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龍も歯周病予防はしたほうがいいと思うんだ

 地龍の唾液でベトベトになった俺と、のたうち回る地龍を、逃げていたメイサ達も魔物たちも立ち止まって呆然と見ていた。

 地龍の動きが急に雷に打たれたように止まった。

 ようやく痺れ薬の効果が現れたようだ。


「くそっ、何をした人間!体が動かん!」


 地龍は吼えているのだが、地龍の言葉がわかった。

よろよろと立ち上がり、地龍に向かって


「痺れ薬だ…しばらく…お前は動けない」


 とかすれた声で言った。


「お主、龍の言葉がわかるのか?」


 地龍が驚いたように吼える。


「お前に食べられてから…わかるようになったみたいだ」


 立ち上がったものの、あまり力が出ない。一度食べられたのだからしょうがない。

身体にまとわりついている地龍の唾液を手で払いながら、皆の方にゆっくり向かっていくと、メイサが走り寄ってきた。

 俺はメイサへと手を伸ばしながら


「水くれ…」


と、言った。

メイサは俺の近くまで寄ると、臭いに顔をしかめ、鼻をつまんだ。


「あんた、臭いよ」


「水を…」


 メイサは鼻をつまむばかりで、一向に水を持ってきてくれない。

そのうち、宿屋の女主人や薬屋の主人が寄ってきて、「臭い臭い」と言う。


「頼むから、水くれ」


「わかったわかった。おーい誰かテントから水を持ってきてあげてー!」


宿屋の女主人が魔物たちに向かって大声で言うと、トカゲ男が走って、崩れたテントから水袋を持ってきて、俺に渡してくれた。

俺は水を浴びるように飲み、顔に着いた唾液を洗った。

ようやく生き返った気がした。


「おい、我にも水をくれ!口の中が辛くてたまらん!」


 離れたところから地龍が吼える。

 俺は持っている水袋を見たが、どう見ても地龍には水の量が足りない。


「誰か、水の魔法か、氷の魔法を使える人いない?」


「洗い流すなら水魔法のほうがいいよ。コップ一杯分くらいなら用意できるけど」


 メイサが俺の質問に答える。


「そうじゃなくて地龍が水を欲しがってるんだ。俺がホットスープの赤い実を地龍の中でぶちまけたから」


「ぶちまけたって!?」


 薬屋の主人が驚いたように声を上げる。


「うん、全部地龍の腹の中に置いてきたみたい」


 そう言って、破れた赤い実の袋を見せた。

 その頃には魔物たちもクズ屋の主人も鼻をつまみながら、俺の周りに集まってきていた。

皆、俺の持っている袋と地龍を交互に見た。


「氷の魔法なら私が出来るよ」


 宿屋の女主人が言った。


「なら、地龍の口の前に打てる?」


「ああ、わかった。だけど痺れ薬は効いてるんだろうね?」


「当たり前だ!たとえ地龍でも、1日2日は痺れるように作ってある」

 

 薬屋の主人が胸を張って答えた。

 宿屋の女主人は、地龍の前に進み出て、氷魔法の詠唱を唱え始めた。

 何語かわからない言葉を発した後、


「精霊よ、我に力を示さん。アイスランス」


と宿屋の女主人が手の平を前に突き出すと、地龍の前に太い氷の槍が地面から突き上げるように現れた。

 俺はその氷の槍を、クズ屋の主人が貸してくれた金槌で叩き割り、痺れている地龍の口を開け、中に入れた。


「もっとくれ!もっとくれ!」


地龍が満足するまで、俺は口の中に氷を入れ続けた。

地龍が満足した頃にはすでに氷の槍は砂漠の気温で溶けきってしまっていた。


「おい人間、この痺れはいつまで続くんだ?」


 地龍が唸り声をあげる。


「1日2日は痺れてるはずだよ。上級の痺れ薬だから」


「覚えておけよ。我にこのようなことをして、ただではすまさんぞ」


「じゃ、明日も明後日もずっと痺れ薬を飲ませないといけなくなる」


「何を!?」


「嫌だろ。俺もそんなめんどくさいことは嫌だ。欲しいのは食料?それとも暴れたいだけ?」


「食料は欲しい。魔力でもいいぞ。久しぶりに外に出たからな。少しくらい強い者がいないかと暴れてみただけよ。おい人間、お主は何者だ?弱そうに見えるが」


「俺は異世界者だ。実際、かなり弱い」


「しかし、龍の言葉がわかる」


「それは俺にもわからないよ。なんでお前の言うことがわかるのか」


 メイサ達は遠巻きに地龍と俺の様子を見ている。


「智龍ならわかるかもしれない」


「智龍?」


「我と共にダンジョンの奥深くに住んでいる龍だ。我が遠く及ばない智慧を持っている」


「その智龍に会えないかな?」


「うむ。異世界者ならば、智龍も興味を示すだろう。しかし、我が動けるようにならないと案内は出来ないぞ。まぁ、動けたとしても暴れない理由はないがな」


「食料と魔力が必要なんでしょ。それで手をうってくれよ」


「強き者はおらんのか?」


「強き者って言ったってなー」


 テスとは連絡が取れないし、サラマリの冒険者達はほとんど逃げ出してるしなぁ。

 そういえば、メイサが竜騎士って奴らを貴族たちが呼ぶとか言ってたっけ?


「竜騎士ってのがいるらしいから、それで勘弁してくれないか?」


「んーまぁ、いいだろう。そういえば、お主の仲間には魔物がおるようだが、まさか人間と魔物は和解したのか?」


「いや、今だけの即席パーティーだよ。ずっとこうなるといいんだけどなぁ」


「ふふん。太古の昔から人間と魔物の関係は変わらん。そんなことを言うのは異世界者のお主だけだろうよ」


「とりあえず、食料と魔力の件を皆に話してくる」


 俺は地龍と離れ、遠巻きに見ていた皆のもとに行った。


「何をしゃべっていたんだ?」

「お前、龍の言葉がわかるのか?」


 宿屋の女主人と薬屋の主人の質問に、頷いて答えると、食料や魔力、竜騎士について、また地龍が智龍とダンジョンに住んでいることを話した。


「それなら、一度帰らなくちゃね。食料なら、私が集められるわ。竜騎士についても聞いておく」


 話を聞き終えたメイサが答えた。


「魔力なら、魔物にも協力出来るかもしれん」


 顎ひげのゴブリンが一歩前に出て言った。


「しかし、どうやって魔力を地龍に渡すのかはわからん」


「うん、それについても後で聞いておく。他には?」


「智龍なんて、本当にいるのですか?」


 クズ屋の主人が怖がるように聞いてきた。


「地龍の言うことが本当ならね」


 クズ屋の主人は絶望したような表情で固まった。

 俺はその表情を見ながら、オールスター感謝祭の時のぼっちの人を思い出していた。



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