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3日目朝

短いです。


 朝、目が覚めると、知らない天井…っていうか岩だった。

洞窟生活もだんだん慣れ始めてきたかもしれない。我ながら順応が早い。隣で寝ていたゴブリンの子どもに「おはよう」と声をかけ、近くの川に顔を洗いに洞窟を出る。


 空を見上げると、カールがふっとばされていた。オークのおばさんもふっとばされていた。二人の断末魔のような叫び声を聞きながら、テスは大剣の腹で肩を叩きながらあくびをしている。


「運動になりゃしない。お!ユキト、おはよう。お前もやるか?」


「朝から、そんな罰ゲームみたいなことできないよ」


俺は、心底嫌そうに断っておいた。


「いつまでもレベル1だと、ゴブリンの子どもにも笑われるぞ」


 後で聞いたところ、魔物たちは俺達が買い出しに行ってる間も、テスに戦いの稽古をつけてもらっていたという。


「まぁ、気が向いたらね」


 そう言って、足早に川へ向かった。



 川で顔を洗っていると、頭を誰かにこづかれた。

顔を上げると、目の前に手のひらを広げたくらいの大きさの羽が生えたいわゆる妖精がいた。しかし、こういうファンタジーにいちいち驚いていたら、この先やっていけないだろうと思って


「ん?なに?」


と聞いた。


「あなたね~、昨日不審なことを言っていたのは~」


「不審なこと?何のこと?そして、君は誰?」


妖精はくるっと回った。なぜ、回るのかまるでわからないが、水色のワンピースを着た妖精は裾をひらひらとさせた。


「私は水の精霊、ウェンディーっていうの。人間からは可愛すぎる精霊として崇められてるわ」


なにその自意識!?ダサい!絶対関わり合いになりたくない!!どうしよう!!?

もしかして、こんなのが俺の精霊なのか!?絶対嫌だ!


「あら、可愛過ぎて、固まっちゃった??」


「もしかして、君が俺をこの世界に落とした精霊なの?」


「は?落とした?何を言ってるの?」


「あ、違うみたいですね。じゃ、もう遠慮しなくていいや。初対面の人にこんなことを言うのも失礼だと思うんだけど、できれば死んで欲しい」


「なっ!!誰に向かって言ってるわけ!私、精霊よ!!人間風情が調子に乗るんじゃないわよ!!やっぱりクズだわ!勇者を殺す方法なんて考える奴はどんなクズだろうと思ったら!想像以上のクズね!」


「お褒めに預かり、ありがとうございます」


「褒めてない!!」


「ところで、水の精霊っていうぐらいだから、海の異常さには気づいてるんだろう?なんでなんにも対策しないわけ?もしかして、腕がないのかなあ?」


ウェンディーはほっぺたをふくらませながら返す。


「対策をしてないわけないじゃない。ただ勇者のことが気になって、そばにいただけで…」


「え?なに?マジで何もしてないの?」


「だってー、勇者は魔王倒すのに忙しかったから、私もいつでも手助けができるようにって、忙しかったんだもん」


「それ理由になってないっすよね。超使えねー、なんでこんなやつが精霊なの?」


「だって、だって……グスン」


グスンって言ったー!わぁリアルで聞いたの初めて!


「お前泣きゃあいいと思ってんだろ?誰かが助けてくれるって」


「ひどい!勇者はそんなこと言わないもん」


「俺、勇者じゃないし。とりあえず仕事して下さい」


「……仕事って?」


「いや、だから海で起こってる異常を正常に戻して下さい」


「……ん?さっきも言ってたけど、海の異常って何?別になにもないじゃない。魔物が死んで、万々歳だわ!すごく正常になってるし!!」


「マジかよ…水温とか気にしないの?」


「水温???」


「水の精霊様なのですよね?」


「あら、急な敬語。そうです!私は可愛すぎる水の妖精・ウェンディーよ」


ドヤ顔のおでこにデコピンを思いっきり放った。


「いったーい!!何すんのよ!!」


「とりあえず、お前じゃ話になんねーから、上のもん(者)呼んでこいよ」


「なによそれー!プンスカプンスカ!」


プンスカって言うのも初めて聞いたな。


「鼻ったれと話してると日が暮れるから、他の水の妖精を寄越してくれって言ってんだよ、まさか、お前だけじゃねーだろうな?」


「いるわよ、優秀なのが!」


「じゃ、そいつ連れてこいよ。話はそれからだ」


と、顔を洗う俺にウェンディーはおでこを押さえながら、


「言いつけてやるんだから!とーっても偉い人に怒って貰うんだから!フン!」


と捨て台詞を吐いて、空に飛び立った。



 洞窟に戻ってくるとカールが、俺の匂いを嗅いできた。


「あれ?ユキト。聖水かなんか振ったか?」


「いや、振ってないよ」


と自分の匂いを嗅いで言う。何の匂いもしないと思うんだけど。


「なら、いいけど。あの匂いは俺ら魔物は好きじゃないから」


「ああ、わかった、気をつけるよ。あ、でも今、水の精霊にあったけど」


「「「精霊!!」」」


魔物たちが怯え始める。


「いや、追い返したよ」


と、慌てて言うと、魔物たちは全身の力が抜けたように、座り込んだ。


「やっぱり、精霊ってまずいのか?」


「ああ、まぁ嫌われてるからなぁ、俺達は」


寂しそうにカールが言う。


「精霊に嫌われると、何かまずいことでもあるのか?俺の世界ではあんなふうに見える形でいなかったし、まぁいなくてもどうってことなかったけど」


「ここでもどうってことはないんだけど、精霊がいないと加護は受けられなくて、魔法を覚えるときに苦労するんだ。自分でイメージしないといけないし」


「あと、世界のバランスが崩れるって人間の社会では言われてるな」


と、大剣を研いでいたテスが言う。


「でも、俺があった精霊はダメダメだったよ。水の精霊なのに海の事わかってなかったし」


「そうか、そいつは下級精霊なのかもしれないな」


「どうでもいいけど、邪魔だけしないでほしいよな」


と言いながら、平たいパンの朝食を食べて、カールを伴い、背負子を背負って村に向かった。



※11/11 修正しました。

※11/17 修正しました。

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