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◆恋の代償と切なる現実の巻◆

こんばんわ、、喜んでいただけましたら嬉しいです。



 今、尊敬するもの……餃子の皮に巻かれて焼かれても文句一つ言わない具材達……ファーストキスは一番大切な人にあげる! とレモン味のキスを大切にしすぎて永遠にしまっておく熟女……そして、私の身体と心を救ってくれた……兄っち。


 雪娘のゆきなはココノ草原へ向かい走る足を止めていた。


――集計に帰らなきゃ、私の居場所に、兄っちのもとに――


 太陽に照らされた金髪の輝きよりもキラキラと輝いた瞳に決然とした意思が宿った。


「しっかり走らないとこのままではおいていかれますよ、ゆきな」


 共に走っていた褐色の肌の女性妖怪が心配そうにゆきなを見る。


「行ってください、私は光熱費や税金を払うぐらいの義務感ですぐに兄っちのもとに戻らないといけないのですぅ」


 ゆきなは両手をぐーにして胸もとで小さくガッツポーズをとった。

それはゆきなにとって自分の意思を貫く決意表明のようなものだった。


 そして、ささっと踵を返すと走ってきた道を逆走しはじめる。


 恋する乙女がラブラブパワー全開で集計に向い力のこもったストライドで爆走した。


 今のゆきなには、ジャングルで蛇に襲われようと、砂漠で遭難しようとも全力で走り続ける強いハートが宿っている。


 その気持ちの根源は純粋な恋だった。


 異性への恋などゆきなは経験などない。


 だからこそプラトニックに燃え上がってしまった。


 感謝が憧れへ、そして恋に変わる。


 ゆきなは岩をも踏み砕くほどの勢いで突っ走る。


 やがて、灰燼と化していた集計の入り口にたどり着いた時。


「ひぃぃぃぃ」と悲鳴をあげながらゴロゴロっと人型の物体がころがってきた。


 ゆきなの瞳は爛々と輝く、込み上げてくる想いが身体も熱くする。


「兄っちだぁぁぁ!」


 欣喜雀躍の喜びと暖色を色濃く含んだ声が轟いた。


 しかし俺は意識を失っていた。


 執行人のどでかい一発をモロにくらってしまい素っ裸で白目をむいていた。


 仰向けに転がっていた俺を見てもいつものようにオロオロすることもなくゆきなは少し頬を赤くした。


「温泉でもないのに裸なんて。兄っち……エッチだけど、運命感じますぅぅ」


 ゆきなはツンツンと指で俺の汚れのない乳首をつついてくる。


――のびていますね……白目をむいている兄っちも素敵です(恋は盲目症候群発令中)――


 しかし、そんな余裕もすぐに消し飛んでしまう。


 ゆきなの眼中にもっとも悪しき邪の者がうつっていた。


 隆起した大胸筋やしなやかで怪力をうみだす上腕二頭筋。


 そんな筋骨隆々の肉体をもつ執行人が狩りの真っ最中とばかりに巨大な太刀を構えてどっしりと歩いてくる。


――ヤバイです……屋根の上でさんまを猫と取りあったあの日の夜ぐらいヤバイです――


 ゆきなは大きく息を整えながら一歩後ずさる。


 その一歩は恐怖体験からくる拒否反応だった。


 しかしゆきなは臆することはあっても逃げることはしなかった。


 それは俺がゆきなの足元でだらしなく転がっていたからだろう。


――逃げちゃ駄目、兄っちが、兄っちを!――


 ゆきなは小さな手でこぶしをつくり握り締める。


 小刻みに震えるこぶしはゆきなの勇気の象徴なのだ。


 ありったけの勇気を振り絞った証明なのだから。


 そして、ゆきなは自分の感情に正直だった。


 大好きな俺を守りたい気持ちがほんの少しだけ恐怖を上回ったのだ。


「暴力と繁殖行為しか頭にない貴方達に、私の気持ちはわかるはずないですぅぅ……」


 ゆきなの瞳が月夜の瞬きのように煌々と輝く。その言葉は本音だった。


 それを言い放ったゆきなは完全に恐怖が抜けていた。


 雪を司る一族としての矜持をもち、執行人と正面から相対したのだ。


 黒い気炎をあげた執行人は大地に転がっている俺には見向きもしない。

対峙するゆきなを獲物と定めたのだ。


 それは執行人にとってあたりまえの選択だった。


 本能的な色欲や肉欲がとても強い執行人にとって俺は蚊帳の外だ。


 ゆきなは繁殖対象としてみなされていた。


 それも容姿が極上なのだから執行人にとって最高の餌になる。


 狙いを定めた執行人に後退の二文字は存在しない。


「兄っちと二人でラブラブするためにも絶対に負けないのですぅーっ!」


 人の身の丈ほどの太刀を軽々と振りかざしながら強靭な膂力にまかせて袈裟切りでゆきなを襲いかかる。


ガシャーン!


 その巨大な太刀はゆきなの身体を一刀両断したはずだったが執行人は切った肉の感触はなかった。


 虚空を切ったように手応えがない。


 太刀が捉えたゆきなは雪の結晶が織り成す幻なのだ。


 そして幻を構成していた眩いばかりの雪の結晶がたんぽぽの綿毛がふわりっと風に舞うように弾ける。


 大気に伝播していくきめ細やかな雪の結晶は夢幻的なオーロラのように輝く。


 ただ、執行人の半径2メートルは天に吸い上げられるように雪煙が上昇して視界は白く閉ざされる。


 その空間内の体感温度はまるで真冬の富士の頂上のように凍てつく冷気だった。


「ナムナムですぅ。しっかりと死んでくださいーっ!」


 しかし、執行人はいやらしい笑みを浮かべていた。


 それは野獣の笑みそのものたった。


 彼らにとって寒さや痛さは快楽の一つでしかない。


 死も恐れない屈強の猛者達なのだ。


 執行人の闘気は奇怪な気炎が太刀の切っ先から上がるほど浸透している。

ゆきなと同様に執行人も気がついていたのだ。


 お互いに次の一撃が生死の分かれ目であることを。


 執行人は巨大な太刀を獲物であるゆきなに向かって放つタイミングを伺っている。


 監獄島の盆地地帯は水はけが悪い。


 その大地が潤っていた水分がゆきなの冷気を吸収して急激に凍り始める。


 同時にドライアイスの煙のようなモヤが意志を持ったように吹き荒れる。


 モヤは執行人を取囲むように絶対零度の渦巻に変化して四方から執行人に襲いかかる。


バス―ン!


 本能的に危機を感じた執行人は強靭な大腿四頭筋・腓腹筋・ヒラメ筋を駆使して蹴りだした一撃で大地をえぐると、巨大な体躯が唯一視界の確保できる上空に向かって高く飛んだ。


「エスケープなんて……絶対に逃がさないですぅ……」


 ゆきながつくりだした雪の六花結晶は鋭く重なり合って触れるものを切り刻む刃となっていた。


 その空間に反芻するゆきなの声は美しき三重奏の音色のようだった。


 ゆきなは高鳴る高揚感を胸に秘めてはじめて勝利を確信していた。


 しかしそれは慢心いがいの何者でもなかった。


 執行人に対しての致命的な誤認がゆきなの判断を鈍らせてしまっていた。


「………!」


 執行人の眼光に鋭さが増す。


 執行人の本能がゆきなの声を聞き分けて位置を割り出して特定したのだ。


 強靭な腕から放たれた巨大な大刀が六花結晶の荒れ狂う大気に投げ放たれた。


 執行人に視界などはない、それは本能の赴くままに放たれたハンターの一撃なのだ。


 その直後、執行人は絶命していた。


 武器を失った執行人の後頭筋に『グサリ』と突き抜けた鋭利な氷柱。


 強靭な肉体があるとはいえ脳が破損すれば執行人も絶命する。


 それは生命の理になぞられているものだから。


 激しく揺れ動く六花結晶にドス黒い脳症と血が澱んだ色を吹きかける。


 頭を失った執行人の亡きがらが上空から落下して大地に叩きつけられて肢体が砕けちり肉片が散乱した。


「うううっ」


 虫の息だった……消え入りそうな声音だ。


 視界を遮っていた六花結晶が役目を終えたように消えていく。

 

 霧の幕引きのようにすっと消えていく。


 主人を失った巨大な太刀の刀身は柔らかな土にどっぷりと突き刺さっていた。


 その周りには鮮血の血だまりと大地に這いつくばって、「はっはっ」と身悶えするゆきなの姿があった。


 執行人の最後の一撃はゆきなを捉えていたのだ。


 狩りとしては精度を欠くものかもしれないがその刃の一部はゆきなの坐骨・伏在神経や大腿筋を切断したのだ。


「ううぅ、イチゴ味の棒アイスになるところでした」


 そんな冗談めいた言葉とは裏腹にゆきなの身体は正直だった。


 全身の汗腺からどうにもならない嫌な脂汗がにじみ出てくる。


 雪娘なのに悪寒がする、体温が下がっていくとは不思議な感じだ。


 眉間に眉をよせながら美しい相好は酷い苦悶に溢れていた。


 それでもゆきなの想いに後悔はない。


 まだ、しっかりと生きているのだ。


 ちらりと俺に視線を移すと激痛が緩和する程の高揚感が胸を締め付ける。

想いの力とはモルヒネなみの麻酔効果なのだ。


 透き通るほど白い太腿から滴り落ちる鮮血。


 ゆきなは立ち上がる事が出来ない。


「あれっ、立ち上がれないよぉぉぉ……」


 必死に両足に力を入れようとするがロウ人形の足のように沈黙する。


「あはは……私、頭もおバカだけど、足までおバカになったのかな……」


 太腿を『バシリ』と叩いてみるが痛みどころか振動すら感じられない。


 ゆきなの両足は痛覚も失っていたのだ。


――兄っち――


 ゆきなが両腕に力を入れて砂を掻き分けながら匍匐前進で俺が倒れている所まで這う。


 弱肉強食の監獄島で機動力を奪われることは死の宣告を受けたことに匹敵する。


 もう、戦うことも逃げることもできないのだ。


 そのことをゆきなは理解していた。だからこそ今は自分の気持ちに正直に従ったのだ。


 もし、死ぬなら愛している人に寄り添いながら……と。


「兄っちはゆきなの英雄(ヒーロー)なのですぅ……兄っち凄く愛しているよ。兄っち……兄っち……」


 這いつくばりながら、ゆうきの腹部に頭を添える。


 それは小さな声で何度も反芻するように呟く。


 重力にいざなわれるままにゆきなは慣性に任せて瞼をとじた。


 身体の痛みもすっと引いてしまいそうな心の安らぎとぬくもりに安堵した面持ちを浮かべながら。


いかがでしたか?

もう少しで終盤戦、大きな戦局がうごきます(☆∀☆)

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