10話「セッション3-2 巨剣の使い方の場合」
夜のトルバス近隣の森に鉄と鉄が打ち付けられる音が木霊する。
人間の少女と山人の青年が己の武具を叩き付け合う。
―――振り下ろされる巨剣を槌矛で受け流す。
薙ぎ払いを盾で捌く。
決して真正面から受けず、防がず、巨剣を躱し続ける。
レナの打ち込みに対してクロが行ったのは終始、これに徹したものだった。
「まずは当てないと始まらないよレナちゃん?」
「くっ! 行きますっ!『地平薙ぎ』っ!」
レナはぐい、と巨大剣を両手で握り横に振り被る。
溜めた力を爆発させるように身体を半回転させてのレナの薙ぎ払いをクロは盾を頭上に構え、身を屈める事で巨大剣を上へ逸らす。
こうやって最低限の動きだけで近付き〈前進し〉、レナのがら空きの脇腹目掛けて左手を添える。
「『治療の光』……これで29回目」
そう言って、するりと脇を抜けて再びレナから距離を取る。
29回、これはクロが巨剣を避けつつレナに触れた回数。
それはつまり、確定で入った反撃の回数だ。
「ハァ……ハァ……」
レナは肩で息をするほどに疲労している。
「さぁ次はどうする?」
一方でクロはにっこりと笑う余裕すらある。
「くっ!」
それが悔しくて、振り向くのさえ億劫だが気力でクロの方へと振り返り、再度突撃する。
「えぇぇぇい! やあぁぁぁっ!」
肩に背負うような形で巨剣を持ち、突撃する。
それは巨大な獣の突進のそれと同等の重圧。
その勢いのまま―――袈裟斬りを叩き込むっ。
「我が求めるは悉くを拒絶する『聖なる盾』!」
しかし、身体を沈め、どっしりと構えたクロの『聖なる盾』にあっさりと受け止められる。
「それは一度破りましたっ!」
一歩引いて、体勢を立て直して跳び、巨剣を全力で振り下ろす。
「『大地 砕き』ぃぃぃ!!!」
闘技大会で『聖なる盾』を破壊したレナの剣が再びクロに振り下ろされる。
―――だが。
振り下ろされる剣が進まない。
神の威光は如何なる力に対しても不屈にして不滅、故に『聖なる盾』は砕けない。
「そんな……」
「僕の盾はそう簡単に突破されない」
そう言ってクロは不適に笑う。
「くっ……ハァハァ……ヤァッ!」
その後、レナは息切れしながらも更に巨剣を振り回し続ける。
「………分かったかい? レナちゃんの剣は直線的だからこんなにも躱し易い(本当はもっとお触りしたいんだけど)」
その剛剣を盾で逸らしながらレナに語りかける。
「……フーッ! フーッ! フーッ! ……じ、じゃあ、どうすれば……良いんですかっ!?」
荒げた息を整えながら聞き返す。
「まずは動きに緩急を付ける事と、剣と力ばかり頼らずに体術も覚える事。それと……レナちゃんが隠している魔力を使いこなせるようにする事も……かな?」
と、クロは何でもない事のようにそれを言った。
「えっ!?」
「気付かれてないと思ってたかい? 全力で打ち込む時とかに漏れてたよ。多分、魔力感知出来るラヴィさんも気付いてると思うよ」
「……私に、魔力が?」
「加減してたとは言え僕の『聖なる盾』を破壊出来る威力はそのお陰だろうね。本当は闘技大会では『聖なる盾』で剣を受け止めた後に降参するつもりだったのだけどね……はは。でもそのお陰でレナちゃんの魔力に気付けたから結果的には良かったのかな?」
「そう、だったんですか?」
「……やっぱりその様子だと、使いこなせてはいないみたいだね。レナちゃん、魔法学校とかには行ってないでしょ?」
「はい……、あたしの家は騎士の家なんですけど……その、自分に魔力があるって知らなくて……」
「貴族だとは思ってたけど、騎士の家系の方かぁ。でもレナちゃんは魔術師より戦士の方が良いんだよね?」
「は、はい……この剣も王都で師匠から教えてもらったもので……。やっぱり剣の道に進みたいです」
「(冒険者じゃなくて騎士じゃダメだったの? って質問は野暮か……)なら僕が魔力をもっと効率良く剣に乗せる使い方を教えてあげよう」
「魔力を? 剣に?」
訳が分からないと言った顔をするレナに、対して。
「(ぐぁ!? その上目遣いは反則的でしょう!?)」
「どうしたんですかクロさん? 急に鼻なんか押さえて……」
「……い、いや、なんでもない、なんでもないよ。ちょっと鼻から幸せが溢れそうになっただけで……ぇーゴホン。それじゃ気を取り直して今から教えれる事を僕が教えてあげるよ。手取り足取り……ね」
「お願いしますっ!」
「あぁっ! 今は突っ込みが居ないんだった」
そして翌日、冒険者一行は『雨地亭』に集まり、アリエルと合流する。
「外に馬車を用意しました。少し急ぎますので早速ですが乗って下さい」
「馬車の手配ありがとうございます、アリエルさん!」
当社比120%増しぐらいの笑顔でクロはアリエルに微笑んだ。
「なんだかぁ~今日はいつにも増してクロさんがお元気ですねぇ~」
いつもの三角帽子を被り、ローブの上にコートを羽織ったラヴィはそれをにこにこと眺めながら馬車に乗り込む。
「女絡みだからねェ、いつもの事さね」
やれやれと溜め息混じりのバレッタが手荷物を荷台に投げ入れた後、自身もひょいっと飛び上がって乗り込む。
「今回の敵はアンデッド。神官である僕の出番ですよ! ほらレナちゃん行くよ」
意気揚々のクロは鼻息を荒げながら、少し後ろで呆けているレナの手を引っ張る。
「………ふぁ~あ、ホントにクロさん元気ですねぇ」
元気なクロとは違い、眠そうに欠伸をするレナも目を擦りながら乗車した。
「あらぁ? レナちゃん眠そうねぇ~?」
「ぁ、昨日あまり寝てなかったので……」
「寝不足は肌に悪いのよ~」
「ぁ、はいぃ……気をつけますぅ……」
「それでは出発します」
冒険者達が馬車に乗ったのを確認したアリエルは馬車を出すように騎手に言って馬車はトルバスを発ち、フォーリン森へと進路を取った。
「あたし、少し寝ますね……何かあったら起こしてくださぃ……」
トコトコと馬車の隅に移動したレナは巨剣を抱くようにして座ったかと思うとすぐに眠りに着いた。
「あらあら、いつも元気なレナちゃんが珍しいですねぇ~」
「あはは……昨日徹夜したので……」
クロが頭を掻いてそう言うと―――。
「なにぃ? アンタ、レナに何したんだいっ!?」
バレッタがクロへ飛び付く。
「ちょ、バレ姐さん……。ぐぇ……く、首っ、首絞まってますよぉ!?」
「と、止めなくて良いんですか? アレ……?」
その様子を見てアリエルはラヴィに聞くが。
「はぁい~大丈夫ですよ~。いつものことですから~」
ラヴィはにこやかにそう返した。
バレッタと同じく話が聞きたいラヴィからの助けを諦めて、クロは最後まで抵抗はしたが、結局昨晩の事を白状する事に。
「成ぁる程ね。それなら仕方ないねェ、許そう」
「不当な暴力に曝されてはいるけども僕は幸せです……がくり」
馬車が出発してから、一息吐いた所でアリエルは冒険者達に頭を下げた。
「急な出発で申し訳ありません。集落へは大体二日程は掛かるので出来るだけ急ぎたかったの……」
「いえいえ急なのには仕事柄慣れてますからお気になさらず。ぁ、隣座っても良いですか?」
「クロさん、キリリとした物凄い良い笑顔ですねぇ」
「あぁ、いつものクロだよ……」
馬車に揺られ、日が昇りきり、昼の時間になる頃にはレナも目を覚ました。
「おふぁようございま~すぅ」
「くっくっくっ、レナは起き抜けだとラヴィっぽいなっ」
「そんな事無いですよぉ~」
「(寝惚けたレナちゃんも可愛いけど、怒ってるラヴィさんも魅力的だなぁ……」
「それじゃあ、時間もいい頃ですし、お昼食べちゃいましょうか」
早くもクロ達の挙動に慣れたアリエルはそんな様子を流しつつ、いそいそと馬車に積まれた食料から適当に昼ご飯を見繕う。
「あれ? これ、肉とかもあるんですけどエルフ〈森人〉って肉も食べるんですか?」
「えへへ、大丈夫ですよ。確かに菜食主義のエルフも多いですけど私は何でも食べますよ~。はむん、お肉美味しいです♪」
そう言うとアリエルは幸せそうに燻製肉を頬張った。そりゃあもう極上の笑顔で。
「(ぐふッ!!? 殺人的な可愛さじゃないの!?)」
クロはババっと鼻から溢れそうになる興奮を手で抑える。
そんな感じで一日目は馬車での移動だけで終わり、そして二日目の夕方にはフォーリン大森林に到着した。
「ここから先は少し歩きます。迷うから私から逸れないように気を付けてね」
各々馬車から降りて、アリエルの道案内に従って、森を進む。
「はぁーエルフの集落かぁ、楽しみだなぁ……」
美形しかいないと言われるエルフの女性を夢想するクロの足取りは軽い。
「ふふふ、そうですねぇ~」
「……そういえばアンデッド〈不死者〉ってどんなのが居るんですか?」
一日目とはうってかわって元気に林檎を齧るレナはアリエルに聞く。
「殆どはスケルトン〈骨人形〉の群れですが、時々違うアンデッドも出るわね」
「スケルトン……って事はサモン〈召喚〉かマリオネット〈魔導人形〉ですね」
「それならぁ~術者を探さないといけませんねぇ~」
「……? クロもラヴィも、二人で話さないでアタイ達にも分かるように言いなっ」
「あっ……えーと、スケルトン〈骨人形〉は主に二種類に分類されるんですよ」
一つはサモン〈召喚〉により召喚された召喚獣。
こちらは体組織が魔力で構成されていて、倒すと消滅する〈送還される〉。
もう一つはマリオネット〈魔導人形〉として作り出された人工物。
こちらは実際に何かの素材で作られていて、魔力で動いている為、倒して動かなくなっても消えずにバラバラになる。
「群れという事だからぁ~多分サモン〈召喚〉された物だと思うの~。そっちの方が命令を与える術者の魔力を極力消費しませんからぁ~」
「まぁ、召喚にしても人形にしてもどの道それを操る術者が必要になるので僕たちがやらなくちゃいけない事はその術者を探し出す事。ですよねアリエルさん?」
「……話が早くて助かるわ。そう、貴方達には私と集落で待機している者と私を随伴者としてスケルトンの術者を探し出してもらいたいのです」
「……成る程ねぇ。アタイ達は少数精鋭の突撃部隊って訳か」
「アリエルさん、一緒に行く方ってどんな方ですか?」
「うーん。そうだなぁ……結構頼りになる人かな」
「うっ……その言い方的に男の方なんですね……」
クロはアリエルのその〈頼れる男性への〉言い方にがっくりと頭を下げる。
「どうせクロは美人のエルフだと思ってたんだろ?」
「……ははは」
図星を突かれ、苦笑いするしかないクロ。
「あぁ、私の従者はエルフじゃなくて……」
「あっ! 見えてきましたよ! アリエルさん、あれがエルフの集落ですよね?」
小さく見える明かりをレナが見つけ、嬉しそうに指差す。
「はい」
ずっと気を張って強張っていたアリエルの表情が和らいだのを見て、クロはホッと息をついて。
「おぉぉぉ!? アレがエルフの集落ですかっ!」
大袈裟に嬉しがる。
いや、実際の所本心からかもしれないが……。
その声を聞きつけてか、茂みから大きい灰色の獣が現れる。
「ッッ!?」
アリエル以外の全員が一斉に武器を取り出して身構える。
「あー、待って待って! 止まってぇ! 彼は味方ですっ!」
武器を構えた冒険者達を見てアリエルが必死に止める。
「は?」
短剣を抜いたバレッタが唖然とした顔のまま固まる。
大きな獣―――セリアン〈獣人〉のフェンリルと盾を構えるクロの手が止まる。
「えっ、えぇぇぇ!? フェンリルさん!?」
「っ!」
アリエルに諌められて、改めて相手を見たクロは素っ頓狂な声を上げ、フェンリルはハッと息を呑んだ。
「あ、あれ? 皆はフェンの事を知っているの?」




