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「ここで停めて」
突然、アリーが言った。
国境をこえてすぐの、地方都市の繁華街。昼間の歓楽地は閑散としていた。
車どおりは皆無だったので、言われてすぐに停車した。
素早く車を降りるアリー。
「降りるわ。ばいばいおばちゃん」
えっ……
あまりにも唐突なことに、私は声を失った。
バイバイと言ったアリーも、すぐに背を向けたわけではなかった。私の言葉を待つようにそこにたたずんでいる。
私は、運転席から動けなかった。
「そう……これから……どうするのアリー」
「生きる」
「知り合いとか」
「なんにも。だからココまで来たかった。あたしのこと何にも知らない誰もいないところで、なんにも持たないで、からっぽで生きてみたかった」
「何を……アリー、わかってるの?15の、からっぽの女の子が、外国でどうやって生きていくことになるのか」
「わかるよ。だからこの街で降ろしてもらった」
言葉だけは、いつもの、こともなげなアリーだった。しかし少しだけ強くて、弱く見えた。
私は、どうしたらいいのかわからなかった。
エンジン音が、からっぽの街にこだまする。
「元気でね、アリー。もしまた会えたら、すこしは胸が膨れてたらいいわね」
「うるさい。垂れきったあんたより未来がある」
「なんだとくそがき。ほんとムカつく」
「あたしだって。ほんとむかつく。おばちゃん。大っ嫌い」
「わたしも大嫌いよ、アリー」
「バイバイおばちゃん」
「ばいばいアリー」
「ばいばい。その名前は忘れてもいいわ」
アリーは街に消えた。
私は車を走らせ、そのまま、まっすぐ進み続けた。
あともう少しの短い旅を、1人で続け、そして、終えた。
ある冬の日、夫によばれてリビングに来た。
夫は不器用に赤ちゃんを抱いている。
テレビのニュース番組だった。
郊外の歓楽街で、外国籍の少女が亡くなった。なんということはない、アウトサイドのトラブルだった。
「アベル・ウィッティングトン17歳。知ってる名前かい?」
夫に訊ねられる。私が表情を変えていたからだろう。
「いいえ……知らなかった。いま、初めて名前を聞いたのよ」
「?そうかい。しかし可哀想にね。ぼくらの子供といってもおかしくない年で、夜の街で亡くなるとは--」
夫の言葉の途中で、ニュースはもう次のものに移っていった。
アリー。 アリー。
意味もなく、私は胸のうちで呼んだ。
あらすじに書いたとおり、わたしはこういったストーリー性のある動画の夢をよく見ます。
ほかの短編作も、いくつかは夢で観たものをほぼそのまま小説仕立てにしたものでした。
アリーとメグの話を夢に見たのはちょうど一年ほど前。これも、小説として昇華させ公開しようかと思い、ずっとメモを保存しておりました。
しかし世界観が、リアルのアメリカにぴったりで、そこを異世界にいじることもできずかといってそのままでは物語として完全に破綻。
どうにも手を付けることが出来ず、そのままお蔵入り……に、してしまうことができませんでした。
わたしはアリーを愛してしまったのです。
この物語は珍しく、わたし自身をふくめ、リア友や既存キャラの一切出ない、何に影響をうけたのかよくわからない夢でした。
いま思えばメグ・ライアンよりサラ・コナーに似ていた気もする語り手も、イコールわたしって感覚ではなかったし。
ただビデオを観ているようなかんじで、ごくまれに強くメグに乗り移ったり、ときにはアリーだったり。
アリーに乗り移っていたのはほんのわずかなシーン数度だけなのですが、どれもすべて、メグをつよく慕うものでした。ちゃちなアクセサリーを渡そうかどうか悩むところはアリーの本心で、コミックそのものはたいして嬉しくはなかったのだけど、美しいオトナの女性であるメグに自分の宝物を渡して感謝されたい、自慢したいと考えて箱をあけ、改めてその安っぽさに打ちのめされる感情の動きはすごく大きくて、直後、不思議とアリーにもメグにも同時に乗り移っていたわたしは2人とも大好きになりました。
かなり割愛してますが、2人の旅はとても楽しかったです。メグがインディアンと喧嘩してる間に、アリーがしれっと酋長とお茶してたり(笑)ときに世界観でたらめな冒険と、荒野をワゴンで走り抜ける牧歌的かつワイルドな雰囲気と。街中のスタイリッシュな女二人のショッピングでは、メグが最高にイケてたなぁ。
楽しい数日間でした。
あらすじに書いた手段は、リアルな夢を見るための方法として研究者がうちだした確固たるものです。
創作をされる方ならば、そんなに難しい作業ではないはず。
そのオススメと、そしてアリーとメグの物語をどこかに残しておきたくて、夢の物語を小説投稿サイトに書きだすという荒業にでました。
さいごまでお読みいただき、ありがとうございました。
アリー、アリー。愛してる。