幽霊船
カルカラットの街を出て、港に向かう途中、サンドコヨーテの遠吠えが聞こえた。
声のした方に向かって行くと、ゴルとサンドコヨーテが砂漠の岩の上に座って、待っていた。
「船の用意はできた?」
と聞くと、ゴルは頭の角をポリポリと掻きながら
「実は、港の船は海には出ないって言うんです」
「なんで?夜には出港するつもりだったんだけど」
「港の人の話を聞くと、近くの海に幽霊船が出て、魚もいなくなったとか」
「幽霊船!?」
俺はゴルの話を聞いて、呆れた声を上げた。
そもそも地球にいた時、俺は幽霊なんて見たことはない。
でも、こちらの普通にそんなもの世界ではいるのか?
「幽霊ってそんな普通にいるもんなの?」
「魂魄ってやつでしょうね。俺も見たことはありませんが。もしかしたら智龍の姉御が知ってるかもしれません」
ゴルはいつの間にか智龍のことを姉御と呼ぶようになっていたらしい。
「ところで、智龍は?」
「はぁ、お友達に会いに海辺の岩に囲まれた入江にいってくると言ってました」
「じゃ、とりあえず智龍を探そう。サンドコヨーテは臭いを追えるか?」
「ガウ!」
サンドコヨーテに臭いを辿ってもらって、着いて行く。
30分もすると海が見え、港も見えた。
確かに活気がない。
船も港に停泊したまま、動く気配がなく。
漁船は浜辺に上がっている。
浜辺の隣には岩場があり、デザートサラマンダーが馬車の番をしていた。
デザートサラマンダーの顎の下を撫でてやると、気持ちよさそうにグルルと鳴く。
そろそろこいつともお別れだ。
岩場の隙間を縫うように移動する。
不意に眩しい太陽が差し込んできた。
手で太陽光を遮り目の前を見ると、開けた入江に到着していた。
海辺で智龍が小さいネッシーと戯れていた。
ネッシーの本当の名前はなんだっけ?
プレシオサウルスだったっけ?
とにかくヒレのついた首長竜だ。
「お、ユキトたち!来たか」
智龍たちの方に寄っていくと、ネッシーが若干怯えた様子を見せた。
「智龍、そちらはどなた?」
「妾の友人の水龍だ。水龍、ユキトだ。挨拶!」
水龍は「QUEEE!!」と鳴くと、海に飛び込んだ。
なんだ?嫌われたか?と思って見ていたら、首だけ出して口から水鉄砲のように海水を吐き出し、俺の顔にかけた。
「500歳にもなるんだが、いたずら好きでの」
「QUUUU!?」
俺が固まっていると、水龍は首をかしげた。
「ぷふっ!やったなぁ!!」
海水を掬って、水龍にかけると、喜んだように海に潜って水鉄砲を飛ばしてくる。
水しぶきはゴルやサンドコヨーテにもかかり、しばらく俺たちは水龍と水を掛け合って戯れた。
最終的に水龍が竜巻のように海水を巻き上げたところで止めた。
「ところで、水龍は喋れないの?」
びしょ濡れになった服を岩場に広げながら聞いた。
「ああ、こやつは言葉をしゃべるのがめんどくさいと言って覚えなかったんだ。でも、言ったことはわかるし、意思の疎通は出来るぞ」
「そうなのか。じゃ、水龍、幽霊船って知ってる?」
「QUUU?」
水龍が首をかしげる。
「わからないか。じゃ、港から船が出てないことは知ってる?」
「QUE!」
首を縦に振った。
「沖に変な船があると思うんだけど?」
「QUEQUE!」
水龍は何度も首を縦に振った。
「それに誰が乗ってるかわかる?」
「QUU!QUU!」
水龍はゴル達の方を顎で指した。
「魔物か?魔物が乗ってるのか?」
「QUU!」
水龍は頷く。
「魔物で幽霊というと、ゴーストやナイトイプス、よろい騎士なんかが乗ってるかもしれませんね」
ゴルが説明してくれる。
こういう魔物情報は助かる。
「そいつらって、そんなに強くない?」
「ええ。そこまでは強くないと思いますよ。強さは魔法が使えれば我々、ゴブリン族と同じくらいだと思います」
「そうかぁ。じゃあ、その幽霊船を奪って、カール達がいる島に向かおう!」
「え!?奪うんですか?」
ゴルがびっくりした様子で聞いてきた。
「うん、まぁ、お願いして聞いてくれるようなら、手荒な真似はしなくて済むけど…」
「そうですね。とりあえず私が交渉してみます」
「ダメそうだったら、妾が相手になるぞ」
「QUEE!」
「水龍も相手になるって言っておる。龍族対魔物じゃな」
ゴルは青ざめて
「全力で、戦わないよう交渉します!」
と、拳を握った。




