番外編:カールとテス、北の魔女の島に行く2
冷たく切り裂くような風が城下町に吹きぬけた。
「寒いな」
テスは睨みつけるように二つの月を見た。
城下町の西にあるという古道具屋に向かう。
冒険者ギルドにユキトの捜索依頼を出したあと、ギルドの職員であるブルーフェイスに古道具屋の場所を聞いたのだ。
貴金属が入った樽を背負い、20枚ほどの毛皮を手に持って無骨な顔の老人が商店街を歩いている。店じまいをしている町の店主たちは手を止め、歩くテスを見た。
皮の鎧を着て、腕を出したムキムキの老人は町の人の眼には異様に映った。
誰もがその手に持つ「毛皮を着ろよ!」と心のなかでツッコんでいたが、丸太のように太い上腕二頭筋を見ると何も言えなかった。
城下町の西、本屋の隣に古道具屋はあった。
「店じまいかい?」
テスは木の扉を開けて、中に向けて声をかけた。
「いえ、まだやってますよ」
古道具屋の店主の声が返ってきた。
古道具屋には女の石像や古い杖などが壁に陳列され、奥に行けば行くほど、指輪やネックレスなどの小物の貴金属が置いてあった。
店主はメガネをかけた猫背の男で、白いシャツに茶のスラックス、艶の良い革靴と身なりは良かった。
テスは樽を店主の前に置いた。
「貴金属と毛皮の鑑定をしてもらいたい」
「かしこまりました。この量ですと1日か2日貰いたいのですが」
古道具屋の店主は樽の中を見て言った。
「わかった。2日後にまた来る」
テスは番号札を貰って、外に出た。
テスが出て行ったのを確認した古道具屋の店主は、額の汗を拭って樽の中身を確認した。どれも高級な指輪やネックレスで、これまでの人生で見たこともないような宝石まであった。正直言って、これに見合う対価を払えないだろう。
とはゆえ、安く買って高く売るのが商売人。少し汚しをかけてどれだけ低く見積もるか。あの筋肉男は戦闘では勝てないだろうが、商売の事ならこちらのほうが上だろう。
そう思いながら、古道具屋の店主は樽の中の貴金属を鑑定していった。
テスは古道具屋の隣の本屋で、スクロールと呼ばれる巻物を流し見していた。目当ての物がなかったようで、すぐに外に出た。
酒屋で一本ワインを買い、少し飲みながら北の魔女の城へと歩き出した。
今夜の宿は城だ。
一方その頃、北の魔女に連れだされたカールは馬車に乗っていた。
馬車と言っても椅子があるような箱型のやつではなく、ローマのコロシアムで使うようなタイプの馬車だ。
馬は御者もいないのに、北の魔女の赴くままに雪原を走り馬蹄と2本の車輪の跡を残していく。
その馬車から北の魔女は氷の弓矢を射って白い狐の魔物・スノーフォックスを追いかけている最中だ。カールはスノーフォックスに氷の矢が当たらないように、小さい風魔法で吹き飛ばしている。
「何故じゃ!?今日は魔法の精度が悪い!」
北の魔女はカールの魔法に気づかずに、3連続で氷の弓矢を射った。
カールの風魔法が大きくなり、スノーフォックスが10メートルほど宙を舞う。
今までスノーフォックスがいた地面に3本の氷の矢が突き刺さる。
「なんとっ!妾の魔法よりも早いとは!あれはこの辺りの主じゃな!よーし、今度は…」
「母上!もう十分です!」
「何を言う!まだ始まったばっかりじゃないか!」
「母上、僕は魔王の息子ですよ。魔物を狩られるのを見てられませんよ」
カールの抗議に北の魔女は腕を組み、頬をふくらませた。
「良いではないか!所詮あのバカの配下じゃろ」
スノーフォックスを追っていた馬車が急停車した。
「そのバカは死んだのです」
「では、息子が魔王じゃな?」
「僕は魔王になる気はありませんよ」
「何故じゃ!?歴代最強の魔王になれる魔法の才を持っておるというのに」
「僕は静かに暮らしたいんです。城に戻りましょう。久しぶりにブルーフェイスたちにも会いたい」
「…つまらんのう」
北の魔女は馬を城下町の方に向け、納得いかないというようにゆっくりと走りだした。




