俺と彼女とボス
「文明、ここだよ。ここにボスはいるんだよ!」
かれこれ、2時間は歩かされただろうか。
時計は持っていなかったが、直感的にそんな気がする。
俺の身体は雪で体力を奪われていた為、疲労感が半端じゃない。
ルルはと言うと、全く疲れていないようだった。
ずっと俺の手を握ったまま、笑顔で「ボス」と呼ぶ人物の元へと連れていく。
ここにボスがいると言ってルルが連れてきた場所。
それは廃墟が立ち並んだ、街とは言い難いが古びた街。
スラム街と呼んだ方が良いのかもしれない。
つまり、ボスと言うのは相当の悪者なのかもしれない。
異名として呼ばれるならスラム街に住む悪魔とか、きっとそんな奴だ。
どうせ俺は、そのスラム街の悪魔とやらに殺されて臓器を売られるか
自爆テロでも仕掛けて来いって言われるんだろう。
元々、死ぬつもりでルルについて来たのだから
どうされようが、どう死のうがどうでも良くなってきた。
自嘲気味に溜息を吐いた瞬間。
廃墟の物陰から、何かが飛び出してきた。
「うわぁっ!」
「…え?どうしたの文明?」
ルルが俺を見ようと振り返った瞬間。
俺が叫んだ後に逃げ出そうとした瞬間。
「ぐふっ…!?」
俺は腹を蹴り飛ばされて、派手に吹っ飛んだ。
弱り切った体を、強かに地面に打ちつけて咳込む。
ルルが何か叫んでいたが、何て言っているのか聞こえない。
慌てて立ち上がろうとするものの、その飛び出してきた何かは俺に馬乗りしてきた。
廃墟の影でそれが何なのかは分からないが、危険だというのは明白だ。
危険を感じた俺は、必死で抵抗しようと足をバタつかせ、腕を振り回す。
しかし
抵抗した瞬間、燃えるような熱さを感じた俺の右肩には、深々と刃物が突き刺さっていた。
「あ…っ、うあぁぁぁぁっ!!」
痛い、痛い、熱い、熱い。
身体は寒さで凍えていたが、溢れてくる血は熱い。
刺さったナイフは骨を掠めていて、傷口は痺れて痛い。
馬乗りになっているそれは、唸り声を上げながらナイフを手前に引く。
法則に従って、俺の肉は裂けていき激痛に耐えられぬ身体と口は悲鳴を上げる。
助けを求めようと、ルルの名を呼ぼうとした。
いくら女の子であっても、この際もう仕方がない。緊急事態なのだから。
しかし、ルルの姿を捜すが見当たらない。
吹っ飛ばされたこの場所から、そんなに離れている訳がないのに。
…ああ、きっと逃げたんだな。
畜生、あの女…!!俺を助けに来たんじゃねーのかよ!
散々、歩かせておいてやっぱり裏切りやがった!
やっぱり絶望的だ。こんな世の中は、もう嫌だ…!!
誰か…、誰か…!
「た…助けてくれぇぇぇぇっ!!」
思わず叫んだ。
…あれ、俺…?
今、「助けて」って言ったのか…?
何で……?
「ボス!いたよ!あっちにいる!」
聞き覚えのある声がして、はっと我に返って。
俺に馬乗っていた奴が、何かの気配に気づいて背後を見た瞬間。
その瞬間、俺の視界からそいつの首が消えていた。
俺の視界の映像と血生臭いその臭いが、物語る。
そいつは死んだ。
「文明!」
ルルが俺の元へ駆け寄り、顔を覗き込んでくる。
俺は俯いて、ただ肩の痛みに朦朧としていた。
先ほどまであった、ルルへ対しての怒りは痛みで萎えてしまったようだ。
ただ、心配そうにする彼女に酷く苛立ちは感じていた。
逃げておきながら心配するフリなんてしやがって…。
「ボス、この人だよ!今日はこの人を見つけてきたの!」
ボス…?
ああ、ルルが言っていた奴か。
スラム街の悪魔が今、目の前にいるのか。
人の気配を感じて、俺は顔を上げた。
「お疲れ様、ルル。」
廃墟の影との境に立つその人物が…ボス。
「これはこれは、随分と若い子じゃないか。」
黒いコートとブーツに、サーベルを持っている。
………あれ?
「…え、…あ、あの…」
「ん?どうした?」
「あなたが、ボスなんですか?」
「うん、そうだけど?」
少し照れたように、はにかむ。
「私は神本美凪。近くにアジトがあるから、そこまで案内しよう。」
彼女が、ボス。




