◆エピローグ・再会……の巻◆
本日も読んでいただきありがとうございます。
俺が意識を取り戻した。
そう、再び目覚めた時は白い天井を見上げているベッドの上だった。
保健室も真っ青のなんとも消毒くさい空間だ……清潔感漂うといったほうが良いだろうか……衛生の芳しくない監獄島で過ごした俺の心で率直な感想を叫んでみた……ここは病室……しかも贅沢にも個室のようだ。
「大友ゆうきさんが意識を取り戻されました」と大きな声で白衣の天使と呼ばれるナースさんがブザーを鳴らして先生を呼んでいる。
まだ、意識がはっきりとしていない。
右の腕には時間をかけてゆっくり投与している点滴静脈注射の点滴チューブと腕にささった注射針で栄養を流し込んでいる、そして鼻と口を覆うように酸素吸入マスクが。
後日、両親から聞いた話になるがどうも、修学旅行で乗っていた豪華クルーズ客船は北太平洋ウェーク島近郊で沈没。
乗客・クルーも含めて生存者はなかったらしい。
損傷が激しく身元がわからない亡きがらも引きあげられていた。
朝のニュースから夜の特別番組まで日本中のマスメディアがおおいに活性化して『豪華客船の沈没』を盛り上げてくれた。
そして、大大的に俺も含めた合同葬式までやって、ひと息ついた矢先に……どこぞの海岸に俺が打ち上げられていたと言うのだから世界的に衝撃的だったらしい。
それからが大変だった……警察から心理士・マスコミ関係者が頼みもしないのに連日病院に押し掛けてくる。
真実を話す訳にはいかないので……記憶が無いを押し通した結果……マスコミに 『奇跡の生還者』やファンシーーチックに『異世界からの帰還者』などと勝手に取り上げられて大変な迷惑をしている。
そして、まだまだ冬まっさかりの時期。
早いもので退院して一カ月がたった。
学校も新たに編入して、新しい生活が始まった。
何も刺激のない平凡な毎日が続いている。
俺は平凡ということに幸せを感じていた。
そんな平和が続いた十二月も中頃。
「お肌は寒さに弱いのです」と弱音を吐いてしまいそうになる肌ざむさの中、朝の六時に起床した俺は実家が経営する食堂の手伝いをしていた。
朝早くから実家の手伝いをする俺って『偉い!』と褒めてもらってもかまわない。
いやむしろほめて欲しいところなのだが。
これは編入した学校が休みの関連でもあった。
兎に角長い冬休みなのだ……ざっと一ヶ月半はあるビックな休暇なのだ。
我が家の一階、厨房の窓から外を眺めるとうっすら照る朝日も遮断した分厚い雪雲から白くきめ細やかな粉雪がこんこんとふっている。
俺は大きなプラスチックのまな板の上で洋包丁片手にザクザクと野菜の切り込みを終えてお客様用テーブルが並ぶ店内を見渡す。
厨房とホールを分岐点にあるカウンターに干してあったダスター(タオル)を手に持って、入口の扉をガラガラっと横にスライドさせて玄関先に出た。
『ふあぁぁっ』と手を温めるように吐く息が白い。
息が白いと言うことは今朝の温度はおそらく七度以下だろう。
ダスターを持つ手がヒリヒリと痛い。
我が家の前の道路、すなわち幹線道路から一本外れた静かなアスファルトの道はうっすらと雪化粧がほどこされていた。
こんな寒い朝はさっさと仕事を終わらせて石油ストーブで暖まりたい。
そんな俺の希望を実現するためにダスターでゴシゴシと看板を拭き始めた。
汗も滴るいい男と言いたいほど全力で動いているので体温が上がってくる。
真面目に仕事をしていると証明なのだ。
ただ……何だか、視線を感じるのだ。自意識過剰ではないはずなのだが。
まるで監獄島に流れ着いた初日のあのときのように。
この時間は人通りもなく、ましてや裏通りの為に、人が通ればすぐにわかるはず。気になった俺は視線の感じる方向に目を向けると。
一人の少女が寂しそうにぽつりっと道の真ん中で微動だにせず粉雪をかぶり
ながら、こちらをじっと見つめていた。
「クチュン」と少女が手を口に当てる。とても小さく可愛らしいくしゃみをすると……俺の手からダスターがひらりっと指の間から抜け落ちていく。
――つ・く・し――
俺は心の中で咆哮した……それにはっきりと呼応するようにつくしは大仰に頷く。
それは奇跡。
そう少しだけ早くサンタクロースが持ってきてくれた奇跡としか思えなかった。
俺はつくしに向って駆けだした。
そしてすぐ近くにあるつくしの小さくて貧弱な身体を両腕で目一杯包むように抱きしめていた。それはもう逃がさないとの意思の表れでもあった。
「痛いぞい……ダーリン。もっと強く抱きしめておくれ」
つくしの頬に透明な液体が流れ落ちる。
感情を押し殺すこともなく、つくしは俺の胸に顔を埋めてむせび泣いた。
「つくし……どうしたのだ」
その言葉はありふれているが俺にはそんな言葉しか見当たらなかった。それは極上の喜びが思考を停止させているからなのだ。
「逢いたかったのじゃ。もう、わし、我慢ができなんだぁ。神の眷属とはいえ……この想いは止められぬ……もう、離れたくないのじゃ」
せきをきったようにつくしはとどっと想いのたけをぶちまける。
それに答えるように抱きしめる力が強くなる。
「わしは赤貧の神……たとえ貧しくなろうともダーリンと一緒に居たいのじゃ……わがままなのは承知じゃ……ダーリンの傍に置いておくれ……」
うるうると泣きながら懇願する眼差し……仰ぎ見るつくしの藁にもすがる想いが充分に伝わってくる。
――貧乏はとっても嫌だけど……それ以上につくしと離れるのは嫌だ――
俺のとる行動は当然決まっていた。
小刻みに震えるつくし……その冷えきった身体を抱えあげお姫様ダッコをする。
目を丸くしたつくしの表情が俺の一言で驚嘆の色、一色に染まる。
「よし特別サービスだ。つくしを両親に紹介しよう……それも婚約者として」
俺のVIPサービスはつくしにとって最高の活力剤となったようで今は白い柔肌を春の桜のようにピンクに染まっている。
ガラガラ……
店内に入った俺は一瞬時間が静止した……父さん母さんともう一人。
キラキラと輝く金髪を揺らしながら一緒に野菜の切り込みをしている。
――こ、これはどういう事なのだ――
ホールの玄関扉を開けたことで店内に『ひゆゅゅーっ』ととびっきり冷えた朝風が入り込んだので母さんはこちらに気がつき手まねきをする。
そして一言。
「何、外で油売っているの!! ゆきなちゃんはこんなに頑張っているのに。兄として妹を見習いなさい」
口を窄めながらいってくる――ってかか様ぁ、俺、昔から一人っ子でしたよねーっ!
このサプライズをつくしは知っていたらしくクスリッと小さな笑みを零す。
「もう、こんなに朝も早くからつくしとイチャラブなんて。兄っちたらぁ。すぐに死んでください。そして早く手伝ってください。手伝ってくれないとモーニングキスしてもらいますよぉ」
この緊迫感がなく、人生なめているような間延びした声……間違えない……ゆきな確定。
――くくくっ……久しぶりの再会……楽しめているか――
突然、脳内に響く幼い声……忘れもしない……こいつはファクターだ。
――新世界への移住が一段落ついたので、うるさい二人にはしばらく休暇をとってもらった……心配するな、ほんの千年程度だ――
せ、千年って……桃栗三年柿八年よりはるかに長いではないかぁーっ! と心で叫んでみると『相変わらず、一人ぼけ突っ込みが好きですね』っとオリムラの声が響いた。
――ゆうきの両親の記憶を書き換えた……安心して暮らせ……そのうち、我も出向く――
プツリっと送信が切れるように脳の響きが途絶えた……ってあ、あいつらそのうち来るってぇぇ!
もうパルプンテ状態だ。何がなにやらわからない。動揺の色がはっきりと顔に出たのだろう「あきらめるのじゃ♪ ダーリン」とつくしは耳元で囁く。
「あははっ」と空笑いをした俺は俺の知らない常識をカカ様に伺ってみた。
「母さん……今更ながらあらたまって聞くのもおかしいが……ゆきなとつくしのポジションは……」
「どうしたの頭でも打ったの?」的な優しさはいっさいなく目茶苦茶怪訝な顔でかか様が呆れたように答える。
「私の息子は若年性アルツハイマーかしら? ゆきなちゃんもつくしちゃんも又従姉妹でしょ。ご両親が亡くなってうちの家族になったの。ずっと一緒に暮らしているのに……二人を悲しませたら母さんは許しませんよ」
――ファクターよ……なんと微妙な設定に記憶を書き換えているのだ――
壮絶なフェイクだ。
俺の腕につくしはするりと柔肌の腕を絡みつかせて光彩陸離の爛々とした極
上の微笑みを浮かべた。
これから始まる新しい生活……ファクターやオリムラ・古都にゃん達の新世界の島も我が家も波瀾万丈になりような……ああっ「つくし、ずるいですぅぅ」とゆきながプンプンしながら俺達に割って入ってきた。
懐かしいストロベリーの香りがほんのりと鼻腔をくすぐる。
安堵した俺は静かに瞳を閉じた……感謝している……再び『つくし』や『ゆきな』と出逢えたことを……そして、あの不思議と過酷が入り混じった監獄
島の出来事が世界に波及しなかったことに。
再び目を開けると……つくしとゆきなの顔が目の前に……しかも、二人とも目を瞑って唇を突き出している。
『据え膳食わぬは男の恥』すなわち女性の誘いに応じないのは男として恥ずかしいということだが……俺は小さく微笑んだ。
これはこの時かぎりと心に決めて『売りつくし大感謝セール』なみの想いを込めた出血大サービスで俺は軽く……極めてソフトタッチを心がけて二人と唇を重ねた。
はいっ! 目の前に二つのトマトのように真っ赤になったオブジェが完成。
つくしとゆきなは腰が砕けたようにヘナヘナ~と座り込んでしまった。
「こら、ゆうき! 二人に過激な悪戯したら父ちゃんはゆるさんぞ」
気合の入った一喝した声が店内に響く。
いやはや、困ったものだ……俺はゆっくりと瞼を閉じた。
二人を幸せにする。
それは俺が監獄島で交わした約束であり。
ようやくその約束が果たされる時がやってきたのだ。
改めて家族となった二人と深く強い絆をこれから育んでいくことに俺は胸を躍らせているのだった。
いかがでしたか?
ついに完結しました。
少しでも楽しんでいただけのしたら嬉しいです。
『こちら陽気なたんぽぽ荘~大家と店子の家賃戦争』も連載しております。
今後ともかきくけ虎龍の作品を宜しくお願いします。




