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真面目なメガネとドジっ子甘え上手の恋の方程式

作者: 桐見川真緒
掲載日:2026/07/11


俺、春野祐介は、幼なじみの早瀬佳奈に人生を振り回され続けている。

物心ついた時から隣の家に住む彼女は、俺の日常に欠かせない存在だ。

真面目が服を着て歩いているような俺と、ドジで頭が回らないのに甘えるのが天才的な彼女。

今日も朝からその組み合わせが炸裂している。


「ゆうくん! 起きてー! 一緒に学校行こうよ!」


俺を揺すりながら起こそうとしている、明るい声。

時計を見ればまだ七時十五分。

俺はため息をつきながらベッドから起き上がり、眼鏡をかけた。

俺が起き上がったすぐ横にいたのは、制服姿の佳奈だった。

ネクタイが曲がり、リボンが片方だけ外れ、鞄からはノートがはみ出している。相変わらずだ。


「佳奈、もう少し静かにしてくれ。父さんがまだ寝てるぞ」

「えへへ、ごめんなさい。でもゆうくんが起きないと、私一人で学校行けないもん」


彼女は上目遣いに俺を見て、にこっと笑う。

その笑顔を見ると、俺のツッコミスイッチが一瞬オフになる。


昔からこのパターンだ。小さい頃、佳奈が公園で転んで泣いているのを俺が慰めて以来、ずっとこうして甘えられてきた。


「ほら、ネクタイ直してやる。曲がってる」


俺が手を伸ばすと、佳奈は胸を突き出して待っている。距離が近い。甘いシャンプーの匂いがする。


「ゆうくん、優しい。大好き」

「大好きとか軽々しく言うな。ただの幼なじみだろ」


俺は顔を赤らめながらネクタイを整えた。佳奈は満足そうに笑って、俺の腕に絡みついてくる。


ーー


「一緒に歩こ。今日も遅刻しちゃダメだよ?」

「遅刻するのはお前だろ。俺はいつも時間通りに起きてる」


二人はいつもの通学路を並んで歩き始めた。

桜の木が並ぶ道を、佳奈はスキップ気味に進む。

俺はそんな彼女のペースに合わせながら、時々手を引いて道を修正する。


学校に着くと、クラスメートたちの視線が集まる。

幼なじみで同じクラスというのは、すでにネタにされている。


「春野と早瀬、また一緒に登校かよ。羨ましいな」

「誤解するな。単に隣同士だからだ」


俺がそう言うと、佳奈が後ろから俺の袖を引っ張る。


「ゆうくん、席着いたら消しゴム貸してね」


授業が始まると、佳奈のドジが本領を発揮した。英語の小テストで、彼女は問題用紙を逆さまに置いていた。


「佳奈、それ逆だぞ」


俺が小声で囁くと、彼女は慌てて直すが、今度は消しゴムを落として床に這いつくばる。


「拾えない……暗いし怖い……」

「仕方ないな」


俺は自分の席から身を乗り出して消しゴムを拾ってやった。

後ろの席の佳奈が、俺の手をぎゅっと握ってくる。


「ありがとう、ゆうくん。やっぱりゆうくんがいないとダメだね」


その言葉に、胸がざわつく。

俺は真面目で、将来は大学で文学を学び、小説家を目指している。

佳奈のような自由奔放な子と一緒にいると、計画が狂う。でも、それが嫌じゃない自分がいる。


放課後、文芸部で原稿を書いていると、佳奈が部室に顔を出した。


「ゆうくん、まだ? 一緒に帰ろ。今日はスーパーでアイス買ってあげる!」

「部活中だ。少し待ってろ」


佳奈は素直に隣に座り、俺の肩に頭を乗せてくる。柔らかい髪が触れる。


「……重いぞ」

「重くないもん。ゆうくんの肩、落ち着くんだもん」


後輩たちがニヤニヤしているが、俺は無視して原稿を続ける。佳奈は静かに待っていてくれる時もある。でも今日は違った。


「ねえ、ゆうくん。最近、私のことどう思ってる?」


突然の質問に、俺はペンを止めた。


「どうって……幼なじみだろ。昔から面倒見てきた相手」

「それだけ?」


佳奈の声が少し寂しげだ。俺は眼鏡を直しながら答える。


「お前はドジで、勉強も苦手で、いつも俺を振り回す。でも……一緒にいると楽しい。毎日が予測不能で、退屈しない」


佳奈の顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ、もっと甘えてもいい?」

「限度はあるぞ」


ーー


その夜、俺の部屋で一緒に宿題をしていた。佳奈は数学の問題で詰まっている。


「ゆうくん、これわからない……」


俺が隣に座って説明すると、彼女は俺の腕に抱きついてくる。


「ゆうくん、先生よりわかりやすい」

「集中しろ」


説明を終えると、佳奈が真剣な目で俺を見た。


「私、ゆうくんがいなかったら学校に来られないと思う。ドジで失敗ばっかりして、みんなに笑われる。でもゆうくんがツッコんでくれるから、頑張れるんだ」


その言葉が胸に刺さる。

俺は佳奈の頭を軽く撫でた。


「俺も、お前がいないとつまらないよ。真面目すぎて息が詰まる時、お前のドジが救いになる」


佳奈の目が潤む。部屋の空気が変わった気がした。


「ゆうくん……好き」

「え?」

「大好きじゃなくて、恋として好き。幼なじみじゃなくて、彼女になりたい」


俺の心臓が激しく鳴る。眼鏡が曇りそうになる。


「急に何を……俺はまだ、そんなこと考えてなくて……」

「嘘。ゆうくん、私のこと見てる時、優しい目してるもん」


佳奈が俺に近づく。

甘い匂い。

俺は後ずさるが、壁にぶつかる。


「待て、順序が……」

「順序なんて関係ないよ。ずっと一緒にいたんだから」


彼女の唇が近づく。俺は最後までツッコミを入れた。


「馬鹿、こんなタイミングで告白するな!」


でも、手は彼女の肩を抱いていた。


ーー


それから数日後、文化祭の準備が始まった。クラスはメイド喫茶をやることになり、佳奈がメイド服を着ることになった。


「ゆうくん、見て見て! 可愛い?」


短めのスカートにフリルたっぷりのエプロン。佳奈がくるっと回る。


「短すぎるだろ! 客に見せる服だぞ!」


俺は全力でツッコミを入れるが、内心では可愛いと思っている自分がいる。


準備中、佳奈は梯子から落ちそうになり、俺が下から支えた。結果、彼女の太ももが俺の顔に触れる。


「うわっ! 状況を理解しろ!」

「ゆうくん、柔らかい?」

「柔らかくない!」


ーー


文化祭当日、佳奈の接客は大惨事だった。注文を間違え、トレイを落とし、客を混乱させる。でも俺がフォローに入ると、なんだかんだで盛り上がった。


「春野くんと早瀬さん、漫才みたいだね」


クラスメートが笑う中、俺は佳奈の手を握った。


「これからも、俺がツッコむから。お前は甘えてろ」


佳奈が笑顔で頷く。


「うん。ずっと一緒にいてね、ゆうくん」


ーー


文化祭の夜、校庭で二人きりになった。花火が上がる。

俺は佳奈を抱き寄せた。


「お前がいると、俺の人生は予測不能だ。でも、それがいい」


「私も、ゆうくんが真面目でツッコんでくれるから安心する」


キスは自然に訪れた。幼なじみから恋人へ。長い道のりだったが、ようやく始まった。

それでも、佳奈のドジは続く。

翌日も朝から「ゆうくん、宿題忘れた!」と甘えてくる。

俺は笑いながらツッコミを入れる。


「まったく……お前は一生俺を振り回す気か」

「だって、ゆうくんが好きなんだもん」


こうして、俺たちの物語は続いていく。真面目な俺とドジ甘えっ子の佳奈。きっと、これからも毎日が賑やかで、愛おしいものになるだろう。


ーー


幼い頃の記憶が蘇る。

小学校低学年の時、佳奈は雨の日に傘を忘れて泣いていた。

俺は自分の傘を半分貸して、家まで一緒に走った。

あの時から、彼女を守るのが俺の役割になった気がする。


中学生の頃、佳奈は部活のバスケで転んで足を捻挫した。

俺は学校を早退して病院まで付き添い、母親に怒られた。

でも佳奈の「ゆうくん、ありがとう」の一言で全てが報われた。


高校に入ってからも同じ。

テスト前、佳奈が徹夜で勉強しようとして倒れそうになり、俺が栄養ドリンクを買って看病した。


「ゆうくんがいると、私、頑張れる」


そんな言葉を何度も聞いた。

文化祭後のデート。

初めての二人きりの外出だった。

映画館で佳奈はポップコーンを床に落とし、俺が拾う。

暗闇で彼女の手を握ると、佳奈が指を絡めてくる。


「怖いシーン、ぎゅってして」

「映画の内容を理解しろよ」


ツッコミながらも、俺は彼女を抱き寄せた。

スクリーンの光が二人の顔を照らす。


夏休みに入り、海に行った。佳奈は水着姿で俺にくっついてくる。


「ゆうくん、日焼け止め塗って」

「自分でやれ」


言いながらも、俺は彼女の背中にクリームを塗る。

滑らかな肌。

心臓がうるさい。


「佳奈、お前は本当に……」

「本当に?」

何も言わない。

波打ち際で、俺たちはキスをした。

塩の匂いがした。

秋になり、修学旅行で京都へ。

佳奈が迷子になり、俺は夜通し探した。

寺の境内で見つけた時、彼女は泣きながら抱きついてきた。


「ゆうくん、怖かった……」

「もう離れるなよ」


俺は彼女の涙を拭った。


冬、クリスマス。

佳奈が手作りケーキを作ってきたが、見た目は悲惨だった。


「食べて……」


一口食べて、俺は笑った。


「甘すぎるぞ。でも美味い」


佳奈が嬉しそうに笑う。


そして今、俺たちは卒業を目前にしている。

大学は別々になるかもしれない。でも、俺は決めた。佳奈と一緒にいたい。


「ゆうくん、将来もずっと?」

「ああ。俺がお前のツッコミ担当でいる限り」


佳奈が俺に抱きつく。

いつもの甘え方。

俺の人生は、彼女がいなければ味気ないものだっただろう。

ドジで、頭が回らない時もある佳奈。でも、その全てが愛おしい。

真面目な俺と、甘えん坊の彼女。これからも、きっと賑やかな日々が続く。

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