◆現世の魔女と異世界の魔女の戦いの巻◆
こんばんわ、もうラストスパートなところです。
楽しんでいただけましたら嬉しいです。
微弱な振動を感じ取るように金色の髪がふわりっと揺れた。
シルクのような柔肌と黒のドレスのコントラストと淫靡な雰囲気を醸し出す、幼さが満ち溢れる短躯からは、はっきりと可視出来るほどの魔力が渦を巻いて古代文字がピッチリ描かれた大きな魔法陣に満ち溢れる。
魔力が行きわたった一瞬、怖ろしいほどの静謐な空間が形成される。
天より大きな光が大地へと降り立つと空間を矧ぎ取るような衝撃が木々をなぎ倒し辺り一面を無の世界に変えていく。
少し遅れて大地を覆う爆音が大気を揺らし広がっていく。
その力は監獄島全体を揺りかごの如くゆらしている。
魔力を浴び、生命力を失った森の年輪を刻んだ折れカブに少女は腰をおろした。
深い光沢、ブラックパールを連想させる質の高い黒髪がさらりっと靡く、おもわず魅入ってしまうそのつぶらな血色の良いピンクの唇から聞く者を魅了する声音が漏れた。
「くくくっ……対峙するのは千年ぶりだのぉ、臨界のファクター、いや、この世界のファクターとは初めてかや」
一指し指を魅惑的に唇に当て、酷薄なうすら笑いを浮かべる黒髪の少女の真正面に太陽の光で神々しく光彩を放つ金髪をかきあげた全身黒ずくめのファクターは空中に複雑な魔法陣を描く。
「無駄だってわからないかなぁ……天才幼女魔術師ファクターちゃん」
高鳴る鼓動……ファクターは右手をそっと胸に当てた。
魔性に満ちた瞳は黒髪の少女を睨みつける。
強大な魔力が発動するとファクターの周囲の空間がうがる。
闇の慟哭が周囲を呑みこむ。
「へぇぇ、凄いのぉ、幻魔獣を召喚かえ。さすがじゃの」
黒髪の少女はいたく感心しきりである。
象のような身体に七色が浮かぶ体毛、双頭のライオンの頭を持つ幻魔獣が召喚された。
「神話の破壊獣よ。黒髪の生者を食らい尽くせ」
前足で大地を蹴りあげると十メートルはあろう巨体とは思えぬスピードで黒髪の少女目がけて飛びかかるが、黒髪の少女が軽く手を振っただけで幻魔獣から鮮血がほとばしり、真っ二つに裂け、大地にひざまついた。
絶句してしまうファクター。
――信じられぬ……私の魔力が……全く歯が立たぬ。天高き渡りし蛇の異名を持つ魔女シルクトラとはいえ、これほどの力の差があるとは――
ごくりっとファクターは喉をならす、無意識に両足がガタガタと震えている。
幼すぎるファクターの双眸に恐怖の色が浸透していく。
端正な顔がくすっと微笑んだ、滲みでる楽しそうな微笑を隠すように黒髪の少女シルクトラは手を口元に運び、吟味するように怜悧な眼差しでファクターを眺めている。
「ファクターちゃんは将来、巨乳になりそうにないなぁ。美乳属性でもないし……どちらかと言うとわしと同類かのぉ」
白磁器のような透き通った白い腕をのばし、黒髪の少女はペロッと舌を出した。
「師匠……どういう魂胆だ、何を目的としている。我ら六人の魔女を束ねる者が裏切り者に成り下がるとは」
わななきながらも苦虫を噛みしめたようにファクター。
シルクトラはふぅと一つ溜息をつき、軽く肩をすくめて「こまったおちびちゃんじゃのぉ」とファクターを見下した。
「裏切ったつもりはもうとうないぞい……わしは最初から監獄島などに興味はない。千年待ち望んだ……やっと、恋が成就するのじゃ」
むふふっと喜び満ち溢れているシルクトラは胸元から一枚の古ぼけた紙を取り出した。
上機嫌だった、ニヤニヤとした表情でグッと古ぼけた紙を抱きしめる。
「この監獄島の理を破り、兵をあげたのは師匠……いや、シルクトラ、貴様ではないのか?」
端正な顔をしかめてファクターは言い放つ。
はて? とシルクトラは小首を傾げて空ぼけてみる。
「わしはのぉ……この監獄島のことなどどうでもよい。先ほどから、お痛をしている魔女がいるようじゃが……わしの興味はダーリンだけじゃ」
『ダーリン?』と怪訝な面持ちでファクターが小さく呟く。
「まだ、わからないのかえぇ、ファクター。わしのことが誰だか……仕方がない奴じゃのぉ、おしめを替えてやった恩を忘れて、幾度となくおねしょした布団を干してやった大恩をよもや忘れてはいまいな」
唇を尖らせて半眼ジト目で腕を組むシルクトラにぽかぁ~んと目を見開いて
あうあうと口元に手を当てて真っ赤になるファクター。
シルクトラはニパッと輝かしい微笑みを浮かべると両手を前に出して軽く振る。
次の瞬間……辺り一帯に銀色の粒子が化学反応を起こし、全てを水銀にかえていく。
「ば、ばかな……れ、錬金術……しかも一方的な……」
「ファクター……昔、貴女が一人ぼっちになってわしの弟子になった時も同じ驚きを浮かべたのぉ。懐かしいのぉ。ただ、今はこれ以上の抵抗はするな……」
グオォォォォォォォン!!
次の刹那……辺りをのみ込むような爆音が水銀から鳴り響いた……なすすべもなく宙に浮かぶファクタ―をシルクトラは哀しい瞳で眺めていた。
そう、悲哀の色をふんだんに含んだ瞳で。
いかがてしたか?
もう少しでエンディングです。
しばらくのお付き合いを宜しくお願いします。




