砂漠の町・サラマリ
街道を一時間ほど進んだところで、後ろから来たサラマリに行くという商人の馬車に乗せてもらえた。
馬車の荷台に乗りながら、持っている荷物を確認した。
「サラマリに着いたら、一緒に冒険者ギルドまで行ってもらうからね」
「ああ、わかった。それより盗賊のところから奪った荷物を山分けしよう」
「私はいいわよ。特に盗られたものもちゃんと戻ってきているし、ユキトが持って行っていいよ。何も持ってないんでしょ」
「まあ、そうだけど、いいのか?」
「ええ、冒険者になったばかりなんだから、色々と必要でしょ」
「うん、ありがとう。袋は必要だし、保存食もあって困るようなものでもないか。武器は全部売ってしまおうと思ってるけど、もし必要なら今のうちに言っておいてくれ」
素直にお礼を言って、これからの予定を話しておこう。
「え!?なんで武器売っちゃうのよ!冒険者といえば、魔物と戦ってなんぼでしょ」
「でも、今、魔物激減してるんでしょ。だったらいらないかと思って」
「いや、でも、武器がないと戦えないじゃない?」
「正直、戦う必要性を感じてないんだよね」
「どうして?」
「だって、魔王との戦争も終わったんでしょ。てことは、魔物を狩る系の依頼も減ってない?」
「た、確かにそうだけど」
「じゃ、もっと効率よく稼ぎたいじゃん。薬草集めたり、薬作ったりするほうが稼げるんじゃないかと思ってるんだけど。だから武器を売って、薬草の本か、薬草をすりつぶす道具とかを買おうと思ってる」
「ん~なんだか、間違っている気がするわ」
「そうかなぁ。じゃ、サラマリ着いて状況を見て判断するよ」
「そうね。きっと戦士や武闘家、魔法使いを見たら、カッコよくて、ああなりたいって思うはずよ」
「呑んだくれているか。冒険者ギルドに溜まっているようなら、即効で武器売ることにするよ」
「なんでよ!?」
「だから、俺の予測だと、勇者が魔王倒しちゃって、魔物がいなくなってるから、戦う人たちは余ってると思うんだよ。せいぜい、腕の良い奴らが用心棒やるくらいしか仕事がないんじゃない?そのためには何年も剣や魔法を使う努力をしないといけないだろ。俺は早く帰りたいんだよ」
「んーと、でも、また盗賊にさらわれちゃったらどうするの?今度は殺されるかもしれないわよ」
俺の言葉を聞いて、納得したくないというようにアイズが反論する。
「たしかになぁ。それはあるかも知れない」
「そうでしょう~」
アイズが自分の正当性を確認するように頷きながら腕を組む。
「やっぱり、探知スキルと罠スキルは必須だな。武器よりスコップとかの方が俺には重要だよ」
「なんで、そうなるのよ!戦いなさいよ!」
アイズがズッコける。
「戦ったって、お腹減るだけだし、時間もとられる。生産性がないよ。否定はしないけど、俺は飛ばされる前にいたところに戻ることのほうが、優先順位が高いんだ。そのためには別に戦う必要はない」
「もういいわよ!勝手にしなさい!変なやつ!」
「ま、異世界者の言うことだから、きっと変なんだよ」
などと話している間に馬車は速度を落とさずに、街道を進んで行く。
昼ごろには壁に囲まれた街が見えてきた。
街の入口で馬車から降り、人の良さそうな丸い商人にお礼を言って別れた。
入り口には兵士が立っていて、ギルドカードを見せると普通に通してくれる。
砂漠の街・サラマリには大きな凱旋門が街の中心にあり、放射線状に道が伸びた街だという。
それだけ聞くとパリのようだなと思ったが、立ち並ぶ家はどこも砂と同じ薄茶色で、ほとんどが2階建て。大きな建物はない。
街の中心に行くほど、身分が高い人達の家があり、物価も高いのだそうだ。
ほとんど、アイズが説明してくれた。
街の入口から、雑貨や果物などを売る店を見ながら歩き、角のパン屋を曲がって、横道を少し行ったところに青い木の看板掲げられた建物が建っていた。
アイズは慣れたように両開きの扉を開き、入っていく。
ついていくと、中はアルコールの匂いが充満していた。バーのように、椅子とテーブルが置いてあり、50席はあるだろう椅子は全て埋まり、立って飲むものや、壁に身を預けながら杯を、あおるものまでいる。堅そうな鎧を来た戦士や、ローブを纏った魔法使いのお姉さんや、神父のような格好をしたお兄さんまで、全員が酔っ払いだ。
そんな様子を見ながら、一番奥のカウンターまで行くと、やる気のなさそうな金髪美女がアイズの顔を見て驚いている。
「なによアイズ、もう帰ってきちゃったの?」
「違うわよ。帰る途中で盗賊に襲われちゃって、今、逃げてきたところ。依頼を出すから、スッカスカのボードに貼っておいて。報酬は治安維持のためだからギルドが出しておいてよ」
「本当に!?よく逃げてこれたわね!」
「本当よ!ほらユキト、こっちに来て!ちゃんと証人もいるんだから」
「あ、どうも。アイズさんと一緒に逃げてきました、スズキユキトです」
「牢屋の中で冒険者カードを渡しておいたわ」
「あ、よろしくー、メイサよ」
受付の中から愛想よく手を振ってくる。
金髪美女にそんなことされると、男子校出身者としてはドキドキが止まらない。
何か話題を探さなくては。
「冒険者ギルドって、もっと固そうなイメージでしたけど、居酒屋みたいになってるんですね」
「ああ、ほら勇者が魔王倒したでしょ。3日前にこの街にも知らせが届いたから、お祝いで、街のいたるところで飲んでるわよ」
「そうなんですかぁ」
これは武器を売ったほうが良さそうだな。
と思っていると、ジト目でアイズが見てくる。
「依頼のボードってどこにあるんですか?」
アイズの視線を逃げるように、メイサさんに話題を振った。
「ああ、ほらそこに。もうほとんど依頼はないけどね。最近、魔物の数も減ってたし」
と受付の脇の壁を指さして教えてくれた。壁全体がボードらしい。
ボードを見ると、砂漠に生えている薬草を探す依頼の紙が一枚だけ貼ってある。
金髪美女のメイサが受付から出てきて、盗賊捕獲の依頼を貼りにくる。
受付の中からだったから、よく見えていなかったが、メイサのスタイルは抜群だった。
胸は少しこぶりだが、足は長く、それを強調するようにぴったりとしたウグイス色のパンツを穿いていた。
思わず見とれていると、パシッとアイズに叩かれた。
「何そんなジロジロ見てるのよ!」
メイサを見た後で見るアイズは小さく、胸がちょっと大きいくらいで、なんというかレベルの差を感じた。
「はぁ・・・がんばれよ」
「失礼ね!あんたは新人なんだから、この薬草採取でもやってなさいよ!」
と、アイズはボードから紙を剥ぎ取り、俺の顔面にたたきつけた。
顔の紙をとって、メイサに渡す。
「じゃ、この依頼、僕がやります!」
「あ、本当!ずっと誰もやりたがらなかった依頼だから助かるわぁ」
と紙を受け取ったメイサは笑顔で答えた。
(その笑顔だけで、世界がちょっと幸せになるよ!マジで!
アイズ、ナイスパス!)
と、アイズに親指を立てると、「なに?気持ち悪いんですけど」って顔をされたが、全く気にならない。
「じゃ、頑張ります!」
メイサにハンコを押された紙を受け取り、急いで冒険者ギルドを出た。
紙と一緒に、薬草をギルドに持ってくれば、依頼達成でお金をくれるそうだ。
「ちょっと待ちなさいよ!」
アイズの声が後ろからした。
振り向くと、アイズが冒険者ギルドから出て、俺を追ってきていた。




