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トルバスの冒険者  作者: うち
セッション3
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11話「セッション3-3 エルフの集落の場合」

 アリエルの集落の前で待っていたのは闘技大会で雌雄を決したセリアン〈獣人〉のフェンリルだった。

 冒険者達は闘技大会でフェンリルと会った旨をアリエルに話した。

「この依頼の依頼料の為に闘技大会に出していたから有名になるとは思ってたけど、まさか対戦相手だったなんて凄い偶然ね……」

「……成る程、それでフェンリルさんは闘技大会に出てたんですね」

「はい。援護主体の私が出る訳にもいかないので仕方なくフェンに頼んだんです……」

「でもお互いの技量が分かってた方が連携も取りやすいですし、結果的に良かったですよ」

「そうですねっ! フェンリルさん、今度は仲間としてよろしくお願いしますっ!」

 クロのフォローにレナが乗り、笑顔で握手をしようとフェンリルに手を差し出す。

「……俺は姫の頼みだから仕方なく協力はするが、お前らと馴れ合う気は無い」

 フェンリルはレナの横を素通りして、アリエルの方へ歩いていく。

「……あ」

「チッ……感じ悪いねぇ。あんまり気にするなよレナ。元々セリアンは他種族に友好的じゃないからね」

「………はいぃ」

 肩を落としたレナを慰め、バレッタはフェンリルを睨む。


「もうっ、フェン! こっちが依頼してる方なのよ? ……ごめんなさい。フェンも悪気がある訳じゃないの」

「はははっ。つい最近戦ったばかりですからね……仕方ないですよ」

 間を持たそうとクロは苦笑いをしていると、近くの草むらから小さなエルフが出て来る。

「ん? エルフの子供?」

「アリエルぅ~!」

 言うが早いかアリエルに飛び付いて抱き締める。

「な、ティル!? ダメじゃない! 集落から出ちゃあっ!」

「フェンリルが居るから大丈夫だって。それにボクだって少しは戦えるしさ!」

 ティルと呼ばれたアリエルに良く似たエルフの男の子は嬉しそうに舌を見せておどけてみせる。

「ったくアリエルの言う通りさ。こんな夜にガキが出歩くもんじゃないよ」

「……煩いなぁ、お前だってガキだろ」

 説教する小柄なバレッタを見てティルが煩わしそうにそう言い返す。

「こらっティル! ……すみません弟まで失礼を」

「…………はは。子供のする事だ、気にしちゃいないよ」

「フンッ、ボクより小さいヤツにガキ扱いされたくないねっ!」

「ほぉ、言うじゃないか」

 その言葉にカチンと来たのかバレッタの眼光が鋭くなる。

「あぁ言うね! こんなチビや粗野なドワーフになんか世話にならないよっ!」

「ンだと、このガキぃっ!」

 売り言葉に買い言葉、ティルとバレッタは互いの服に掴みかかるが、すぐにアリエルとクロに抑えられる。

「弟が粗相を……本っ当にごめんなさいね」

「あははは……こちらこそバレ姐さんがすみません」

 バレッタとティルを引き離しつつ、冒険者達はアリエルの家へと招かれる。


 アリエルの家はその集落の中では一番大きくそして一番奥に造られており、かなり高い地位である事が伺われた。

 集落の人口は50人程度、奥にあるアリエルの家に着くまでに住人のほぼ全員に挨拶をされた。


 そしてアリエルの家に用意されていた食事に冒険者達は驚く。

「うわぁ~これ凄いご馳走ですよっ!?」

「本当ねぇ~、美味しいわぁ~」

「ふふっ、馬車で移動中の時も思ってたんですけどアリエルさんって食べるのが好きなんですね。見てて気持ち良くなるぐらい清々しい笑顔になってますよ」

「えぇっ!? そ、そんな事無い……と思う、よ?」

「(……焦るアリエルさん、萌え)」

 慌てるアリエルを見て、クロはニヤける。

「でもアリエルは今までアタイ達と一緒に居たのに誰がコレを作ったんだい? さっきのガキは作れそうにないし……」

「……フェンでふよ?」

 ポテトサラダを頬張りながらアリエルは答える。

「えぇっ!? これ、フェンリルさんの料理なんですか!? 僕も少しは作りますけど、この料理は店で出せるぐらい美味しいですよ!」

「ぷっくくくっ、あんな厳つい見た目してるのにっ、こんな料理をねっ! くくくっ」

「笑っちゃ失礼ですよ、バレ姐さん」

「ふふ、意外でしょう? でもフェンは私より家事全般そつなくこなすのよ?」

「……姫、そこは自慢するところじゃない」

 溜め息混じりにフェンリルはそう言って、恥ずかしそうに頭を掻いた。

「おかわりですっ!」

 力強く差し出したお椀をフェンリルは受け取り、シチューをよそった。

「レナさんは元気ですねぇ~」

「あはは、レナちゃんは僕達のムードメーカーですからね」

「美味しいご飯は絶対的な正義ですっ!」

「ですよねっ!」

 レナの言葉にアリエルが過剰に共感を示す。

「本当に美味しいです~。でも食べ過ぎると太っちゃうので悩み所ですよぉ~」

「え? ラヴィさん体重が気になるんですか? それなら僕と一緒に走り込みなんてどうです? 付き合いますよ~」

「ん~でもぉ私、朝は弱くてぇ~」

 耳聡く聞きつけたクロとラヴィの話が弾んでいると、おかわりを取りに家の奥へと引っ込んだアリエルの声が響く。

「何言ってるの! ダメなものはダメって言ってるでしょ!」

 声に驚いて様子を見に行くと、そこに居たのは困り果てた顔のアリエルと意地になっているティルの二人だった。

「ボクもアリエルと一緒に行きたい! ボクだってアリエルを守れるぐらい強くなったんだからっ!」

「ティルはまだ精霊魔法が少し使えるだけでしょ!」

「……まぁまぁ、二人とも落ち着いて。ティル君、アリエルさんはティル君が心配だから僕達みたいな冒険者を雇ったんだよ? アリエルさんを心配させちゃいけないな」

「フンっ! こんな連中よりボクの方が頼りになるんだからっ!」

 断固として着いて行くと意地を張るティルを見て、バレッタが溜め息をついた。

「……ぁー分かった分かった。それじゃあティル、お前を試してやる」

 収拾が着かないのを見てバレッタがティルを外に連れ出す。


「アタイに傷一つでも付けたらアンタの勝ち、って事で一緒に連れて行ってやるよ」

「………ホントだな?」

「あぁ、アタイは逃げも隠れもするけど嘘は吐かないよ……ほら、来なっ!」

 言って、臨戦態勢を取る。

「やぁぁぁぁ!」

 ティルは交差させた腕を振り下ろして、風の刃を放つ。

 風の刃がバレッタを切り刻む前にバレッタは横に飛び退いて避ける。

 続けて連続で風の刃を放つがバレッタに掠りもせず、避けられ続ける。

「どうしたどうしたぁ! アンタの覚悟はその程度かい!?」

「う、煩いっ!」

 ティルも風の刃が無駄だと分かったのか、今度は魔力を集中し始める。

「(大技が来るか……)」

「これでっ、どうだっ!」

 溜めに溜めた風の壁がバレッタに迫る。

 魔力を絞った風の刃ではなく、避けられないほど巨大な風の壁がバレッタ目掛けて押し寄せて来る。

「へぇ中々やるじゃないか……でもっ!」

 動き回っていたバレッタが足を止め、身に纏う外套〈マント〉を深く被り直し、右手を後ろに前傾姿勢を取る。


 バレッタがいつも身に着けているその外套は、昔バレッタがエルフ〈森人〉から譲り受けた魔力付加〈エンチャント〉を施された外套。

 風属性の魔法を避ける外套、風除けの外套〈ウィンドブレイカー〉と呼ばれる代物だ。

 ティルの放った風の壁がバレッタに命中する寸前、バレッタの姿が消え―――。

「『風見鶏〈かざみどり〉』」

 一瞬だけ抜刀した緑の刀が見える。

「あれは……?」

 クロが目敏く見つけたその短刀はバレッタがいつも使っている無骨な短剣ではなく、意匠を凝らした綺麗な緑色の三日月形をした短刀で―――。

「………えっ?」

 次の瞬間には風の壁は真っ二つに切り裂かれ、そのままティルの首元にバレッタがいつもの短剣を突きつけて勝負は終わった。


 ふぅ、と溜め息を吐いたバレッタは突きつけた短剣を下げ、尻餅を着いたティルに手を伸ばした。

「これで分かっただろ? アンタはもう少し自分を磨きなっ」

「……ぅぐ……ぅぅぅ」

「自分が強くなったと思ったら遠慮なくアタイに言いなっ、その時はいつでも相手になってやろうじゃないか」

 涙で顔を歪ませたティルの肩を叩いてバレッタは屈託の無い笑みをティルに向けた。

「ふ、フンっ。そんな事言ってられんのも今のうちだっ! 次はぜってー勝つからなっ! ……ぜってーだぞ。……それまでは姉ちゃんを、アリエルを任せるよ」

 悔し涙を拭いつつティルはバレッタに頭を下げた。

「(まぁ、アタイにコイツを使わせるまでさせたんだ。見込みはある……が、まぁこれは言わない方が良いだろうけどねぇ)」

 ティルに背を向けたバレッタは顔に出ないようにフンと満足そうに鼻で笑った。




 その日はアンデッドの襲撃も無く、冒険者達はそのままアリエルの家で夜を明かす事になり、クロは夜風に当たるバレッタにふと疑問に思った事を問い掛けた。

「バレ姐さん、なんでティル君にあそこまで突っ掛かったんです?」

 普段のバレ姐さんならああいうのは笑って流す筈ですよね、と最後に付け加える。

「ティルはアタイの弟に似ててねぇ」

「バレ姐さんの弟ですかぁ、可愛いのかな? あ、いやもしかして僕より年上ですかね?」

「生きてりゃアンタと同じぐらいかねぇ」

 その言葉を聞いてクロは自分が地雷を踏んだ事に気付かされた。

「え、あっ、その……すみません」

「ハンッ、なぁに謝ってんのさ。ンな事気にしてる暇があるなら対不死者〈アンデッド〉の準備でもやってな」

「その点は任せて下さいよ。僕がカッコ良過ぎて惚れても知りませんからね?」

「あぁ、アンタの実力には信頼してるさ」

 そんなバレッタの柔らかい笑顔を見たクロは少しだけドキッとしてしまった。

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