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◆過去と異端と未来の家族の巻◆

こんばんわ!

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

 

――大きな背中……暖かい――


 俺の首筋にゆきなの汗ばんだ頬をぴったりとひっつく。


 ゆきなは安堵した面持ちで全身を弛緩させながら素直に背負われていた。山岳地帯から時折聞こえる咆哮するような執行人の雄たけび。まだ、狩りは継続されているようだ。


――私だけの兄っち――


 触れ合う肌と肌。


 こすれ合う温もりを感じたゆきなの心は今までになくほっとしている。


 ただ、ゆきなの下半身は役割を失っていた。


 俺が抱えている腕の温もりも感じとれない。感覚が全く麻痺してしまい機能していないのだ。


「……ごめんな」


 ゆきなの聴覚に消沈した俺の声がとどく。


 下草と苔が生い茂る山道を走り続ける俺の弱弱しい言葉。


 深い慙愧の念が色濃くみえていた。


 しかし俺の首筋でゆきなの相貌がゆっくりと頬をすりながら『気にしないの』と横に動く。ゆきなにしてみれば俺に懺悔されることはお門違いと直訴したいのだ。


「何を気にしているのですか兄っち、エロエロ大王の兄っちらしくないのですぅ。兄っちはチ○コは大きいけど性格はハバネロよりもひどいですぅ、南国風が似合うトロピカル激辛カレー二百倍クラスのほどのどうしようもない刺激が大好きなおっぱい至上変態趣味のクズ人間なのですから」


 支離滅裂でよくわからないが一人、うんうん……と納得しながらポロリと言葉を零す。


「はっ! 兄っちは役得なのです。ゆきなのおっぱいが背中に当たって形が超ドエロいですぅ……などと妄想しながら走っているのでしょう。ごめんな……などと高尚な言葉は、もしかして……茂みの中で逃げられないゆきなに✖✖✖するつもりなのですぅぅ……エロエロです、エロエロ魔神です。ゆきなを孕ませようなんて、もはや、鬼畜犯罪の域ですぅ」


 叫び狂うゆきなの瞳からはらはらと涙が零れている。


 それはゆきなの雪娘としての純粋で偽りのない本心から溢れ出た涙だった。


 表の感情とは裏腹に安堵の涙がゆうきの肩に滴り落ちていく。


「……姥捨て山にすてるぞ」


「もう、ゆきなはこの島に捨てられていますぅ」


 俺の口からぼあぁ~んと黒い瘴気を纏った言葉を聞いたゆきなの頬が緩む。


「フフフ……兄っち、恋も受験も結婚もお茶っぱのように摘み取るものですぅ! 兄っち、ゆきなとラブラブチューになろうよ。今なら、私、逃げられないから兄っちのやりたい放題だよ! おっぱいもお尻もやりたい放題だよ」


 「やりたい放題かぁ……ってこら、デリカシーが無いぞ」


 「……兄っちに言われたくないですぅ。ゆきなが全力の勇気を出して告白しているのに、ミジンコほどの理解力しかないのですか?」


 はにかみながら『崇高な気持ちを伝えていますよぉ~』とゆきなの両腕がぐっと抱きしめる力を強めた。


「兄っち、ゆきな……過去を告白します。ゆきなの全てを知ってほしいから」


 一つ咳払いをして佇まいを直したゆきなは神妙な面持ちを浮かべて語り始めた。


「ゆきなは日本という島国で生まれましたが金髪で瞳が青いって異端だって言われて十歳になった時に一族から捨てられたのですぅ」


 隠していた記憶と邂逅したように訥々と言葉を紡ぐ。


「高い建物がいっぱい建っている所に捨てられました。ゆきなも幼かったので毎日、マンホールの下の通路でねずみさんと一緒に寝たり、段ボールを敷いて公園で寝たり。大変だったですぅ。ゴミ箱あさっても食べる物がないし、野良犬怖いしぃぃぃ」


 ゆきなの声が仄かに震えている。


「ある日ね、児童公園の隅っこにダンボール引いて寝ていたら変なおじさん達がゆきなを囲んで、いきなり襲ってきたの。服をはぎ取られて、押さえつけられて……酷い事されて……その時、理解した……信じられるのは私だけだって……だけど、ゆきなは馬鹿で力もないし、心細かったし……生きていくための手段を何ももっていなかった」


 ゆきなの身体も小刻みに震えていた。


 当然のことなのだが過去というものは変えられない。


 どんな善良な行為も背徳にまみれた汚い生き方もそれを否定も肯定もできない。


 今、ここにいるゆきなはその過去のレールの最先部で未来という運命を突き進んでいるのだから。


 ゆきなはしゃくりあげる嗚咽を交えながら言葉を紡いでいく。


「その日からずっとあてのない旅をしたよ……いっぱい悪いこともしたし……身体も売ったし……兄っち……ゆきな……もの凄く身体も心も荒んで汚れて……だけど今は……その、今は……恥ずかしい。本気で後悔している……もっと……もっと、綺麗な身体と心で兄っちと逢いたかった」


 ゆきなは俺の背中で震えて泣き続けていた。その涙はゆきなにとっての懺悔の涙なのだろう。過呼吸をおこしてしまいそうなほど息も乱れていた。


「ゆきなは歌舞伎町ってところで捕まったの。いけない薬を売ったりする下っ端の便利屋さんだったから。後は監獄島につれてこられて。こんなにいっぱい妖怪がいるのにそれでもずっと一人ぼっちだったの。もうゆきなは誰も信じられなくなって。山でひっそりと暮らした。前回の狩りで執行人に捕まった時はまだ、子供だったから解放されたの。お赤飯前の十二歳未満は釈放だって」


 その言葉のあと、少しゆきなは沈黙した。


 闇の記憶を発露したのだ。


 その沈黙は心と気持ちを整理するために必要な時間なのだろう。


 いつのまにか空にどんよりした雨雲がかかり始めた時、ゆきなは2メートル程度の低木と伸びきった下草と苔の茂みの中を指差して


「兄っち、あそこがゆきなの住みかだから」


 と俺を促した。


 ゆきなの住処に足を踏み入れる。


 そこは小さな洞穴だった。


 外部からは見えないようにツタ系植物の緑でしっかりとカモフラージュされている。


 洞穴内は横長の六畳ほどの広さがある。


 気温はいつも一定なのだろうか温かいような気がした。


 湿気もないが家財道具もなにもない。


 奥にポツリと大きく小汚い布が一枚だけ置いてある。


――ご、極貧だ……つくしを遥かに超えているぞ……――


「兄っち、大興奮でしょ! もしかして、つくし以外の女の子の部屋ははじめて? でへへぇ~、一人暮らしの絶世の美少女ゆきなの住処をみて二人で住みたくなったりする?」


「それは絶対にない。まだ、冬眠しているクマの住処のほうが豪華だろうな」


「ううっ、ひどいですぅぅ。こんなに兄っちを慕っている美少女の告白を無下にするなんて」


 などと身の程知らずなことを言い張るゆきなだが決してドタバタ暴れるようなことはしない。


 貧窮生活を物語る小汚い布の上に俺はゆきなをおろした。


 一応、俺も確かめるようにゆきなに目を向けたがコクリとゆきなが頷いてくれたので安心しておろしたのだ。


 そんな俺をゆきなはちょこんと座ったままで仰ぎ見ながら『クスリ』と表情をほころばせた。


「兄っちはこれからどうするの? 兄っちはやっぱり……つくしとド級貧乏結婚関係? ……ゆきなと兄弟近親相姦関係? ……バルケッタのM式従属愛人関係?」


――こいつ、意味がわかって言っているのだろうか!?――と突っ込みどころ満載なので突っ込もうとした刹那。


「ゆきなはないかぁ……頭が馬鹿な上に下半身が動かなくなっちゃったもん。もう、この監獄島で一人ぼっちでは生きていけないなぁ。何処かの誰かさんに介護認定もらわなきゃ」


 ゆきなは切なそうにパンパンと太腿を叩いて俺にニッコリ微笑んだ。


 その微笑みには計算などない純粋無垢な笑顔なのだ。


 この監獄島では誰かが助けてくれるなどと甘い考えは捨てておいたほうがよい。強者のみが勝ち残る自然界の摂理を踏襲している。

ならば、両足が不能になったゆきなは生き残ることは皆無だ。


「どうしたのですぅ。何をだまっているのですかぁ? も、もしや……兄っちはあったかくて柔らかくて、とっても気持ちいいゆきなのおっぱいの感触の妄想をしているのですね。エロキングダムですぅ」


 無言の俺を見てゆきなは気配りをしながら心配そうに問いかけてくる。


「ゆきな」


 俺のその声には決然たる意思が宿っていた。


 同情や哀れみなどはまったくない。


 だからこそ俺は大きな決心を選択したのだ。


 そんな俺の意思も露知らずゆきなはキョトンと小首を傾げながら人差し指をくちびるにそえて俺を見つめてくる。


「もし俺たちが魔女達のゲームに最後まで生き残っていたら一緒に監獄島を出よう。日本に帰ってこいよ。俺たちの家族と一緒に暮らそう」


 その言葉はゆきなにとってこの上なく大きな意味を示していた。


 地獄である監獄島から抜け出せるだけではなくゆきな自身を引き取ってくれるというのだから。


 ゆきなは大きな碧眼が更に大きくなる。


 その瞳には喜びの涙が溢れている。


「あ、あ、兄っち……つ、つくしは……」


 ゆきなは興奮して言葉にならない、しどろもどろした口調だ。


「俺はお前の兄っちなんだろ、と言う事は兄妹と言うことになるよな。兄の言うことをきけ。お前は俺の家族で大切な存在だ。よろしく頼むぜ、妹よ」


 その言葉はゆきなの琴線の根源に接触した。


『家族で大切な存在』


 ゆきなは涙が止まらなかった。


 はじめて必要としてくれる人と出逢ったのだから。


『家族』と言ってくれた、『大切』だと言ってくれたのだ。

一族から異端児として追放された者を『妹』と宣言してくれたのだ。

ゆきなの人生で初めての言葉だった。


 今までのようにゆきなの肉体目当てに群がって来た大人やクスリを売りさばくためのお金目当ての大人でもない。

もう、謂れ無き暴力や悪意の渦は存在しない。


 大きな傷を両足に背負い、歩行が出来なくなった欠陥品の雪娘を大切だといってくれるのだ。


「俺の実家は小さい定食屋だから。おまえは夏場のかき氷がかり、冬はおでん販売係な」


 俺はニヒヒと口角を上げて精一杯の笑みを浮かべた。


 俺のその口から出た言葉は俺にとっても一種の驚きをまとう言葉だった。

それは成長という驚きなのだ。


 とても暖かい雰囲気が洞穴内に溢れていく。


「兄っち……」

 

 ゆきなは涙と鼻水でぐずりながらも必死に何か大切なことを提案しようとしていた。


「兄っち……本当にこの監獄島から出たいなら……一つだけ思い当たる方法がありですぅ」


 ゆきなの瞳はポロポロと大粒の涙を流しながらも誠意の色彩をやどした真剣そのものだ。


「この監獄島は現世には存在しない島なのですぅ……だから、大海原に逃げても引き戻される。監獄島は何処にあるかはわからない。次元の狭間に中性子惑星で作られた島と言われています。だから監獄島は時空の狭間にあって現世にはないのです。兄っちや私が居た現世に行くにはゴーストシップを乗っ取ればいいのですぅ。あの船ならこの監獄島と現世を繋ぎとめている航路を移動できるのですぅ」


 それは俺からしてみれば突拍子もない話だった。


――それに、何故、そんな複雑な事情をゆきなが知っているのだ?――


 俺は『プルプル』と首を横に振った。


 その疑問は俺を信頼して身を任せようとしているゆきなに対しての背徳にあたる。


 そう礼儀を欠くことなのだ。


 信じること……すなわち『絆』が今の俺たちには必要なことなのだから。


 ゆきなは俺に両手を突き出して懇願する眼差しを向けてくる。


『寂しいから、ぎゅっしてほしい……』そんな眼差しだった。


 ゆっくりと寄り添った俺は柔らかな肉体を愛おしむように『ぐっ』と抱きしめる。


 こんな小さな身体で監獄島を一人ぼっちでゆきなは生きてきたのだ。


「兄っち……ゆきなを離さないでね。ずっと怖かった。ずっと一人で怖くて寂しかったの」


 ゆきなは火照った肉体を俺にすりよせて抱きしめる両腕の力を強めた。


 その抱きしめる力が強ければ強いほどゆきなは孤独で人恋しかったのだ。


「大丈夫だ。俺は離れないから。何があっても妹のお前と一緒に現世に帰る」


 洞穴の外は大荒れの土砂降りだった。


 それは夜の訪れを意味するものであり。


 本日の執行人の狩りの終焉も意味するものであった。


いかがでしたか?

少し感動してもらえましたら嬉しいです(☆∀☆)

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