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魔王と魔女と元夫

だいぶ時間が開いてしまいましたが、まだまだ続きます。


 カールの心は暗いのに、外は眩しいくらいに明るかった。

 日差しが昨夜降った雪を溶かし、時々、屋根から雪が落ちてきた。

 北の魔女の城に滞在して2日になる。

 カールとテスは城の図書室で、本を読んで時間を潰していた。

初日、カールの側を離れようとしなかった北の魔女は、テスに自身の夫である魔王の最期を聞かされて、寝込んでしまった。


「テス、なんであんなこと言ったの?」


「本当のコトを言っただけだ。それにお前も助かっただろ?」


「それは、そうだけど…」




 2日前の夕食。

北の魔女の部下であるブルーフェイス達は、魔王の城を抜け出し生き残ったカール達をもてなすために、腕を振るった。

 20人程が入れる食堂のテーブルには、島の特産である牡蠣や、トナカイの肉などを中心に豪勢な料理が並べられていた。

料理は寒い地方のためか味は濃かったが、カールもテスも美味しく頂いた。

 食後、紅茶のようなお茶を持ってきたブルーフェイスに「ありがとう」とカールが言うと、ブルーフェイスは震えた声で「坊ちゃま、良かった…」と泣きながらカールにすがりついてきた。食堂にいたブルーフェイス達も口に手を当て、涙を流した。


「皆、息子を心配しておったのじゃ」


 カールが小さかった頃、ブルーフェイス達が教育係としてカールに仕えていた。

 10年前に魔王と魔女が喧嘩をして、魔女が魔王城を飛び出した時、ブルーフェイス達も連れて行ってしまったので、それ以来となる。

 

「あのバカが勇者に討たれたという知らせを聞いた時は、妾も息子が心配で心配で、大変じゃったろ?」


 北の魔女は赤いワインを飲みながら聞いた。


「ええ、大変でしたが、テスがいたので、問題はありませんでしたよ」


「そうかそうか、礼を言うテスよ。お主があのバカの親友で良かった」


「ふん、成り行きでそうなっただけだ。それより聞いたのか?」


「何をじゃ?」


「お前さんが『あのバカ』って言ってる俺の親友の最期をだ」


「そんなもん知らん。大方あのバカのことだからドジでも踏んで、弱い勇者の剣に突き刺さりに行ったんじゃろ?」


「そうか知らないのか」


 テスは、そう言うと鼻で笑った。


「テス、言わなくてもいいんじゃない?」


カールはテスを見ながら言った。


「いや、言っておいたほうがいいだろ。仮にも魔王の妻だぞ。それに『あの男の妻』だったんだからな」


「何の話じゃ!?」


 北の魔女は空になったグラスを置いて、不満そうにテスを見た。

 テスはテーブルに肘をつき、北の魔女を見返した。


「魔王が死んだのはお前のせいだ。マリーン」


「な!?その名は捨てたのじゃ!二度と言うでない!」


 北の魔女の白い肌に青い血管が浮き上がる。


「名を捨て、人間を辞めても、しがらみは消えなかったんだよ!」


「何を言うておるのじゃ!全くわけがわからん!」


「お前さんが人間を辞め、魔王のもとに来る前、共に暮らしていた男がいただろう。そいつはずっとお前さんのことを思ってたんだ。そして、お前さんを連れ去った魔王に復讐するために生きてたんだ」


「……なんじゃと!?そんなはず……妾は自ら人を辞め、『あのバカ』のもとに行ったのじゃ」


「お前さんが人間だった頃の元夫は、そうは思わなかったんだよ!魔王は男の恨み辛みを聞きながら、攻撃を全て受けきったんだ。やり返すこともなく、再生することもなく、無言で男の痛みを受けきったんだ」


「そ、そんな…妾が人間を辞めたのは50年も前のことじゃぞ。元夫は70を超えとるはずじゃ。そんな老人に魔王を攻撃できることなど…」


「時魔道士なら、最盛期の肉体のままだ」


 北の魔女は、眼を見開き、口をわなわなと震わせた。


「………すべての技が通用するのに、反撃もしない魔王に男はお前さんの居場所を聞いてたよ。魔王が『ここにはいない』と言うと、男は竜の卵を持って城を出て行った。その後だ、勇者が来てトドメを刺していったのは。何の事はない痴情のもつれだ。よくある話さ。勇者はたまたまボロボロになった魔王にトドメを刺しただけ、魔王は魔王であるがゆえに運が悪かっただけ」


「じゃ、妾が元夫にちゃんと別れを言わなかったから、『あのバカ』は殺されたのか?」


 北の魔女は青ざめて言った。


「そうだ。名を捨て、人間を捨てたと思っても、元夫は人間だったお前さんを捨ててはくれなかったんだよ」


 北の魔女は天井の一点を見つめて動かなくなった。

 

しばらく誰も喋らなかった。

 テスが「俺はもう寝る」と言って立ち上がり、ブルーフェイスに自分の部屋を聞いて、食堂を出て行った。

 北の魔女はフラフラと立ち上がり、自室へと歩き始めた。

 カールは1人食堂に残り、腕を組んでテスがどうして本当のことを言ったのか、母親である北の魔女がこれからどうするのか、魔女の元夫にとって、自分の立場ってどうなんだろうなどと、答えが出ないようなことを考えていた。


 その後、北の魔女は自室に籠もり、カールに構うことはなかった。



 時は2日後、図書室にて。


「もう、あの古道具屋も鑑定し終わってる頃だろう。魚買って島に帰るぞ」


 テスが、そう言うとカールは読んでいた本を本棚に戻し、テスト一緒に城下町の古道具屋に向かった。



 古道具屋は手を揉みながら二人を迎え、金貨10枚で、サルベージした樽いっぱいの貴金属を買い取ってくれた。

テスは「もっと貰えると思ったんだがなぁ」と不満そうに言いながらも、カールと共に港に向かった。

魚屋で金貨10枚分買おうとしたが、そんなに魚はないと言われ、とりあえずあるだけ買い占めた。魚屋で他に食い物を売ってる場所はないかと聞くと、干物屋があるというので干物屋に行くと、今度は金が足りないという。

とりあえず、買えるだけ買った。

魚が大きめの樽1つ、干物が樽2つ。

船で輸送しなくとも、転移魔法で持っていける量だった。


「これだけで、足りるのかなぁ」


 カールが3つの樽を見ながら言った。


「この冬はもたんだろうな」


 テスは腕を組んで、苦い顔をした。


「どうする?」


「畑広げて…もなぁ。食料か」


「ユキトがいれば、何か、いい案を言ってくれるのになぁ」


「やれることをやるしかないだろ」


 テスは樽を1つ背負い、もう1つ抱え、カールも樽を1つ背負って、転移魔法のポータルに行き、島へと戻った。





 島ではオルアとセオが洞窟の前に、家を作ろうとしており、魔物たちは畑を広げていた。

 カールとテスはそれぞれ手伝った。

 買い付けてきた魚は、すぐに海の魔物たちに配られた。「この量なら3週間もてばいいほうだろう」とセイレーンは言った。

 すでに、海の食料は減り、北へ向かう魔物や餌場を巡って争いが起きているところもあるという。



 ユキトの転移事故から2週間、未だ音沙汰なし。




Arcadiaさんにも投稿し始めました。

ブックマーク増えて、大変嬉しいです。


2015年もがんばっていこうと思います。

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