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童話ショート

エゾシマリス・ブラザーズ

作者: 雪 よしの

「あなたたち、そろそろ冬眠しないと、ヤバいんじゃないの?」


木の上から、一匹のエゾリスが、二匹のエゾシマリスに声をかけました。

エゾシマリスの体の大きいほうは 兄でセクル、

小さく貧弱なのは、弟でクルクルという名前です。

二匹は、親許を離れてからも、エサを探すときも、寝るときも一緒でした。


「今、ドングリとか木の実や、花の種を集めてる所。来春の食料さ。

君は冬眠しないの?エゾリスのエオちゃん」

エゾリスはエゾシマリスより二回りも大きく、セクルはちょっとうらやましく思ってました。


「私たちの仲間は、冬眠しないわよ。雪を掘ってエサをとることが出来るし。

春まで寝てるのも楽そうだけど、地下の巣穴って暗くてこわそう」

冬眠しなくていいのも、セクルは、羨ましく思ってるところです。

実際、今はエサを集める、口の袋にもパンパンに食料をいれてます。

冬眠にそなえて、その前に出来るだけ食べておかなければ。

山の木の実は今年は不作てした。セクルはともかく、クルクルは要領も悪く、

エサもなかなか集まらず、セクルが自分の分をわけてます。


一方、クルクルのほうは、エオに言われるまでもなく、冬眠しなくてはと、あせってます。

”雪がふったらおしまいよ”そう母さんに言い聞かされてました。

その雪が、今にもふりそうで、クルクルは心配なのです。


セクルは、体の小さなクルクルが、もう少し食べ大きくなってからと

山の中を、エサ探しに懸命です。

セクル達の住む山は、カムイミンタラと呼ばれる山のひとつで、冬は一番

早くやってきて、春は一番遅いのです。


「クルクル、今日はまず8合目のベンチへ行こう。人間がエサをくれるかも」

「兄さん、エオの言う通り、もう冬眠する場所を決めないと」

クルクルが、オズオズと提案するのですが

「何言ってるんだい、クルクル、まずは、食べ物が先だ」

セクルは、自分の意見を強引に通す所がありました。

クルクルは仕方なく、セクルのあとを追います。


8合目のベンチからは、黒岳の紅葉した斜面が一望できました。

まるで、赤・黄色・緑・枯葉色、いろんな色をちらした絨毯のようです。

綺麗な紅葉もクルクルの心には、何かをせかすサインにしか見えないようです。


下から何人かの若者が登ってきました。

「へ~。ここが8合目ね。綺麗じゃん。」

一人の若者が、紅葉をバックに自分で自分の写真を撮ってました。

中の女性3人は、セクル達をみつけ、”かわいい~”と写真を撮ってます。

セクル達にすれば、本当はうるさく騒がれるのはいやでしたが、エサをもらえるかもしれないと、

我慢してました。女性の一人が、セクル達に いいニオイのする何かをくれました。

「おい、クッキーなんて、リスが食べるのか?」

「いいのよ、この子達は、ここで人間を待ってんるだって、聞いた事あるもの

きっとなんでも食べるのでしょ?」


セクルとクルルは、クッキーなるものを食べてみました。上に何かの木の実をまぶしてあって、

おいしかった。動き回ってお腹もすいてた所でした。


「おいしかった?やっぱクッキーは万能の食べ物よね。上にアーモンドをくだいたものをまぶしてあるの」

女性はそういうと、自分でもサクサク食べながら、また上を目指して登って行きました。


セクルとククルも一緒に頂上までついてきました。

頂上では数人がお弁当を広げてました。二匹は、人間がエサをくれないかと、チョコチョコ走りまわりました。


「しょうがねえな。ほら、から揚げ食うか?」

年配の男性が、から揚げの少しだけちぎってくれました。二匹は時には昆虫も食べたりしますが、

ギトギトした油の肉には、食べてびっくりしてます。


「お腹、一杯というより胸一杯だな。」

「兄さん、ここ、隠れる場所がないよ。木も草も生えてないし、平で小さな岩がゴロゴロしてるだけ。

襲われたらどうしよう。」クルクルは はやく降りようとセクルをせっつきました。

風の音だけがゴーゴーと聞こえてきます。目が痛いくらいの青空。

二匹は、少し怖くなって8合目のベンチまでおりていきました。




8合目からは、頂上と違って、紅葉した木々や、緑の松の木も見えます。

クルクルは、やはり、紅葉をみると、気がせかされるのです。

「ねえ、セクル、ほんとに・・」

とクルクルが言いかけた時

下のほうから、老夫婦が登ってきたので、登山道の端に隠れます。

遠くに逃げないのは、ここに来る人間は、自分たちに危害を加えないとわかってるから。

それと、ときどき食べ物をくれるからでした。


老夫婦の二人は、よっこらしょと声をかけ、ベンチに座って休憩、旦那さんのほうが

ボトルを取り出し、お茶を飲んでます。


「ああおいしい。もうこの季節なら、暖かい飲み物でちょうどいいな。

ほら、お前も飲みなさい。あと少しで頂上だ。水分補給しないとな」

その言葉に、奥さんはニッコリ笑って首を振りました。

「お父さんだけ、行ってらっしゃいな。私の頂上はここでいいわ。

もうしんどいし。紅葉がお姫様の着物のように豪華で素敵。

ここでお握りを食べるって、すごい贅沢だと思うのよ」

奥さんは、ベンチに座ったまま深呼吸します。

「う~ん、空気が冷たいわね。でも、体の中からいやなものが、外に出たかんじ」

「それは、体を動かしたおかげだ。だから、頂上へ行こう。な」

旦那さんの説得にも、奥さんは首を縦にふりません。


「まったく、俺、一人で頂上に行ってどうするんだ」

旦那さんは、渋い顔です。体格がよく、ピンシャンした人でしたが、

しぶしぶ奥さんと並んで、ベンチでお昼を取る事に。

奥さんは、小さくて明るい顔をしてますが、実際は呼吸が荒く、本当はつらいようです。


セクルとクルクルは、そんな二人から、何かもらえないか、二人の手の届かない

ギリギリまで近づきました。

「一度、何かの種をもらった事があるけど、甘くて絶品だった。

ああいうの、もう一度食べたいな~」


実はセクルは一度だけ、ベンチで休憩してる人から、ヒマワリの種をもらって

食べたことがありました。クルクルには内緒でした。

というのも、種を上げた人が、レンジャーに見つかって こっぴどく怒られてるのを

見て。食べた自分も悪い事した気分だったので。


”あの時の種がたくさんあれば、クルクルももっと大きくなれるのに。

あれは、山中さがしても見つからなかった。あの時、たとえ一個でもクルクルに上げればよかった”

セクルは、後悔もしています。


「ほら、あなたたち、リンゴをおいたから、食べなさい」

奥さんのほうが、小さく切ったリンゴを脇の石の上に置きました

「来年は、あなたたちが冬眠からさめたくらいのころに

会いに来ますよ。元気でいてね」

「半年も冬眠するのか、それもまた大変なことだな」

そう二匹に声をかけ、山を下りて行きました。


二匹で食べたリンゴは、エゾシマリスにはちょっと、やわらかすぎて物足りなかったかもしれません。

それでも、食べるとシャリシャリしてて甘くておいしそうに食べました。


クルクルは、旦那さんの言った”半年の冬眠大変”という言葉だけ、頭の中に残りました。

半年ってどのくらいかクルクルには予想がつきませんが、巣穴から出た直後は、すべてが緑だった山です。

きっと元の緑に戻るまでかもしれません。


クルクルは 決心しました。

「兄さん、今日から別々に行動しよう。僕はもう冬眠の準備をしたいんだ。」

「クルクル、もう眠くなったのか?もう少し、体が大きくなるまで頑張れ」

「もう限界。それじゃ、来年の春までね」


そういうと、クルクルは、素早く走ってセクルから離れていきます。

セクルは、突然のことで、アッケにとられてしまいました。

少し追いかけたものの、見失ってしまい、来年、クルクルに会うのを待つ事にしました。

「俺が追いつかないくらい速く走れるんだ。もうクルクルは大丈夫だな」

セクルはそう自分に言い聞かせました。ちょっと寂しそうにクルクルが消えた方を見てます。


一方、クルクルのほうは、ハーハー息切れしています。

セクルが見えなくなるまで走ったからです。

「はは・・やっぱ、苦しいや。僕、もしかしたら、来春まで持たないかもしれない。

でも、これでよかった。

このままだと、セクルまで冬眠できなくなってしまうしね。

さあ、冬眠の準備、準備。”来春はセクルに会えますように”

そうカムイにお願いしながらねよう」


ここは、カムイミンタラ=神々の遊ぶ庭 ですから、

きっとクルクルの願いも届く事でしょう。


黒岳に雪が降ったのは、それから1週間後でした。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  カムイ。  神ですね。  アイヌ民族にはたくさん民話があり、妖怪のことを調べていると、カムイという言葉に常に出合います。  クル。  これもアイヌらしい響きですね。  エゾシマリスの兄…
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