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街道を往く

 灼熱の太陽の光が降り注ぐ中、砂漠の岩石地帯を抜け街道へと向かう。

盗賊の隠れ家から奪った装備で、連れ去られる前よりよっぽど楽に移動できる。

極寒の夜を過ぎた朝、馬車が3台ほど通れる街道が現れた。


街道の脇には石が等間隔に積まれ、砂漠の砂を寄せ付けない。

 アイズの説明によると、石は魔石という魔法をよく通す石で、落とし穴の砂の蓋のように、風の壁が街道を守っているのだという。

 とはゆえ、盗賊や魔物には襲われるので気をつけろとも言われた。


 ちなみに魔物についても聞いてみると


「ああ、勇者が魔王を倒してから、かなり減ったわね。冒険者ギルドも仕事が落ち着いて、ようやく私も休みがもらえたの」


 せっかく飛ばされたのだから、ゴブリンやオークの旦那候補を探しておきたかったんだが、難しいかな?

 でも、ここまで砂漠で魔物に遭っていないことを考えると、厳しいだろう。

 探知スキルをもっと上げて、探したほうがいいな。

 あとは、魔物を見つけたとして、どうやってあの島まで連れて行くか、考えておかなくては。顎に手を当てて考えていると


「なに?魔物怖いの?」


アイズが俺を怖がらせようとしてくるので、


「ああ、仲間にしたいんだ」


 と真実を言っておいた。

 アイズはかなり引きながら、


「ビーストテイマーになりたいの?」


「ビーストテイマー?魔物使いか。そんな職業あるの?」


「いや、だいぶ古い職業よ。仲間にできる魔物も限られているし、この辺じゃデザートサラマンダーぐらいしか、家畜化に成功してないわ」


「デザートサラマンダーって、盗賊のところにいたデカいトカゲか?」


「そうね。ま、飼育スキルが上がれば出来るんじゃないの?」


 そういうスキルもあるのか。やはり異世界は便利だな。


「ただ、飼育スキルを出現させるのもレベルアップさせるのもかなり大変だって話」


「あ、そうなんだ」


 ま、そうそうウマいこと行くわけもないか。


 地図を見て、盗賊の隠れ家と街道の位置を確認し、ここまで1日かかったことを考えると、サラマリまで街道が歩きやすく整備されてるとは言え、2日ほどかかる計算になる。

 移動手段が徒歩だけとなると、このくらいは普通なのかもしれない。


 一路、サラマリへ目指し、街道を歩き始める。

 足のマメも固くなり、かなり歩きやすい。

 

 歩いている間、アイズは自分がどれだけ優秀な冒険者ギルドの職員であるかを語り、俺は、カールたちのことを話すと、めんどうくさそうなので、この世界に落ちてきて、すぐに転移魔法で事故ったことにした。

 

暑さのため、何回も休憩しつつ移動した。

何度か、商人風の馬車とすれ違ったが、サラマリからくる馬車や人が、ほとんどで同じ方向に行く人はいなかった。


夕方になり、日が落ちるとぐっと気温は低くなる。

道の脇で休憩をしていると、デザートサラマンダーに乗った赤い帽子の男がサラマリに向け急いでいるのが見えた。

同じ方向なので、乗っけてってもらおうかと思ったが、「やめておけ」とアイズに言われた。


「あれは、貴族お抱えの輸送便で、取り合ってくれないわ」


と、説明してくれた。


 サラマリには貴族がいるのか。

 ってことは王国かなにかなのかな。

 サールシュタットは大陸だったはずだよな。


 アイズに聞いてみると、呆れながらも「異世界者だから、しょうがないわね」と教えてくれた。

 世界地図で言うと西の大陸サールシュタットには、二つの国があるという。

一つはシオラ王国という王がいる王国で、もうひとつはプロヴィネンスという軍事国家だという。

 サラマリはシオラ王国の街の一つで、大きさはサールシュタットの中で3番目に大きな街だ、とアイズは胸を張って自慢していた。

 

 街道の脇で、毛皮に包まれて寝る。また、盗賊や魔物が現れるかもしれないので、交代で見張りをすることにした。

 男という理由で俺が先に見張りになる。

 現代の日本人だったおかげで、特に夜に弱いわけでもない。

 ただ、暇だった。


毛皮をかぶったアイズは


「襲わないでよ」


と注意してきた。

寝ながらにして首を絞める人に言われたくはない、と反論する前にアイズは鼾をかき始めた。



満天の星空。

天の川のような星の連なりも見える。

ここもどこかの銀河の一部なのかもしれない。



しかし……暇だ。


 

あまりにも暇だったし、寒さで身体が冷えてきたため、暇つぶしに街道から離れたところで、落とし穴を掘ってみることにした。

もちろん、アイズが寝ている場所がよく見えるところで、見張りの仕事をしてなかったから、襲われたなどと文句を言われない位置でだ。

特に大した道具もなかったので、手で掘り進めたが、スキルが上がったおかげでかなり早く掘れることがわかった。

調子に乗って、どんどん作っていると、気づけば8つほど落とし穴ができていた。


・罠Lv.5にレベルアップした。


 一気に2つもレベルアップした。

 早く他にも違う罠が仕掛けられるようになりたいものである。

 そろそろ、見張りの交代の時間だ。

 アイズを起こしに行こう。



「ん…もうちょっと…」


 肩を揺すって起こそうとするが、アイズは一向に起きる気配がない。

 被っている毛皮を剥ぎ取ると、


「死んじゃう!殺す気!」


 と、すごい剣幕で俺の手から毛皮を奪い、そのまま寝始めた。

 しょうがないので、俺も毛皮をかぶり寝ようとして、気づいた。


 なるべくアイズから離れて寝たほうがいいよな。これは自分自身を守るためにも。いや、むしろ縛っておいたほうが確実だな。よしっ!


 俺は袋から、盗賊の隠れ家にあった手錠を取り出し、アイズの手と足にかけた。

手錠をかけている時も、特に起きることはなかったので大丈夫だろ。起きる前に外せばいいのだし。

 と、思って俺は寝た。




 途中、なんか気配がしたが、割りとゆっくり眠れ、気持ちの良い朝を迎えた。

 伸びをすると、誰かの視線を感じた。

アイズが不満そうに、こちらを見てくる。


「結構、私はあなたに優しくしていたつもりだけど、これはどういうこと?」


「ああ、すまない。昨日みたいに襲われるとかなわないと思って」


 急いで手錠を外しながら、ワケを説明した。


「それに、見張りの交代のために起こそうとしたけど、一向に起きなかったじゃないか。その罰としてってことで許してください」


 アイズにも非があるはず、と追い打ちをかけると意外にも素直に聞き入れた。

 自分の寝相が悪いことを自覚しているのだろうか。


「それより、夜にサンドコヨーテが出たんだけど、落とし穴に落ちていたわ。あの落とし穴はあなたが作ったの?」


 手錠がかかっていた手首をさすりながらアイズが言う。


「ああ、そうそう。見張りが暇だったから、何個か作ってみたんだ」


 俺は探知スキルを全開にして、自分の作った落とし穴を探ると、一匹、魔物の気配がした。

 中をのぞくと、薄茶色の狼が、穴の中をグルグルと回って、しきりに穴の壁をほじくっていた。


「やあ、あんまり壁を弄らない方がいいぞ。崩落するかもしれん」


 と中のサンドコヨーテに声をかける。


「グルルルル・・・」


当たり前だが、警戒している。


「言葉は話せないか?」


「グルルルルル・・・」


 言葉は骨格からして難しそうだ。

 アイズが手斧と弓を持ってきたので、止めた。


「どうしてよ!あ、もったいない?でも、また石だと時間かかるわよ」


「いや、殺す気はないよ」


「なんでよ!」


「言っただろ、ビーストテイマーになりたいんだよ。おれは」


「でも、サンドコヨーテは無理よ。絶対、人のいうことなんか聞かないんだから」


「いいんだよ。それでも」


「でも、じゃ、どうするのよ。このままにしておいても、この魔物は死ぬわよ。それに穴から出したって、私達を襲うかもしれないじゃない」


「うん、まあ、そうだけど。とりあえず、朝飯食おう。食ってから考えないと、うまいアイディアが出ない」


 アイズにはその場しのぎのことを言い、食料を持ってこさせる。

 パンに干し肉を挟み、サンドイッチにして食うと、そのまま食べていたアイズも真似をしてサンドイッチにして食べる。

 もう一つサンドイッチを作り、「もったいない!」というアイズの言葉を無視して、サンドコヨーテの穴に放る。

 

 一瞬警戒したが、俺が同じものを食べているのを見せると、サンドコヨーテはパクっと一口で食べた。

その様子を見ながら、俺は考えていた。

 一匹狼という言葉はあるが、狼が一匹でいるというのは、珍しい。

仲間はずれにされたか。

それにしては体に傷がない。

食料に困った親が子どものために食料を探すこともあるかもしれない。


6つほど干し肉のサンドイッチを作り、布を風呂敷にして詰めた。

アイズはわけがわからないといった表情をしていたが、落とし穴に俺が降りると驚いていた。


サンドコヨーテは相変わらず、警戒していたが、サンドイッチを与えたためか、襲っては来なかった。


「お前を殺す気はない。食べ物を与えておいて、殺すわけがないだろう?」


俺の言葉に、少し警戒が解ける。


「話がしたいだけだ。話が終わったら、これを渡す」


と風呂敷を見せる。


「この中にさっき食べたサンドイッチが6つ入っている。いいか?」


サンドコヨーテは首を縦振り、頷いた。


「お前は一匹だけか?」


サンドコヨーテは首を横に振った。


「じゃ、仲間がいるんだな?魔王が死んで、生きてる魔物たちで身を寄せあって生きているというところか」


サンドコヨーテは首を何度も縦に振った。


「そうか、わかった。これを持っていけ。すぐにここから出す」


と、サンドイッチが入った風呂敷をサンドコヨーテの前に置いた。

サンドコヨーテは訝しげに俺を見る。

なぜ、こんなことをしているのかわからないのだろう。

俺の称号が見られればいいのだが。


「まぁ、人間の気まぐれと思ってくれ。あと、もし、ゴブリンか、オークがいたら教えて欲しい。とりあえず、何日間かサラマリの街にいるはずだから。もちろん、人間に襲われそうだったり危なかったら、来なくていいが、出来るか?」


そういうと、サンドコヨーテは「アオ~~~~ン!!」と遠吠えをするように吠えた。


「よしっ、それを合図にしよう。近くに来たら、俺が街の外に行って、お前らを探す。俺はお前らに危害を加えるつもりはない。ただ、少し協力して欲しいだけなんだ」


サンドコヨーテは首を縦に振り、風呂敷を咥えた。

俺はサンドコヨーテを持ち上げ、穴の外へと出してやった。

俺も、穴の縁に手をかけて、登った。

穴の外で、俺が出てくるのをサンドコヨーテが待っていた。


「ほら、早く行ってやれ」


 と言うと、サンドコヨーテは疾走って砂漠の丘の向こうに消えた。

アイズは顔を青くしていたが、「先を急ごう」というと、


「そんなのわかってるわよ!…あんた何もの?」


「俺は異世界者だよ」


そう言って、荷物を持って街道を歩き出した。

まだ、納得が行かないという表情をしているアイズは「なぜ?サンドイッチを作ったのか」「あんたの世界では普通なのか?」などと、質問攻めにしながら、俺の後をついてきた。


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