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世界地図

11/17 改訂しました。


 俺がセイレーンに興奮してる間に、魔物たちの洞窟付近ではテスが、俺の燻製肉が出来たかどうか確認していた。

 テスがつまみ食いすると、自然に魔物たちもつまみ食いしていき、結局、俺が帰ってきた時には、何も残ってはいなかった。


「あれ!!??なんで???誰だ!食べたのは!??」


 俺の叫びに、一斉に口笛を吹き出す魔物たちとテス。こんなバレバレの自己申告初めて見た。


「いま、口笛を吹いた奴らが、犯人だな」


「いや、違うんだ。ユキト」


「何が違うんだ。テス」


「これは……その……味見だったんだ」


「そうそう、そうなんです。ユキトさん味見だったんです」


「味見にゃんです」


「もう、にゃんですって言っちゃってるもん、もう…全くしょうがないな」


 ため息をつく俺に、テスと魔物たちが頭を下げに来る。


「すまん。許してくれ」

「「ごめんなさい」」


「じゃ!どういう罰ゲームにしよっかなぁ!!!!」

「「え!!??」」


「許してくれるんじゃないのか」


「食べ物の恨みは怖い。とりあえず、畑耕しにいくぞ!」


「あ、やっておきました」


 オークのおばさんが、申し訳無さそうに言った。


「え?耕したの?」


「はい。たぶん耕すんだろうなぁと思って。火も消えたので」


「でも、道具とかなかったでしょ?」


「あ、自分、腕力の方には自信があるので」


「じゃ、手で?」


「はい」


 魔物ってすごいね!


「じゃ、許します。オークのおばさんは罰ゲームなしで」


「やった」


オークのおばさんは小さくガッツポーズをした。


「じゃ薪割りするぞ!」


「あ、それもやっておいた」


 テスが寄ってきて、申し訳無さそうに言った。


「え?やっちゃったの?」


「ああ…乾燥してたみたいだったから。洞窟に積んであるぞ」


「あ、我々も手伝いました」


 ゴブリン親子がテスの後ろに隠れて言った。


「あ、そう。みんな仕事早いね。じゃ、種買ってきたから、まきに行こうか」


「「はーい!」」


「あ、オークのおばさん小麦粉買ってきたんで、パン作ってもらえる?」


「パンかぁ?できるかなぁ」


「ああ、石窯がないのかぁ、じゃ壺に貼って焼こう。とりあえず少しだけ水をくわえて練っておいて」


 オークのおばさんに指示を出して、魔物たちを連れて畑に向かった。


「じゃ、30センチ位、だいたい人間の足の大きさくらいの間隔を開けて、撒いていってね」


「「「はーい!」」」


「撒いたら軽く土かけてねー」


「「「はーい!」」」


 ゴブリンたちが種を撒き、一角ウサギが後ろ足で土をかけていく。一角ウサギは言葉を話せないけど、ゴブリンとか魔物の話はわかるようで、俺の話を魔物たちが通訳して伝えている。

 しかし、皆、一生懸命。なんとも真面目だ。

 俺はそれを見ながら、畑の外でカールと一緒に座っていた。


「なぁ、カール。魔物ってめっちゃ真面目だな」


「ユキトの燻製肉食べちゃったから、悪いと思ってるんじゃないの」


「いやー、それにしても誰かサボってもいいと思うんだけど」


「ま、じっとしていても、食い物が出てくるわけじゃないからな」


「俺はもっと怖いのかと思ってたよ。人を襲って、食べるとかするのかと思ってた」


「まぁ、モンスターじゃないからね」


「あれ?魔物とモンスターって違うのか」


「うん。違うよ」


「え?そうなの?」


「そうだ、人間にはわかりづらいよなぁ」


 ゴブリンの子どもに種まきの仕事を獲られたテスが、俺の横に来て座りながら言った。


「テス、どう違うのか教えてくれないか?」


「モンスターは魔物のコピーだな。ダンジョンとかにいくらでも湧いて出てくる。倒せば魔石を残して消える。言わば魔物の技術さ」


「魔物の技術?じゃあ実体はないのか?」


「そう、本来はそうだったんだ。だが5代くらい前の魔王が、生命体を取り込むことで実体を持たせるようにしてな。だからモンスターは人間を襲い、人間を食べる。シカやイノシシを食べても実体を持つが、モンスターは人間を好む」


「実体を持つと、魔物になる?」


「ああ、そうだ。カールの親父は元からの魔物たちと、モンスターから魔物になったやつらとの板挟みで苦労をしていた」


「なるほど。そもそもなんでそんな技術を?」


 疑問だらけだ。この世界の常識と魔物の常識と知りたいことは山ほどある。


「人間のほうが、量が多く、強いからな。対抗手段として作り上げたと言われている」


「今は魔物とモンスターの割合はどのくらいなの?」


「今は、モンスターはいないよ」


 カールが答える。


「魔王が死んだからね。モンスターを発生させる装置が壊れている。魔王がいないと装置は使えないしね。実体になったモンスターは生きているけど、かなり弱っていると思うよ」


「そうか。カールはその装置を復活させられるの?」


「うん。できるよ。やるつもりはないけどね」


「それ、まずいんじゃないかな?」


「僕は静かに暮らしたいんだ。戦争は終わり。モンスターも作らないよ」


「いや、それはわかるんだけど、兵士が残党狩りするだろ。魔物たちがやられるぜ」


「そうなんだけどさ」


 カールはそう言って頭を掻いた。


「難しいところだな」


 ひげを撫でるテス。


「兵士もいれば、冒険者もいる。あいつらはモンスターと魔物の区別がついとらん、見つかれば殺されるだろうな」


「じゃあ、自衛するしかないんじゃない?」


「自衛?」


「『自衛―自分の武力をもって必要な行為を行い、自分を守ること』…あぁ、またやってしまった」


「それって、例えばどんなことをするの?」


 カールが前のめりで聞いてくる。

あれ?すでに俺が変だってことに慣れたの?


「まずは集落を作る。大きくして自分たちを守るんだ」


「しかし、数で押されちゃかなわんぞ」


 テスが腕を組みながら言う。


「そこは生存権を獲得していくんだよ。魔物たちがいないと人間たちの世界が回らないようにしていけばいいんじゃない?」


「どうやって?」


「それはこれから考えていけばいいさ」


「なんだよそれ」


「まずは魔物がいなくなって困ってるやつから、仕事を奪ってみるか」


「どういうことだよ、ユキト」


「魔物がいなくなって困るやつらっていうと、兵士とか冒険者たちか?」


「そう。それも用心棒っていう職業がいいんじゃないかな?魔物が人間を守れば、魔物が襲ってくるはずがないだろ」


 テスが俺を見ながら、大きな口を開けて笑う。


「カール、ユキトは魔王より魔王らしい」


「ユキト、それマッチポンプって言うんじゃないか?」


「そうともいうかな。でも、例えば今日会ったセイレーンなら、海の安全な航路を辿れるだろ。なら絶対商人たちは食いつくぜ。海には、魔物だけじゃなく人間の海賊もいるんだ。対抗手段を持つなら、多い方がいい。何より、海から攻撃ができるなんて魔物の特権だ。波の様子がわかって海賊の対抗手段にもなるなら、冒険者や兵士を雇うより海の魔物を雇ったほうが安いと思うよ」


「なんという悪知恵」


「スキルが多いほうが商売では勝つか(笑)こんな人間見たことないぞ」


 目を丸くするカールと笑うテスを見て、俺は悪い笑顔を浮かべる。


「あれ?ちょっと待てよ、勇者詰めないかなぁ…」


「は?」


「テス、世界地図ってわかる?」


「ああ。簡単でいいなら、描けるぞ」


「この地面でいいから描いてみて」


 その辺にあった枝をテスに渡すと、サラサラと地面に3つの大陸を描いていく。

 西に直角三角形のような大陸と、真ん中に菱型の大陸、その東に続くように丸い大陸、一番東に大陸の小さいひょうたん型の島を描いた。


「ここが勇者の出身地でもあるイングリシナの王都だ」


「こんな小さい島にあるのか」


「そうだ。こんな島だが、植民地が多いからな。全世界に領土があるんだ」


「なるほど。で、俺らが今いる島はどこ?」


「西の大陸と、真ん中の大陸のちょうど間にある、一番南の小島だな。一番陸から遠いかもしれん」


地図はやけに横に長かった。


「ん?やけに横に長いな。それにこれだと南半球がないんじゃない?」


「何言ってるんだ?ユキト」


 また俺が変なことを言い始めたという表情のカールが言う。


「これだけでわかるのか?」


「わかるさ、北に行くほど寒いのに、この島が一番南じゃおかしいだろ。この星楕円すぎるのかな?」


 顔を見合わせるカールとテス。


「テス、この世界というか、ここは星なんだよね?昨日の夜、確かに大きな衛星が二つでていたし、今は西の空に恒星が沈んでいっている。ここもそれらと同じように星であるとして、この地図はあまりにも未完成すぎるよ」


 指で示しながら、疑問を説明した。


「いやいや、まったくそのとおりだよ、ユキト。カールもよく聞いておけ。この地図は全くの未完成だ。我々ヒューマン族というよりも獣人やフェアリー、巨人、魔物も含めて、誰も南半球に行く航路を見つけていない……というより追い返されるんだ」


「追い返される?」


「ああ、そうだ。赤道を越えようとすると、いつの間にか進路を180度変えらる」


「それは魔法によって?」


「おそらく、という他ない」


「そんな広域の魔法があるのか?」


「わからないが、実際に船で行くと、赤道には見えない壁があって、南半球にはいけないし、行った者もいない。今のところは」


「それは、海の中でも?」


「海の中でもだ。少なくとも過去3000年以上誰も超えていないと言われている」


「その前はいたの?」


「さあ、詳しくは知らない。ただ北の魔女がそう言うから、たぶんそうなのだろうと俺は思ってる」


「北の魔女っていうのは?」


「北の魔女ってのは…西の大陸の北に島があるんだ。たぶん、どの世界地図にも載ってないが、イングリシナの島と同じぐらいの島があると思ってもらうといい。その島を統治しているのが北の魔女だ」


 どの地図にも載っていないって、どういうことだ?島ごと魔法で隠しているのか?

 統治ってことは一人で住んでるわけじゃなく、何人も島民が住んでいるってことだよなぁ。

 いや、待てよ。他にも地図に載っていない未踏の地があるんじゃないか?おらワクワクすっぞ。


「そこに住んで……おい、カール大丈夫か?」


 カールが震えて青ざめている。


「母さんなんだ」


「へ?」


「僕の母親だ」


「北の魔女が?」


 カールが肯く。


「ってことは魔王の奥さん?」


「そうだ。絶対に関わらない方がいい」


 カールの息が止まって、どんどん顔色が悪くなっている。


「あんまりこの話はしないほうがよさそうだね」


「そうだな」


 テスはカールの背中をバンバンたたき、カールは思いっきり息を吸った。

 相当なトラウマがあるようだ。


「うん、まぁ、なるほどね」


「だいたい、わかったか?」


「んーこれ、でもやっぱり勇者詰んでない?」


「え?どういう…」


「今って、勇者は地元に帰ってるのかな?」


「たぶん」


「じゃあ、カールが海の魔物に頼んで、イングリシナに行く船を全部沈めていったら勝てない?直接攻撃しなくても、兵站抑えてしまえばお終いだ。もちろん今すぐにじゃなくていい。海の用心棒の仕事がうまく行った時に一斉に止めて、食料庫を焼き払うんだ」


 俺は地図を見ながら、もしかしたらこれが精霊の加護として授けられた自分の能力なのか?軍師の才能が開花したのかも!?


「でも、あいつは転移魔法が使えるから」


「いや、魔王を倒し世界をすくった勇者様が地元を見捨てるとは思えない。ついでに植民地があるなら全て独立させていこう」


 俺はかなり悪い顔になっていってると思う。


「すごい!悪巧みのプロだ」


「悪い顔してるなぁ」


 俺の才能は軍師じゃなくて悪巧みなのかもしれないな。

 どんどん調子に乗って続ける。


「だいたい1年くらいかな?1年あれば、勇者一行を詰めると思う。勇者が来るという噂が上がった港の物資をすべて奪うんだ。航路から見極めてもいい。そうして腹が減ったところを魔物を集めて襲撃すればいいだけだ!どうだ!?魔物の完全勝利じゃないか?」


「そう言われてもな…」


「あ、そうか。そうだったな。カールは普通に暮らすんだよな」


 あれ?悪巧みをする必要ないじゃん。


「うん、普通に暮らしたい」


「じゃあ、本当に魔王と勇者が戦うっていう運命に逆らうの?」


「そう。僕は運命に逆らうよ」


「魔物たちを殺し、父さんである魔王を殺した勇者を許す?」


「んー…許してはいないよ。でもなぁ。ずっとこの戦いが続いてるんだよ。もう、僕の代でやめてもいいんじゃないかと思ってるんだ。もちろん、勇者の方から会いに来るようなことがあったら戦わないといけないだろうけど、会わなければ戦わないで済むからね。極力会わないようにする」


「普通に暮らしながら?」


「むずかしいかな?」


「いや、拠点を作らなければ出来るんじゃない?」


「拠点を作らず、普通に暮らすかぁ…」


「ねぇ、地図に載ってない場所、未踏の地に行くというのはどう?つまり南半球に」


「それが出来たら、勇者から完全に逃げられる気がする」


「それなら、俺も一緒に行くぞ!」


 それまで黙って俺達の話を聞いていたテスが急に喋った。


「いや、カールをある程度鍛えたら、離れるつもりだったんだが、世界の端の謎に挑戦するなら、俺も行くぞ!」


「僕を放り出すつもりだったの?」


 カールがテスに聞く。


「ああ。一人で生きていけるくらいにならないとダメになるからな。ただ、あらゆる学者が挑戦し諦めた夢を追うなら、俺の意志と同じだ。共に行こう!」


 テスが一緒に来るとなるとかなり心強いな。


「ずっと、テスはそんな夢を持ってたの?」


 カールが聞く。


「いつか、時期が来たら挑戦しようと思ってたんだ。今はユキトがいるからな。今までにない方法が見つかるかもしれん」


「じゃあ、それまでパーティーを組もう!」


 カールが宣言するように立ち上がる。


「よし!わかった」


 テスが立ち上がり、俺もそれにつられて立ち上がる。

 三人で正三角形になるように向かい合う。

 

「僕は勇者に会わないようにするために!」


「俺は長年の夢を追うために!」


「俺はただなんとなく面白そうだから!」


 気づけば魔物たちのおかげで、すっかり種まきは終わっていた。

 マジ魔物って真面目。なんか何もせずにすいません。


「ところで、勇者の人相って二人とも知ってるの?」


「いや、知らないよ」


「俺も、知らないがずいぶん美男子だと聞いているぞ」


「やっぱり敵じゃねーか!」


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