あれ?異世界ってハーレムって聞いてたけど
10/21 修正しました。
11/10 修正しました。
11/14 1話と2話が長すぎるので改訂します。
12/11 すこし改訂して分けました。
だって魔王の息子だよ?極悪非道で、人を虫けらのように扱い、街ごと破壊するのが魔王じゃないか。ってことは、この青年もいずれそうなっちゃうはずだ。
「しかし、このことは他言無用に願う。魔王の子が生きていると知られると、何かとめんどくさいことになりそうなのだ」
「それは、そうでしょうね」
これから再起して、魔王軍を結成し、傍若無人にジェノサイドするだろうさ、それは。魔王なんだもの。俺が誰かに言って、青年の内に暗殺でもされたら、魔王軍としては困るよね。っていうか、そんなことをしたら、俺は殺されるんじゃないか。
俺は、日本でもかなりの貧弱の部類だ。こんなムッキムキのおじいさんになら、片手で仕留められる自信がある。
できればここから逃げ出したい。
「やっぱりそうかなぁ、できれば普通に暮らしたいんだけどな」
カールがフードを外すと、きちんと額には角が生えており、耳が尖っている。ウソではないらしい。リアルじゃん。リアル魔王じゃん。やばいじゃん。
もしかして、こんなのがゴロゴロいるのか?この世界。
一応、聞いておこう。
「あの、魔王っていうのは何人もいるものなんでしょうか?」
「いや、一人だよ」
一人なの?じゃ、魔王は青年の父親だけだったなのかな?ん?魔王の親友は違う魔王じゃないわけだ。とはいえ、きっと魔王の親友は魔物だろうに、このムキムキのおじいさんは全然、角みたいなのは生えていないようだが。
「テスさんは、普通の人間に見えるのですが…?」
「ああ、俺は人間だ。魔王と仲が良かっただけだ」
「いや、化け物だよ。魔物よりもよっぽど化け物だよ」
テスはカールの頭をげんこつで殴った。船が揺れる。
え?魔王の親友なのに、人間なの?
しかも次期魔王に化け物って呼ばれてるし、なんなの!?
混乱、大混乱。
「まあ、俺達のことはいい。それより、お前さんは?どうしてこんな所に?」
ふいの質問にしどろもどろになりながら、俺は旧校舎が取り壊されるという手紙が来たところから話したが、あまり理解はされていないようだった。
「ここは地球ですか?」と聞いてみたが、何を言ってるのかわからないという顔をされた。
「そうか。まぁ、空から落ちてきたんなら、異世界者だろ」
「異世界者ってなんだ?テス」
「お前は、城の本を全く読んどらんな」
「全く読んどらん」
魔王城には本があるのか。
魔物も教育熱心なんだな。
「たまに、どこかの精霊によって落とされるんだが、あまりこの世界には馴染めずに、小物の魔物に食べられるか、見世物小屋に売られるか、まぁあんまり幸せな奴らじゃないな」
そんな、末路をたどるのかよ、おれは。
どうしてくれるんだ!どこかの精霊!
「そ、そうですか…、でも運が良かったですよ、海に落ちて死ぬと思っていましたから、突風のおかげです」
「ああ、それなんだがなぁ」
「たぶん、それ、テスの素振りだよ」
意味がわからないという表情をした俺に、テスは背中の大剣を抜き、海に向かって「えいっ!」と振った。
突風が海に波を作っていく。地球で一番売れいてる本の海を割るシーンを思い出した。あれは杖かなんかで割っていたように思うが、こっちは力だ。圧倒的力で、海を割るように大剣を振っただけ。
小舟が大きく揺れ、転覆しそうになるので、必死にしがみついた。
「いやぁ、身体が鈍ってはいけないと思って、先ほど素振りをしていたのだ」
なるほど化け物ですね。本人は笑ってるけど、こっちは全然笑えないよ。
「オールで素振りなんかしたから壊れたんだ、まったく」
「すまんすまん」
オールでもあまり変わらないのか。
恐ろしすぎるじいさんだ。絶対、敵に回したくねー。
っていうか、それで小舟が進むんじゃね?
「それで船を進ませればいいんじゃないですか?」
「「ああっ!」」
なるほどと手を打って、テスは小舟の後ろで素振りをした。
一振りでとんでもないスピードを出し、小舟が進む。
俺とカールは必死に小舟にしがみつく。
何度かテスが素振りをすると、遠くに陸地が見えてきた。
あまりのスピードに、浜に着く頃にはすっかり服が乾いていた。
浜に着くと、木製の掘っ立て小屋のような家が何軒か見えた。
小舟を浜に上げて周囲を見回すと、うさぎの耳を頭に着けた獣人と思しき人たちが、こちらを警戒している。
「獣耳!!」
おおっ!これぞ異世界!何度も本で読んだ異世界の住人がいる!
「あまり騒ぐなよ。カールの正体がバレると厄介だから」
興奮している俺に、テスは釘を指し、カールはフードをかぶった。
そりゃそうか。魔王の息子ってバレたら、大変だよな。
「っていうか、俺に正体をバラしてよかったんですか?」
「ああ。まぁ空から落ちてくるような野郎は、まともな奴がいないだろうからな」
「そもそも格好が普通じゃないしね」
二人とも俺に散々なことを言って、掘っ建て小屋に向かう。
テスが戸を叩くと、すごい美人のうさぎの獣人が現れた。
これぞ異世界!サンキューマイゴッド!!
20歳くらいだろうか。茶髪を後ろで結わえ、エプロンをした姿に惚けていると、カールが「うさぎはやめとけ、性欲が強すぎる」と小声で教えてくれた。
実際に小屋の中には、子どもがたくさんいて騒いでいた。
カールは目深にフードをかぶっているし、俺はこの世界の服じゃない変な格好をしているらしいので、テスが前に立って交渉する。
「すまんが、食料を少し分けてくれないだろうか、漂流してしまって」
「ごめんなさい、うち子どもが多くって。おら、オメーらうるせー!!片っ端から売り飛ばすぞ!こらぁー!」
顔が豹変したうさ耳の獣人は子どもたちを叱り飛ばした。
内弁慶かな?怒り方が、ちょっとアレだ。怖いな。
「ここら辺だと、どこかで調達でるかね」
「森に入ると、ドングリやキノコは採れますよ。あと海では魚が釣れますし」
「そうですか。イノシシや鹿なんかはいませんか」
カールが愛想よく聞く。顔を半分隠してるのに…。逆に怖い。
「まぁ、いるにはいますよ。オークや一角ウサギとかもいますけど」
「はぁ、魔物ですかぁ。わかりました」
「気をつけて下さいね」
最後は笑顔だったウサ耳のお姉さんにお礼を言って、小屋を後にする。