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プロローグ


 アパートのポストに手紙が届いていた。

母校の男子校が旧校舎を取り壊し、共学になるという。

 男ばかりでむさ苦しい高校生活を送っていただけに、特に思い入れなんてなく、読んだ手紙はそのままゴミ箱に捨てた。


都会の大学を卒業し、アルバイトを渡り歩き、やることもなくなったので田舎に戻り、実家の近くのアパートで一人暮らしをしている。

田舎のアパートは広いし、家賃も安いので、場所をとって買わないでいた本を大量に買うことができた。

田舎でも相変わらず就職をする気はなく、いくつかのバイトを経て、図書館でのバイトを見つけた。本好きとしては最高の仕事で、今日も図書館へと8000円で買ったママチャリを飛ばす。

図書館で本を整理し、家に帰って、気になった本を読む。これだけネット社会だというのに、電子書籍を買わず、ソファーの周りには、うず高く本が積まれている。

そんな日常に不満はなかった。


仕事が終わり、愛車のママチャリにまたがると電話がかかってきた。都会に行った友達からだった。

「ちょっと学校の様子見てくれば?っていうか、お前の家近いんだから、写真でも撮ってSNSに上げて報告しろよ」

なんて言うもんだから、めんどくさいなぁと思いながらも、帰りにちょっと寄ってみることにした。

 

学校の敷地には借り校舎が建てられていた。俺は通った旧校舎の方に回ってみると金網が張られ『立入禁止』の看板がかかっていた。

たいていやってはいけないことを、気をつけていてもやってしまう性質を持つ俺は、立入禁止を無視し、金網をよじ登った。性格というよりも性質というのは、俺の意思に関係ないからだ。「これはダメだ」「禁止」と言われると、ダメだとわかっていても、やってしまったらどうなるのか?と想像してしまい、行動がそちらの方に引っ張られ、結局はやってしまうからだ。


正面玄関だった場所に降り立つと、学校裏の雑木林から風が吹いてきた。

北国の日はとっくに暮れ、街灯の明かりもほとんど届いていない。風に揺れる木々がザワザワと音を立てた。


「ここも壊されるのかぁ」


旧校舎の上を見上げると、屋上の時計は2時50分で止まっている。

歩き出そうとした瞬間に、あると思っていた地面がなく、無様に落ちていった。

思い切り腰を打った俺は、顔を歪めて上を見上げる。


どうやらマンホールの蓋が開いていて、時計を見上げていた俺はそのまま落ちたらしい。丸く開いた穴の上には、星が瞬ている。


とりあえず携帯電話を取り出すと、落ちたショックで電源が入らなくなっていた。

「助けてくれー!」と叫んでみたが、何の反応もない。

マンホールなのだから下水道につながっているはずだ、と思って壁を触っていくが、一向に扉もハシゴもなく、ただただコンクリートの壁があるだけだった。


「…詰んだ」


朝、工事のおっちゃんが来るまで、寝てようか。

明日のバイトは完全に遅刻だ。

壁に背中を預けて座ると、地震が起きた。


しかも長い。


え?止まらないけど……。


まずい!と思った時には、地面が崩れ始めた。

座っていた土が、どんどんと落下していく。

もちろん、俺も落下していく。

 

落下は止まらず、長いトンネルを抜けると、そこは青い空だった。


寒い。

空気が薄い気がする。

上を見上げると、俺が出てきた穴がだんだん塞がっていく。

「地底帝国!?」と思ったが、空がある。

どうなっているのか考えている最中も、ずっと落下している。


ここがどこだかはわからないが、下を見ると海が広がっていた。

落ちるなら海のほうが確率は高い。

地球は7割が海だもの、森や山に落ちる可能性は低い、などと考えたが、地球かどうかも怪しいな、とまた不安になってくる。


異世界か?だとしたら、ハーレム?チート能力?神様どんな能力を俺にくれんの?と思ってみるのだが、寒いし、まだまだ落下してるし、それどころじゃない!


海面が近づいている。

陸地がかなり遠くに見える。

どうしよう、このまま落ちたらバラバラでっせ!え?なに?異世界に来た途端、とりあえず死ぬの?バカなの?そりゃ、あんまりだ!おいおいおいおいマジか!マジかよー!


海面まであと数十メートルというところで、横から突風が吹いてきて、落下する俺に当たり、衝撃を横に逃した。

水切りの平たい石のように海面を跳ねていく。

ようやくドボンっと海に入り、沈みながら俺の意識は途切れた。


意識が途切れてい中、誰かに腕を掴まれたような気がする。


すさまじい衝撃が腹を襲い、意識を取り戻した。

水を吐き出し、思い切り空気を吸う。

口の中は海の塩味なのか俺の血潮なのか、しょっぱい。

涙目で辺りを見回すと大海原の中、小舟に助けられたらしい。


俺を助けてくれた小舟には、青年と、ムキムキのおじいさんが乗っている。

何かしゃべっているが、まるで何語かわからない。

ジェスチャーで「飲め」とひょうたんを渡されて、恐る恐る臭いを嗅ぎ、中身を少し舐めてみたが、ただの水のようだったので、ゴクゴクと喉を鳴らしながら大量に飲んだ。

すると、いままで何をしゃべっていたかわからなかった二人の言葉がわかるようになっていた。


「おい、落ち着いたか?」


「あ、はい、ありがとうございます」


俺は助けてもらったおじいさんに頭を下げた。


「変な服」


「え?ああ」


青年の言葉に、自分の服との違いに気づく。


ムキムキのおじいさんは、革の胸当てのようなものを着け、作業着のようなズボンをブーツに入れて背中に大剣を背負っている。

少年は、フード付きのローブのようなものを着ているが、下は短パンにサンダルだ。

俺は白シャツにジーパン、スニーカーという日本では普通の格好をしていた。


「鈴木幸人と申します、助けて頂いて、ありがとうございます」


「いや、礼には及ばん。空から落ちてきたので海から引き上げて、水を飲んでいたようだから腹を踏んづけただけだ」


ムキムキのおじいさんは、手を振りながら笑う。

あの衝撃は腹を踏んづけられたからか。


「僕の名前は、カール。こっちは、テスト」


青年は俺の手を取って握手をし、ムキムキのおじいさんの名前を教えてくれた。


「テスト?」


「ああ、テスと呼んでくれ。ちなみに、ただいま絶賛漂流中だ」


「漂流中?」


「うん。親父が死んでさ。逃げてる最中に漂流してんだ」


カールは、屈託なく笑った。


「ま、なるようになるさ。もう少し漕げば島につくと思うんだが、ほれこの通り」


テスがオールだった棒を俺に見せ、笑った。

バッキバキに折れていた。


なんでこの二人は笑っていられるのだろう。

ボートのような小舟で漂流して、周りに陸地が見えないのに、全く気にしていない。


聞いてみると、「どうしようもないことにくよくよしていてもしょうがない。屁でもこいたほうがましだ」とテスは特大のおならをして、ちょっとだけボートを前に進めた。

カールもギャハハハと笑っている。


「あれ?逃げてるって?お父さんが亡くなって逃げてるっていうのは、どういうことですか?あ、いや、言いたくなかったら、いいんですが」


「ああ、俺はコイツの親父の親友でな。勇者が城を攻めてきたから、逃げるのを手伝ったんだ」


「勇者?」


「うん、僕の親父、魔王なんだ」


「はぁっ!!!」


驚いている俺を、二人はまた笑った。



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