砂漠サバイバル
どこまで行っても砂砂砂砂砂だらけ。
転移魔法の途中で魔法陣の外に手を出した俺は砂漠に飛ばされた。
時差のためか、島では日暮れだったが、砂漠は朝だった。
ちょうど、この星の反対側かな?
唯一、手に持っていたのはシカの毛皮だけ。
ただひたすら歩き続ける。
何をやっているんだ俺は。
やってはいけないと言われると、どうしてもやってしまう。
子供の頃からずっとそうだった。
やったらどうなっちゃうんだろうということを、やってしまいたくなってしまう。
学校の花壇には踏み込み、理科の実験では爆発させ、遠足では必ず迷子になっていた。
学校を出てからも、上司のヅラを取り、太った女子社員のストックしていたお菓子を食べつくすなど、法律的には微妙なしょうもない、やってはいけないことをやってしまう。
その結果、異世界の砂漠で遭難している。
「何をやっているんだ俺は」
ずっと、頭のなかをぐるぐると回っている。
夜になれば寒くなるから、シカの毛皮は必須。
服は長袖のシャツにジーパン。靴はスニーカー。
他には何もない。
レベルも1だし。
自分のスキルも知らない。
こんなことならテスの訓練を受けておくべきだった。
受けていたところで、どのくらい状況が変わっていたかは知らないが。
少なくとも、こんなに不安じゃなかったような気がする。
はぁ、砂漠というだけで喉が渇く。
頭が灼けてきたのでシカの毛皮をかぶる。
獣臭さと暑さでぐったりするが、火傷だらけになってしまう。
一歩一歩、砂に足を取られながら、砂山の尾根を進んでいく。
砂の丘がずーっと続いている。
日陰である谷にはなるべく入ってはいけない。
砂漠での死因で多いのは溺死。
砂漠にも雨は降るが、これだけ細かい砂では水を吸収せず、流れ流れて、一箇所に集まり、鉄砲水となって押し寄せる。
それを知らずに地面が固く歩きやすいという理由で、鉄砲水の川の後を歩き、夜になって近くで寝ていると、どこかで雨が降って、再び鉄砲水が押し寄せ、溺死する。
昼になる前に、砂を掘り日陰を作って休む。
足にはまめができていないか確認する。砂に足を取られ、歩き方が変わるからだ。
足はあまり、問題ないようだ。
これからどうするか。
夜になるまで、休み。気温の下がった夜に活動する。
確か、前に本で読んだことがある。
昼間は体力を温存し、夜に動き出したほうがいいんだったけか?
そう考えている間に、足元が風に巻き上げられた砂で埋まり、掘った穴が塞がっていく。
このままでは生き埋めだ。
やはり、現実と本とは違うのか。
穴には砂以外の者も落ちてきた。
サソリだ。
見た時は多少焦ったが、シカの毛皮で殴りつけ、仕留めた。
外人のサバイバル番組を思い出しながら、サソリのしっぽを毟って、食べる。
味?味なんてわかんねーよ。海老の尻尾みたいな食感だった気がする。
適当に噛んで、飲み込む。後味最悪。
それでも貴重なタンパク源?と思って、自分を納得させる。
もうほとんど穴ではなくなってしまった頃、のそのそと立ち上がり、歩き始める。
ピークは過ぎたものの、昼間の太陽は厳しい。どんどん俺の体力を奪っていった。
途中で、何かあればいいのだが、その日はずっと砂だった。サソリもあれ以来、出てきていない。
日が暮れて、気温がグッと下がる。見上げれば、アホみたいにキレイな星空が広がっていた。アホかっちゅーねん。ギャグギャグなのこの状況は?
喉も渇いた。唇がカサカサだ。俺はこのまま、死ぬかもしれない。
めっちゃ寒いし。
などと考えるのも諦めて、凍えながら歩く。
動いてないと凍死しちゃう。
ようやく空が白み始めた。
足にはまめができ、それが潰れて血豆になっていたが、痛いはずなのに、どういうわけかあまり痛みを感じていなかった。アドレナリンが出ていたのかな?
明け方、ようやく砂漠で人工物を発見した。
砂山の谷に馬のいない馬車が砂に埋まっていた。
幌馬車の幌の部分だけが砂から出ていた。
何かあるかと近づいて、中を覗いたが何もなかった。
幌の中を少し掘ってみても、何もなかった。木の板があるだけ。
盗賊かもしれない。きっとそういう危険もあるだろう。
地面は固かった。もしかしたら、鉄砲水の後かも知れない。
でも、馬車?砂漠で?それはおかしい。砂だらけの中を車輪のついた馬車がいけばすぐに埋まってしまうだろう。それとも、何かの魔法があるのかな?
もしかしたら、近くに街道があるのか?
当たりだった。
砂山を一山越えると、道があった。
良かった。街道があるということはその先に街があるということだ。少なくとも誰か住んでいるはずだ。
道の両端には石が敷き詰められ、何㎞毎かわからないが、大きな石が置いてある。その石には複雑な模様が書いてある。きっとそれが魔法陣のようなものになっていて、街道を砂で埋もれさせないように守っているのだろう。
だが、そんな街道も盗賊からは守ってくれなかったようだ。
巨大なトカゲのような生物に乗った盗賊たちは、体力のない俺の襟首を掴んでかっさらった。腹に一撃入れられ、俺は気を失った。




