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決断


 魔物の岩場に帰るデザートサラマンダーとは手を振って別れた。

街の入口で、衛兵に「砂漠に地龍が出た」と話したところ、


「誰に聞いたんだ?」


「いや…えーと…」


 魔物から聞いたとは言えないよなぁ。


「砂漠のヘンタイの上に、砂漠のホラ吹きの称号も手に入れる気か?あんまり物騒なこと言うなよ」


 信じてもらえないか。

 とは言え、知らせておかないわけにはいかないだろう。

 


 衛兵と別れ、街の通りを走る。

 砂漠の冷たい夜気を頬で感じながら、月明かりの下、騒がしかった商店街を急ぐ。

パン屋の角を曲がって見える冒険者ギルドからは、薄明かりが漏れていた。

 

 冒険者ギルドに入ると、相変わらず呑んだくれの冒険者達が椅子や床で眠っていた。

 夜更けもとっくに過ぎ去っていたからか、俺がギルドに入ってきても誰も起きなかった。


 受付に行き、チーンと呼び鈴を鳴らし、ギルド職員を呼んだ。

 眠そうに奥から出てきた男性職員がめんどくさそうにあくびをして俺を見た。


「こんな夜中に何?メイサだったらいないよ」


「地龍が出たという情報を聞いたんだけど」


「地龍?お前さん誰かに騙されたのか?地龍なら何十年も現れてないから大丈夫だ」


「盗賊を捕まえる依頼があったでしょ?その盗賊のアジトが地龍に襲われたらしいんだ」


「なら、明日にでも討伐に行った冒険者達が帰ってくるから、お前さんがウソを言ってるってバレるぞ。つまらないウソを言うなよ」


と、男性職員は半笑いで返してきた。

やっぱり信じないか。


「わかった。でも一応、そんな話を聞いたから、報告までに寄ったんだ」


「了解。そんな噂があるから騙されないようにって、明日皆に伝えておくよ」


 俺は「それじゃ」と冒険者ギルドを出て、薬屋に向かった。



 薬屋のドアをガンガン叩くと、中の灯りが点き、褞袍を着た主人が眠そうに目をこすりながら、鍵を開けた。


「なんだよ。まだ夜明けまえだぞ」


「地龍が出た!確かな情報だ!信じてくれ!」


「ああ?なんだ?地龍?わかったわかった、落ち着け。とりあえず中に入れよ」



 俺は薬屋の主人が淹れてくれたお茶を飲みながら、今夜、何があったのか全て話した。

 魔物の話も半信半疑だったが聞いてくれた。デザートサラマンダーの傷の大きさや塗った薬の種類を聞くと少し信じてくれたようだ。


「じゃ、何か?お前さんは魔物の友達で、助けたデザートサラマンダーから地龍が出たことを聞いたっていうんだな?」


「そう。荒唐無稽だと思うんだけど、もし本当だったら大変だろ?」


「確かに。いやぁ、変なやつだと思ってたが、こんなに変なやつだと思わなかった」


「信じてないの?」


「いや、ウソは言ってないと思う。ただなぁ…もし本当に地龍が来るとして、だ。どうしてお前さんは逃げてないんだ」


「どうして?」


「この街には老人も子どももたくさんいる。全員が逃げられるわけじゃない。でも、お前さんならデザートサラマンダーに乗って逃げることが出来るんじゃないのか?」


 確かにそれはそうだ。

 弱者を切り捨てて、生き延びるのも手だ。自分が強者だとは思わないが、もしかしたら逃げられるかもしれない。

 でも、そうして生きていけるほど俺は強くない。ここで逃げて孤島に帰ったら、カールとテスになんて説明すればいい?セオとオルアになんて言う?ここで逃げると、どうしても後ろめたい気持ちが残るだろう。

 美人のメイサもいるしね。宿屋の女主人のハンバーガーも食べられなくなるのかと思うと寂しい。目の前に座っている薬屋の主人には良くしてもらっている。

 この街に来て、ちょっとしか時間は経ってないが、知り合いができてしまったんだ。放っては置けない。

まだ地龍が来るまで時間があるなら、全力を尽くしたい。

 何か方法があるなら…


「…地龍を追い返す」


「本気か?」


「だって、それしかないじゃないか!他にどうしろっていうんだ?」


「死ぬかもしれないぞ」


「死にそうになったら、全力で逃げる。でも、悔いが残るようなことはしたくないんだ」


 今まで、決断をしないまま生きてきた。流されるようにして大学まで行き、社会に放り出されて何をするでもなく、フリーターになり、本を読めればいいや、と適当に暮らしてきた。「あの時、ああしてればよかった。あの時、こうしてれば、今頃」と思わない日はなかった。

 そうして、この世界に落ちてきた。

 ここには現実逃避できる本はないんだ。いやでも現実と向き合うしかない。

 せっかくなら悔いを残さずに生きよう。


「よし、わかった。ちょっと待ってろ」


 薬屋の主人はそう言うと、積んである巻物をかき分けて、小さな壺の中から一冊の本を取り出した。


「これはじいさんの日記なんだが、地龍を足止めした話が書いてあったはずだ。読んでみろ」


 俺は薬屋のじいさんの日記を受け取って、パラパラとめくってみた。

 汚い字で書かれていたが、絵も描かれており理解はできた。


「とりあえず、俺は逃げる準備だけはしておく。地龍を追い返すのに必要ならこの店の物を使ってくれて構わないぞ」


「ありがとう」


 薬屋の主人は、奥に引込んだ。

 俺は早速、その場で日記を読み始める

 日記には岩石地帯で見た大きい岩のような多肉植物が描かれていた。あの多肉植物には麻痺させる効果があったはずだ。

 あれを採りに行くのか。ノコギリが必要だな。

 漫画のような骨付き肉と一緒に多肉植物を置き、鍋を叩いて地龍をおびき寄せた、と書いてあった。なるほど、地龍が土の中を移動するなら、音を頼りにして獲物を探しているのだろう。

 骨付き肉と多肉植物を食べた地龍は、数時間後に麻痺が解け、すぐに村を襲い始めたという。麻痺している間に、攻撃を仕掛けたが、どんなに攻撃をしても地龍の皮膚は硬く、傷つけることは出来なかったという。

 さて、どうしたものか。


 とりあえず、美味しそうな肉を焼いてくれる人は知っているので、一旦、宿に帰ることにした。


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