初めての畑作り。
11/14 改訂しました。
次の日、遅く起きて伸びをしたら、周りの魔物たちが警戒するように俺を見ている。
テスのことは受け入れたが、いつの間にか隣で人間が寝ていたから、驚いたのだろう。
一応、笑って愛想よく「おはよう」と挨拶をしておいた。
寝ぐせを直しながら洞窟を出たら、テスがカールを起こしているところだった。
カールは焚き火の前で丸まって寝ていたようだ。
「おはよう、テス」
「おはよう、ユキト。なんでカールは外で寝てるんだ?」
「さあ?」
「昨日、夜中まで話してたんだろ」
「うん。あれ?もしかして俺がカールの寝床を取っちゃったのか?」
テスは笑いながら
「俺でも魔王の寝床を取ったことはないぞ」
と言った。
だから、魔物たちが警戒していたのか?「ごめん」と謝るとカールは「気にしなくていいよ」と返してくれた。
「顔を洗うなら、向こうに川があるぞ」
とテスが教えてくれたので、近くの川に向かう。
顔を洗って帰ってくると、カールがまだ眠そうにぼーっとしていた。
魔物は低血圧なのかな?この辺もあまり人間と変わらないな。
「で、何をやるんだ?」
「とりあえず、捕食者を増やして、森のバランスを保たなくちゃ。テスは魔法は使えるの?」
「おう、大体は使えるぞ」
「良かった。じゃ少し焼くかな」
「焼く?」
「うん。あと紐かロープがあると嬉しいんだけど、ないかな?」
近くにいたゴブリンに聞くと「あるます」と緊張しながら小声で返事をした。
「じゃ悪いんだけど、できるだけ長いのを持ってきてくれる?」
ゴブリンは、素直に洞窟から長いロープを持ってきてくれた。
眠そうにしていたカールも俺のところまでやってきた。
「何するんだ?」
「畑作るんだよ」
「畑?魔物は畑なんか作ったことないよ」
「初体験か、いいね」
「よくないよ、そんな難しいこと魔物には出来ないんだよ」
「できるかどうかわからないうちから、そんな事言うなよ」
カールは呆然として、立ち止まった。
「魔物の扱いがわかってきたな」
テスは笑いながら、ロープを持った俺についてくる。
しぶしぶカールもついてくると、魔物たちも後からぞろぞろ追ってきた。
言われたことしかやってこないと、勝手にできないと思ってしまうものだ。
だけど、俺は異世界者だから、ここの世界の常識も魔物の常識も知らない。
知らないから、やってみる。やってみなくちゃわからない。
「この世界での経験値のなさ」。それくらいしか俺の武器なんてない。
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ
by山本五十六
魔物もきっと同じだ。
洞窟からちょっと離れた川からほど近くのところまでやってくると、ロープの端をカールに持たせ、魔物たちにも手伝ってもらい、大体、児童公園くらいの大きさを四角く囲った。
囲いの中にある木を全て切れるか、テスに聞くと、「離れてろ」と言って、大剣を横に一度振りぬいた。
囲いの中の全ての木が倒れると、魔物たちと枝を払い、囲いの外に運んだ。
「じゃ、この囲いの中だけを魔法で焼ける?そんな器用なことは出来ない?」
「いや、できるが、燃え移るかもしれん」
テスは顎のひげを掻いた。
「じゃ、もう少し周りの木を切るかな。日当たり良くしたほうがいいし」
「そうか、じゃ、少し離れててくれ」
テスは、囲いの真ん中まで行くと、円を描くように大剣を振った。
たったそれだけで、囲いの外、2メートルぐらいにある木々が倒れた。
昨夜、カールが言ってた「世界で一番強い」ってのは、本当なのかもしれない。
「火はどのくらいがいい?この囲いの中を焼くんだろ?」
「そうだなぁ、できれば倒れた木も乾燥させたいから、弱火でじっくりとかってできる?」
囲いの外から聞いてみると「OK」とその場から飛び上がって、手を地面に向けた。
テスの手のひらから熱線のようなものが出て、真下の草に火をつけるとだんだん燃え広がっていった。
テスは飛びながら移動してきて、俺とカールのそばに降り立った。
飛行魔法があるのか。
「空が飛べるの?いいなぁ」
「そうか?ならそのうち教えてやる」
「マジかよ!ありがとう!」
俺がテスに約束を取り付けている間、カールは囲いの中の炎を見ていた。
「このあと、どうするんだ?」
「これで、しばらく火が燃え尽きるまで待つんだ。草が灰になるまで。あ、しまった!切り株も縦に切っとくんだった。あれじゃ燃えねーよなぁ」
俺がアホ面で燃え盛る火を見ていると、カールが手から火を放ち切り株を一瞬で焼いた。
「これでいいか?」
「うん。魔法って便利だなぁ」
火が他の場所に燃え移ったりしないように、やばくなったら俺たちを呼ぶよう一角ウサギとオークに火の番を頼み、洞窟まで戻った。
「昨日のイノシシの毛皮ってどうした?」
「洞窟の中にあるぞ。なぁ坊主、悪いが奥にある毛皮を取ってきてくれるか?」
テスが、昨日仲良くなったゴブリンの子どもに頼んだ。
辺りを見回すと、木にシカとイノシシが吊るされていた。
獲物が増えてる?
「どうしたの?あれ」
「ああ、今朝獲ったんだ。今、血抜きしてるからもう少し待ってくれ」
近づいてみると、イノシシもシカも、眉間に小石が突き刺さっていた。恐ろしい正確さだ。
「今の季節って春?秋?」
「夏が終わったくらいかな。どうしてそんなこと聞くの?」
カールが不思議そうに言った。
「秋のほうが毛皮が売れるだろ」
「なるほど」
「あ、勝手に話を進めちゃってたけど、毛皮を売りに行ってもいいですか?」
テスが狩った獲物なので、テスに承諾を得ないとどうすることも出来ない。
「ああ、いくらでも捕れるからかまわんぞ。むしろ、お前が何をするのか見てみたいよ、ユキト」
「何ってわけじゃないんだけど、協力してくれるのはありがたいです」
頭を下げると、なぜかカールもテスに頭を下げた。
「魔物のためらしいので、お願いします」
テスは「珍しい、雨が降るんじゃないか」と笑った。
シカとイノシシの皮を剥いだことがないと言ったら、テスが「やってみろ」と、ショートソードを貸してくれた。
人生初の動物の皮剥ぎは当然うまく行かず、文句を言われながら、なんとか剥いでいった。
「これは売り物としてはギリギリだな」というテスの評価に、責任を取る形で俺が村に売り行くことになった。
肉を解体している時に、保存が効くように燻製を作るのはどうだろうと提案したが、
カールもテスも燻製ってなんだ?というリアクションだった。
地面に絵に描いて説明したがさっぱりわからんというので、地面に穴を二つ空け、下で穴をつなげ即席の燻製器を作った。
「いい匂いの木ってないかな」
変な注文をする俺に、ゴブリンは一緒に森を探してくれた。
すぐに桜っぽい木を見つけ、細めの枝を手で折っていると、ゴブリンが手刀で太い枝を折っていた。魔物って強いんだな。
戻って来て、片方に枝を入れ火をつけると大きめの石で蓋をし、もう片方の穴に枝で網を作り、肉を載せ葉っぱで蓋をした。
少しだけ葉っぱの間から煙が出てきた。
しばらく待つので、その間に毛皮を売りに行ってこようと、畑で切った枝で作った背負子に毛皮を紐で結んで村へと向かった。
カールが、道に迷うと遅くなるからと、付いてきてくれた。
「なんで、俺こんな汗かいてるんだろう」と思いながら、森を下りていった。