントハ チガウノダヨ!」
「バレッタさん!!?」
倒れたバレッタの元へ走ろうとするレナをクロが引き止める。
「バレッタさんは僕に任せて、レナちゃんは斧を持っているゴブリンを抑えて! ラヴィさんはその援護を頼みますっ!!」
「分かりましたクロさんっ!」
「それじゃあ、私もぉ~大技いきますよぉ!」
巨剣と両手斧が真っ向でぶつかり合い、激しい剣戟が響く。
レナとゴブリンの乱戦の脇を通り抜け、クロはバレッタに回復を掛ける。
「『治癒の光』! バレッタさんはここで休んで。僕があの魔法を使うゴブリンを叩き伏せますっ!」
バレッタを庇いながら杖を持つゴブリンに向かって突進する。
「クラエッ!」
突進するクロに対して魔弾が連射されるが、その程度で盾を構えたクロの突進は止まらない。
自分の間合いまで接近し、そのまま右手に持った槌矛をゴブリンに全力で振り下ろした。
「これがドワーフのタフさと打撃力だぁぁっ!」
重い槌矛の一撃をゴブリンシャーマンに浴びせる。
「グア!」
堪らずゴブリンシャーマンがよろけた所に―――。
「貰ったよっ!!」
クロの後ろで倒れたまま、バレッタが投擲した短剣がゴブリンを追撃し、止めを刺した。
「そんなぁ!? 僕の活躍の場がぁ!?」
「ここは不覚を取られたアタイに花を持たせたと思って諦めなっ」
「……うぅぅ、はい」
その一方で斧を持ったゴブリンと対峙したレナ達は―――互いに足を止め、重い剣戟を打ち鳴らし、拮抗した力を持つレナとゴブリンは鍔迫り合う。
その戦いに終止符を打つのはラヴィ。収束した魔力を炎へと変換して撃ち出す。
「レナちゃん避けてっ! 『烈火の槍』ぃ!」
ラヴィの声に反応してレナが身を捩る。
長い棒状の魔力がゴブリンファイターの脇腹を貫き、燃やす。
「ギャアアア」
全身を焼かれながら、重々しい両手斧と一緒にゴブリンは壁まで吹き飛ばされ、倒れた。
「ふぅ~、皆お疲れ様ぁ~」
と、皆に笑い掛けるラヴィ。
「援護ありがとう、ラヴィさん!」
巨剣を背中に背負い直すレナ。
「はっふぅー。お、終わった……」
全力で溜め息をつくクロ。
「お疲れさん、クロも最後は中々カッコよかったじゃない?」
回復の光を浴びて立ち上がるバレッタ。
「あれっ? ……そういえば戦闘終了のファンファーレが鳴りませんね?」
「いやいや、鳴らないから! それと別にレベルアップしてもファンファーレとかないですよ!」
洞窟内のゴブリンを全て倒したのを確認したバレッタはそわそわと部屋を見渡し始める。
「さぁてっと、この部屋にはあるよね?流石にあるわよねぇ?」
バレッタは突然笑顔になり部屋の隅を調べ始める。
「? 何があるんですか?」
そんなレナの問いに―――。
「勿論、お宝ちゃんに決まってるじゃない!」
堂々とそう答えたバレッタさんは今日一番輝いていたと思う、絶対。
隈なく調べあげた結果―――特に何も見つからなかった。
「嘘ぉ!? ここは何かあるでしょ普通?」
「バレッタさんこれ以上探しても何も出て来ませんって、諦めて帰りましょう」
「嫌だっ! ダンジョンにはお宝ちゃんがなきゃ、いーやーだー!」
「そんな事言っても無い物は無いんですから、帰りますよっほらっ!」
中々諦めないバレッタをクロが引き摺りながら、冒険者達は洞窟から出た。
依頼を終えた、冒険者達は村へと帰ってモルド村の村長に報告して報酬を貰ってトルバスへと足を向けた。
「お宝ちゃんは見つからなかったけど、パーティ結成して初めての依頼にしちゃ上出来かねぇ……」
「そうですよバレッタさんっ! 次がありますよ次がっ!」
「そぅねぇ~。次も皆で頑張りましょ~」
冒険者達は無事、魔法都市トルバスの冒険者の宿『雨地亭』へと帰り、モルド村での依頼を終えた事を報告した。
これでパーティを組んで最初の依頼の終了したのだった。
レナ:戦士技能Lv2
バレッタ:軽戦士技能Lv3、斥候技能Lv3、野伏技能Lv3
クロ:戦士技能Lv2、神官技能Lv3、付加師技能Lv2、学者技能Lv1
ラヴェンナ:魔術師技能Lv2、学者技能Lv1




