表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/46

龍の住処はハローワーク?

 ダンジョンの最奥には、淡く光る苔の明かりに照らされた巨大な空間が広がっていた。

 天井はアーチ型をしており、部屋全体は巨大なかまぼこ型だった。側面の壁には穴がいくつか開いていた。奥には石積みの建物があり、智龍は「妾の研究所じゃ」と言った。研究所の裏に回ってみると、部屋の一番奥の壁は茶色や灰色の縞模様が斜めに入っていた。天然の巨大な地層の壁だ。


「これはキレイな地層の壁だ」


「お主、これが何かわかるのか?」


 地龍を研究所の前に置いて、智龍が地層を見ている俺の方にやってきた。


「この星の歴史でしょう」


「ふむ。その通りじゃ」


地上の山脈はプレート同士がぶつかって出来たものなのかもしれない。ぶつかって力が上へと向かい、この地層は斜めの縞模様になっているんだなぁ。


「異世界者と言ったな。お主の世界ではどのくらいのことがわかっていた?」


「どのくらいと言っても、僕は専門家じゃありませんから、本で読んだことくらいしか知りませんよ」


 後は中学の時に覚えた安山岩や玄武岩などを覚えるための酷いフレーズくらいだ。


「おーい!智龍よ。客人が食料を持ってきてくれた。飯にしよう!」


 後ろから地龍の吼える声が聞こえた。

 それを聞いたメイサやクズ屋の主人は怯えているのだが、顎ひげゴブリンや宿屋の女主人達、年長組はすでに慣れているように、特に気にせず「ほーなんだこの家は?」「どうやってこの空間を支えているんだ?」とか言いながらキョロキョロと辺りを見回していた。


「とりあえず、飯にしましょうか?」


 夕方頃に砂漠で食べたはずだが、空を飛びダンジョンを通ってきたため、皆お腹が減っていた。薬屋の主人とクズ屋の主人が落ちている石で即席のかまどを作り、再び宿屋の女主人の指示のもと、全員で料理を作り始めた。地下のダンジョンの部屋で火を焚いて酸欠にならないか聞いてみたら、智龍が地上につながる隙間がいくつも空いていると教えてくれた。


 牛肉のステーキや、山羊の乳で作ったホワイトシチュー、温野菜のサラダ、激辛ホットスープなど、レジャーシート代わりに敷かれた布の上に鍋ごと並べられていった。皿や食器類はメイサが買い出しに行った時に用意していたらしい。出来る子。


「それで、お主がいたところでは…美味しっ!」


 智龍は俺に話しかけながら、ホワイトシチューを食べ、あまりの美味しさに会話を中断した。


「3000有余年生きてきたが、こんな美味しい料理は久しぶりじゃ」


 智龍ちゃん、3000年も生きてるのかよ!見た目16歳だからギャップがありすぎる。


その後、美味しい美味しいと言いながら、宿屋の女主人をここで暮らすようスカウトし始めた。龍の言葉がわからない女主人に、俺が通訳したが、女主人は「こんな穴蔵で暮らしてられないよ」と一蹴。しかし、地龍もスカウトに参戦し、動き始めた頭を上下に振って何度も頼んでいた。


「わかったわかった。じゃ、たまに来て作ってやるから、もう街を襲わないでくれ」


「わかった。お主用の抜け道を作って待っておる」


「金はギルドから出してくれるんじゃろ?」


 抜け目ない宿屋の女主人はメイサに話をふった。


「…はい。善処します」


 智龍は、この際だからと魔物たちも勧誘し始めた。


「ダンジョンが荒らされて、罠の整備をしなくてはならなくなってのぅ。人手が欲しいんじゃが、魔物たちの中から手伝いに来てくる者はおらんか?報酬は地龍と模擬戦をした際の経験値と、穴に積んである宝玉でも持っていけば良い。どうじゃ?」


 俺が顎ひげゴブリンに通訳すると、首を何度も縦に振って了承した。


「そうか。なんなら、何人かここに住んでも良いぞ。魔王が死んで冒険者達が魔物狩りをしておるじゃろう。ここなら地龍が守ってくれる」


 「魔物としてもその方がいい」と魔物たちは頷いていた。

魔物たちは引っ越し計画を話し始めた。

 ここはハローワークかっていうくらい仕事を振ってくれるなぁ。

 


 宝玉の話をしたからか、宿屋の女主人や薬屋の主人、クズ屋の主人は部屋の側面にある穴を見て回ることにしたようだ。俺も見に行きたかったが、智龍に呼ばれて研究所に向かった。意外にもメイサは買い出しなどで疲れたのか、デザートサラマンダーにもたれて眠ってしまっている。地龍は腹一杯になった途端に鼾をかいていた。



 研究所には大小様々な化石が置かれ、骨格標本として完成している物も幾つかあった。

なるほど、気球にのってた時に地龍から散々聞かされた智慧の龍というのは伊達じゃない。

一から化石の骨格標本を作るなんて!しかも年代順にまとめられているらしく、出てきた地層の色でちゃんと分類されている。


 化石は恐竜のようなものから、深海魚のような魚、多くの貝がら、小さい哺乳類、シダ植物、何かの卵、昆虫が閉じ込められている琥珀など多岐にわたっている。


「1人でこれを?」


「もちろん、こんなことをするのは妾1人しかおらん」


「実にすばらしい!」


「わかってくれるか!」


「ええ。これはこの星の財産ですね」


「うんうん。そうなのじゃ」


 智龍は、これまで自分がやってきたことが、どれだけ他の龍からバカにされてきたのかを涙ながらに語り始めた。まぁ、古生物学はあまり理解されにくいが進化を考える上で重要な学問だ。


「なにより、魚の化石や貝の化石があるということは、ここが昔、海であったということだ」


「海?そうか。やはりそうか」


「つまり、地上にある山脈はプレート同士がぶつかり合い、海底を押し上げた結果できたものでしょう」


「プレート?」


「プレートテクニクス―地球の表面が何枚かの固い岩盤プレートで構成されており、このプレートが、海溝に沈み込む事で重みが移動する主な力になり対流するマントルに乗って互いに動いているという説」


「は?なんだって?」


 あ!ヤバイ!久しぶりにロボユキトが出ちゃった。


「ととととにかく、この星が僕のいた星と同じような動きをしているのなら、地下にとんでもなくデカい岩盤があって、地殻にあるマントルの動きによって岩盤が動くといいますか、いやいや、よくは、よくは知らないんだすんけど」


 だすんけどってなんだ?


「おいおい、落ち着け」


「ああ、すいません」


「しかし面白いものだな。化石や地層を見れば太古のことがわかるなど、魔法でも無理じゃ」


「とりあえず、スケッチさせてもらってもいいですか?」


 少し、スケッチして落ち着こう。


「スケッチ?化石をか。ああ、構わんぞ」


 荷物から木炭と紙の束を取ってきて、化石をスケッチし始めた。


「お主、ユキトと言ったな」


「はい」


「もっと、異世界の知識を妾に教えてくれんか?」


「いいですけど、何を知っていて何を知らないのかわかりませんからね」


「そうじゃの…」


「むしろ、俺は自分がなんでここに来たのか、なんで龍の言葉がわかるのか、知らないことだらけなので、教えて欲しいです」


「ユキトは地龍の腹の中に入ってから、龍の言葉がわかるようになったのじゃな?」


「はい、そうです」


「その時、唾液か胃液を飲んだか?」

 

 魚の化石を描きながら、思い出して顔を歪めた。

智龍は石の壁に背中を預けて、俺のスケッチしている様子を見ている。


「それはたぶん、言葉の精霊の加護を受けとるんじゃないか?」


「言葉の精霊?」


「ああ。言葉の精霊がいるかどうか妾もわからんが。たぶんな。誰かから与えられたものを口にすれば言葉がわかるようになったのじゃろう」


「確かに、この世界に来た時も、何かを飲ませてもらった時から言葉がわかるようになりましたね。その精霊が僕を呼んだんですかね?何をさせたいのやら」


「この世界に来てから言葉の精霊に会っていないか?」


「会ってませんね」


「そうか、まぁ死んだと思われてるかもしれんな。異世界からの転移などそんなうまくいくものでもないじゃろ」


「そうなんですか。やっぱり、まだ生きてるってことは運がいいんですかね」


「まあ、そのうち会うこともあるじゃろ」


「そういえば、智龍さんは3000年以上前に生まれたって言ってましたけど、その頃はまだ南半球と行き来できてたんですか?」


 昆虫が入った琥珀のスケッチをし始めながら言った。


「うむ。できていた。妾は南半球の大陸生まれじゃ」


「へぇ~、どうして南半球にいけなくなったのかわかりますか?」


「わからん。妾が帰ろうとした時には行けなくなっていた」


「そうですか」


「なんじゃ、南半球に興味があるのか?」


「友人たちと謎を明かして行こうと思ってるんです」


「妾も何度も試したがあの結界は通れなかったぞ」


「そうですか、やはり結界が…」


 その後、しばらく無言で俺のスケッチが続いた。

 智龍が何かを考えるようにずっと顎に手を当てて目をつぶっていた。

 ある程度スケッチが終わった頃に、智龍が目を開き、


「ユキトよ。ここの他にも、地層が剥きだしているところはあるのか?」


「あると思いますよ」


「なら、ユキトに着いて行っていいか?」


「え?でも、別に俺は地層ばかりを探しているわけじゃありませんからね」


「もちろんわかっておる。それは妾がやることじゃ。それよりもお主に着いて行って異世界の知識を知りたいのじゃ。それに、もしかしたら南半球に行けるかもしれないんじゃろ。異世界者のお主なら思いつかなかった方法を見つけるかもしれん」


「地龍はどうするんです」


「300年も育てたんじゃ。もういいじゃろ。それにダンジョンも魔物たちに任せれば良いし。お主の友人にも会ってみたい」


「そうですか。…先に言っておきますけど、僕の友人は魔王の息子と魔王の親友です」


「なに?そうかそうか。それは心強いの。魔王の息子ということはサラの息子じゃな?」


「サラ?北の魔女が母親と言ってましたが」


「ああ、今は北の魔女と言うんじゃったか。問題無いじゃろ。サラは妾の弟子じゃ」


「え!?」


 智龍ちゃん、北の魔女の師匠なの!!衝撃の事実だった。



※10000PV

 2000ユニーク


 いきましたー!!ありがとうございます!!

 皆様のおかげです!これからも駄文が続くかと思いますがよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ