凱旋パレードはモテ期の香り
小鳥の囀りが聞こえてきて、目が覚めた。
手を伸ばし、伸びをする。
窓からは朝日が入ってくる。
なんて清々しい朝だ。
地龍を追い返すという大きな仕事を達成したため、肩の荷が下りた気分である。
大きな仕事と言っても、罠を仕掛けて、地龍に食べられて吐き出されただけのような気もするが、目的は果たされたので、よしとしよう。
あとはカールとテスと魔物たちがいる島に帰るだけ。
冒険者ギルドからもお金がたくさん入るようだし、それで馬車を買い、デザートサラマンダーに港がある街まで送ってもらおう。そこから船だが、まあ、お金があれば誰か連れて行ってくれるだろう。本当、お金っていいもんですね。
顔を洗いに裏の井戸に行く途中、食道のテーブルで酒の壺を抱えたまま眠っている智龍を見た。どうやってこの宿を見つけたのかわからないが、とりあえず探す必要はなくなった。
井戸で水を汲み、瓶に移すと無精髭だらけの俺の顔が水面に写った。そういえば、しばらくひげを剃っていなかった。
部屋に戻り、昨晩そのままにしていた荷物をベッドの上にひっくり返すと、紙束やパンのカスなどの中から、刃の先が欠けたナイフが出てきた。クズ屋の主人が地龍を待ち伏せしている時、テントの中で「一応、用心のために持っておいたほうがいいですよ」とくれたやつだ。
そのナイフと歯ブラシ代わりの木の枝を掴んだ時、散らばった荷物の中に冒険者カードを見つけた。随分見ていなかったが、ダンジョンなんかでは罠をたくさん仕掛けたし、地龍も追い返したので、どのくらい自分が伸びているだろうと思って確認した。
名前:スズキ・ユキト Lv.12
体力:46
魔力:19
力:34
守り:30
素早さ:28
賢さ:????
スキル:異世界の技術 交渉Lv.3 盗賊Lv.2 狩人Lv.1 農作業Lv.1 運搬Lv.5 罠Lv.27 探知Lv.18
称号:砂漠の英雄 異世界者 魔王の友達 魔物の友達 龍の知人 精霊を叱る者 バカと天才の間に立つ者
ぬおっ!!!
だいぶステータスが上がってるじゃないか!!!
Lv.が一気に12になってるし、他のパラメーターも賢さ以外は上がってる。
罠スキルもかなり上がってるし、探知スキルもそこそこ上がってる。あの不毛とも思えるテント暮らしは役に立っていたんだ!!
そして、称号も「砂漠のヘンタイ」から「砂漠の英雄」に!
ついでに「龍の知人」にもなってしまったようだ。
自然と顔がほころんでしまう。
井戸でひげを剃り、歯磨きをしながらお腹を掻いていたら、馬小屋の方から視線を感じる。見ると若い街の女の子たちが「きゃ!!」と言って去っていった。
人数は確認できなかったが少なくとも3人はいたぞ。もしかして俺のファンかしら?地龍も追い返したし、なんたって今の俺は「砂漠の英雄」だからね!
なんて、思ってると痛い目を見るんだ。世の中そういうふうにできている。絶対に俺はダマされないぞ!日本にいた頃、何度そんな勘違いして恥ずかしい思いをしたことか!ここは気にしたら負けだ。
顔を布で拭いて、宿に入り階段を上がろうとした時、入り口からメイサが入ってきた。
「何をしてるの?ユキト」
藪から棒になんだ?という顔をすると、
「パレードが始まるわよ。早くして!主役がいないと始まらないでしょ」
「パレード?」
「パレードよ。地龍を追い返した『砂漠の英雄』なんだから当たり前でしょ!馬車に乗って凱旋門をくぐるのよ」
メイサは理解が追いついていない俺の手を取り、宿の扉を開けた。
そこには群衆が宿を囲むように集まっていた。人も獣人も冒険者も鎧を着た衛兵も集まって、俺に口笛を吹いたり、拍手したり、手を振ってくる。
俺が外にでると、「わーっ!!」という歓声が上がった。
わけもわからず、メイサを見るとにっこり微笑んで
「さあ、行くわよ」
と、手を引いた。
「ちょっと待ってよ。俺寝起きでこんな格好だよ」
「大丈夫よ。馬車の中に用意しているから」
見ると群衆の中に馬車が一台停まっていた。
俺はメイサに導かれるままに馬車に乗り込んだ。
メイサが御者に一声かけるとゆっくりと馬車が進み始めた。
その間もずっと歓声が聞こえてくる。
カーテンを閉め、やたらゴテゴテした貴族風の衣装に着替えさせられた。メイサは特に目をつぶるでもなく、親戚の子供でも見るように俺の着替えを見ていた。俺も特に地龍に吐き出されて最高に情けない姿を見られているので、いまさら隠すようなものもなく、すんなり着替えた。
カーテンを開けると子どもが走って馬車を追いかけていた。手を振るので、振り返すと嬉しそうに「やったー!」と喜んでいた。
大通りまで来ると、一旦馬車を降り、用意されていた幌馬車の幌を取った荷台に乗るよう言われた。荷台にはすでに宿屋の女主人と薬屋の主人、クズ屋の主人が貴族のような格好をして乗っていた。
宿屋の女主人は眠そうにあくびをして、薬屋の主人は面白そうにニヤニヤしながら腕を組み、クズ屋の主人は恥ずかしそうにオドオドしていた。
3人共、俺みたいに呼ばれたのかな?
「やっと、起きたのかい?何回起こしても起きなかったから、先に来てたよ」
女主人が俺を見て文句を言うので、「ごめんごめん」と謝って、荷台に乗った。
メイサが乗り込んだところで、前方からラッパの音が鳴り響き、パレードが始まった。
沿道を埋め尽くすサラマリの町の人達がこちらに向かって手を振ってくる。
家の二階の窓からも手を振る人もいる。
それがずっと先まで続いている。
適当に手を振り返すと歓声が湧く。
これは現実か?と思って太ももをつねると確かに痛い。
一緒に荷台に乗っている4人も適当に手を振っている。
「報奨金はいくらだろうね?」
「地龍を追い返したんだ。相当なもんだろ。俺はもう店舗を増やすあたりをつけてるんだ」
宿屋の女主人と薬屋の主人が笑った顔のまま、口を最小限だけ動かして会話をしている。
「あたしはこの先も地龍に料理を食べさせに行くんだ。そのたびにいくらギルドにふっかけようかねぇ。楽しみだよ」
「あのダンジョンも魔物が住むなら冒険者たちも行くんだろ?怪我人が増えるな、こりゃ」
「僕は道具が欲しいのです。工房も増設したいのです」
パレードの最中、3人の主人たちは、手を振りながら報奨金の使い道を話していた。
メイサは心底嬉しそうに目に涙を浮かべて手をブンブン振っていた。
さて、俺は報奨金を何に使おう。旅費分は残しておくにしても、かなり貰えるようだ。
そういえば、手を振ってくる街の中には若い女達もいたし、顔を洗ってる時に見たようにファンがいるかもしれない。
これは、もしかして、いわゆる・・・モテ期なんじゃないか!
砂漠のステキな夜が待っているんじゃ!!
無事に凱旋門を通り、大貴族の家というバカでかい家に通された。
大広間でサラマリの貴族たちと冒険者ギルドのお偉いさんや大商人などを紹介された。食事を出されたが「あたしの料理のほうがうまいね」という宿屋の女主人の言葉通り、特に美味しいわけではなく、量も少なかった。貴族たちは苦笑いだったが、女主人を怒らせると地龍を抑えておくことが出来ないので文句を言えないようだった。
吟遊詩人に変な噂を流され、ひどい宿だなんて言われて客が来なくなっていたのだからもっと言ってもいいのだ。
メイサは手を振りすぎて腕が上がらないとあまり食事を食べていないようだった。
そんな話を聞き流しながら、今夜のアツい艶かしい夜について妄想していた。
楽団のキレイな音楽や踊り子の踊りを見て、貴族の家にある本を物色し持って行っていいかと聞くと「いくらでもどうぞ」と言ってくれた。メイサに聞くと貴族が持っている本は見栄で持っているだけで、貴族の中には字を読めない者もいるのだとか。大丈夫か!
実質、サラマリを治めているのは冒険者ギルドで、貴族はお飾りとして王都から派遣されているのだとか。ちなみに衛兵も冒険者ギルドの職員だそうだ。一応、冒険者ギルドのお偉方には貴族の人も混じっていて、王都に用があるときはその人が行くらしい。サラマリにいる貴族は、王都では庶民派と言われている貴族たちで、余生を楽しんでいるおじいちゃんばかりだった。
夜が更けてきた頃、ようやく冒険者ギルドのギルド長から、それぞれ金貨の入った袋を渡され、馬車でそれぞれの家に送ってもらった。
俺は帰るところが同じなので宿屋の女主人と一緒の馬車で送ってもらった。
馬車の中で女主人が早速、袋の中を確認して驚きの声を上げた。
「こりゃ白金貨だよ。それが50枚」
「白金貨?」
「ああ、金貨100枚で白金貨1枚さ。普通は家でも建てる時じゃなきゃ見れない代物だよ」
てことは、金貨5000枚ってことか。
「太っ腹だねぇ。50枚をあたし達それぞれにだからね。白金貨250枚用意するとは、本当にこの街の金庫を空っぽにしちまったんじゃないかい」
これだけ、あれば豪遊できる!!




