半魚・・・グマ?現る
11/17 修正しました。
目が覚めると、カンカンという音が洞窟の中に鳴り響いていた。
音のなる洞窟の奥に行くと、オークのおばさんが、通路を掘っていた。
「ああ、ごめんね。起こしちまったかい?」
「いや。ただ、どのくらい広くするのかなぁと思って」
「『ユキトが男をスカウトして来るっていうから、広げた方がいい』って魔王様が言ってたから、何世帯か住めるようにするつもりだけど…どのくらいスカウトするつもりなんだい?それによって、もうちょっと広げなくちゃいけないんだけど」
「ん~まぁ、そんなに期待されても困るんだけど、急がなくてもいいんじゃないかなぁ…まだ、魔物がいる場所も知らないし」
掘っていたオークは「え?」という顔をして、手を止めてしまった。
「あ、いや、もちろん探すけどね」
「男手は欲しいから、できれば早めにお願いね」
「はい」
なんだろう、とてもプレッシャーを感じる。
女ばかりで不安なんだろうか。
テスに鍛えてもらってるんだから、力仕事はここの魔物たちの方が出来るんじゃないかと思うが。
ま、それも、魚の買い付けが出来てからだなぁ。
外に出ると、カールがゼイゼイ言いながら、水がめから水を飲んでいた。
「おはよ」
「ああ、ユキト。おはよう」
「テスと修行か?」
「うん。ユキト頼む。替わってくれ」
「いや…俺は後でいいや…」
悲惨な様子を見て、テスとレベル上げはしたくないな、と思った。
「俺だって、魔王になんかなりたくないよ。普通に暮らしたいだけなのに」
「ああーーー!!!」
悲鳴とともに100キロ以上あるオークが宙を舞っていた。
「次――!!」
というテスの声が森の奥からこだました。
木の上を鳥達が一斉に飛び立った。
カールは青ざめていたが、空も青く、天気のいい朝だった。
顔を洗いに川に行くと、昨日まではなかった岩が川の近くにあった。
特に気にせず、顔を洗っていると、生意気な水の精霊が話しかけてきた。
「おはよう、今日は勇者を倒す話はしないのね?」
背中からは羽が生え、青い衣を着た小さい妖精のような水の精霊ウェンディーは、俺の頭の上をくるくると飛びまわった。
「おい、あんまり俺のそばに寄るなよ。匂いがつくだろ」
「私のどこが臭いっていうのよ!レディーに対して失礼よ!全く異世界人ってのは礼儀も知らないのかしら!?」
「俺は魔物と暮らしてるんだぞ。あいつらはお前みたいな精霊の匂いが嫌いなんだよ」
俺が文句を言うとウェンディーは腕を組んで、ほっぺたを膨らました。
どこまでもベタなやつだ。
すると、川のそばの岩がビクビクと動き始めた。
「ぐふふふふ、ウェンディーに臭いなんて言う奴がいるとは、精霊も形無しだな」
岩だと思っていたものがぐるりと周り、巨大な熊の顔が現れた。
上半身は熊の体をしているが、下半身は魚だった。
「あなたが、上の者を呼んでこいと言ったから、連れてきたわ」
「あ、ども、ウェンディーの上司のワッカカムイですだ」
この少し訛っている半魚熊も水の精霊らしい。
「ああ、それはどうもお疲れ様です。大変ですね。部下の尻拭いも」
「いえいえ、それも上司の務めと思っていますだ」
「よく、こんな精霊を部下に持ちましたね。信じられない忍耐力だ」
「ええ、全く。いつかわかってくれるだろうと、放っておいた結果がこのようなことになってしまい、ご迷惑をお掛けしたようで、本当に申し訳なぐ思っとります」
俺とワッカカムイが会社員のような会話をしていると
「ちょっとどういうこと!まるで私が何も出来ない精霊みたいに言わないでよ!」
何も言わずにじっとウェンディーを見てから、ため息をつくワッカカムイ。
そんなワッカカムイの肩をそっと叩く俺。
「そ…そんな、私だってちゃんと仕事してるもん、私だって私だって……」
とウェンディーは駄々っ子のように泣きだした。
目から滝のように涙を流して、水たまりを作っているが、
それを完全に無視して
「それで、あのですね。海の方なんですけど…」
「はいはい、うかがっております。温度が高いままだとか?」
「そうなんですよ。もうすぐ季節は冬だと聞いたんですが、海が温かいままだと魚もやって来ませんよね」
「ええ、全くその通り」
「こういうことは前にもあったんですか?」
「ええ、20年に1回か、30年に1回くらいでしょうか」
ワッカカムイは俺の前の地面で、ヒレを曲げて正座をするように座った。
俺もワッカカムイに膝を付き合わせるように、向き合って座る。
「なるほど、そうですかぁ」
「今回のことは全くこちらの方としても気づいておらず、水の精霊を総動員して、冷やして行く所存でおりますだ」
「いやいや、ちょっと待って、これも自然のことでしょう」
「ええ、ですから、我々、精霊が力を合わせ対処していきたいと思っておりますだ」
「それは‥…ちょっとまずいんじゃないんですかね?」
「え?なぜ?」
「いや、海水の温度が下がらないのも自然の流れの一つなのだと思います。だから冷やす必要はありませんよ、きっと」
「そうなのですか?」
「ええ、何年かに一度、海流の動きも変わらないと、生物の多様性がなくなりますからね」
「多様性?」
「『多様性―生態系・生物群系または地球全体に、多様な生物が存在していること』」
あ!ロボユキトがでてしまった。
「は?」
俺は必死で手を振りながら、取り繕う。
「例えば、海の流れが変わることで、いままでいなかった種がやってくると生態系が変わることがありますよね。栄養の高い植物が海をわたることもあれば、蝶が新天地を求めて飛び立つこともあるかもしれません」
「は…はい」
「もちろん良くなることもあれば、悪くなることもあるかもしれません。しかし、種として多くの耐性が着くはずです。それは生物にとっていいことなのではありませんか?」
「はぁ、では我々はどうすればいいのですだ?」
「さあ?お告げでもすればいいのではないでしょうか?嵐が来るので気をつけてくださいとか」
「それだけ?」
目を丸くするワッカカムイ。
「ええ、そうですね。まぁ、私は異世界の者ですから、普段どうしているか知りませんが、それぐらいで滅ぶ生物は、いつか滅びますからね。自然淘汰というやつです」
「しかし、南の海で魚がいなくなると、多くの生物に影響が出るかと思うのですが」
「ええ、そのことなんですけどね。北から魚を仕入れてこようかと思っているんです。もちろん加工して塩漬けにでもして輸入するんですけど」
「なるほどなるほど、それは素晴らしい案ですだ。もしよろしければ、費用ぐらいはこちらで負担したいと思うのですが」
ワッカカムイは顎を掻きながら提案する。
「あ、いえいえ、大丈夫です。セイレーンに協力してもらって、難破船から金目の物を引き上げているんで。輸送の際にでも、危険な海域とかがあれば船員に教えて上げたりしてください」
「やはり、お告げだけで?」
「ええ。それに、あまり自然の流れを変えないほうがいいのではありませんか?」
「参りました。全くそのとおりでございますだ」
俺に向かって半魚熊は頭を下げた。
「できるだけ、自然の営みに邪魔をしない方向でお願いします」
「かしこまりました。このことは全精霊に通達しておきますだ」
「あ、俺のことは内密に」
「なぜですだ?これだけの知恵者なら、あらゆる精霊が加護を与えに来ますだ」
「魔物とともに住んでいますので、あまり精霊の力は借りたくないんですよ」
「わかりました。ただ、何かあれば、なんでも言ってください。名は伏せますが、そういう者がいるということだけは広めておきますから」
「わかりました」
「では」
ワッカカムイはそういうと、ウェンディーの首根っこを掴んで、ドプンっと川に飛び込んで、消えた。
俺は精霊の匂いがついてしまったかなと思って、自分の服の匂いを嗅ぎ、上流のほうにある滝壺で身体を洗った。
あ!俺をこの世界に落とした精霊について聞くの忘れた!




