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【短編小説】Five Se7en Five

掲載日:2026/04/07

 カチャと箸が皿を叩いて音を立てたが、それきり部屋は静かであった。

 テーブルを挟んで食っているにも関わらず、無言で晩めしが続く。

 箸、茶碗、湯呑み。

 咀嚼、嚥下、呼吸。

 箸が大皿と口を七往復ほどした頃に、ひとつの人参を摘んだ。その人参に刻まれた文字を読み上げる。

「ぶら下げた 人参よりも 欲しいのは」

 咀嚼が止まる。

 おれは──。




 話すことなど何も無い日々だった。

 勉強が好きな訳でもなければ、駆けっこが速い訳でもなく、休み時間は他人のおちょけを見て笑うだけで、基本的には教室の隅にいた。

 それだけだ。

 晩めしを食いながら、親に何か喋りたい事なぞひとつも無く、その日もおれは黙ってめしを食っていた。

 家族がどんな話をしていたかもわからない。ただ、その時間が早く終わるのを願っていた。

『その願い、聞き入れた』

 声が聞こえた。誰の?わからない。

 ただ、世界の半分が焼き払われた。おれは瓦礫の中から立ち上がり、「焼き尽くせ、アンドロイドの感なんよ、この世の全てを灰燼に帰せ」と言った。

 それはロックンロールであるべきだったが、イギーポップも灰燼になっていたのでそうはならなかった。

 ただおれは苦しい食卓から解放された。

 しかしそれは新しい苦痛の始まりでしかなかった。

 おれは新しい煉獄に囚われることとなった。

 おれは頭の中に、いや、白い壁に覆われた世界に堕とされた。





「鞭より無知と 識る為の無恥」

 そうしておれは人参を口にする。

 根菜特有の香りが口に広がる。土と太陽の匂い、甘み。咀嚼のたびにおれはその人参に感謝をする。

 だがそれも長続きしない。

 飲み下せば終わり。何も残らない。

 次に箸が掴んだのはジャガイモだ。その表面に刻まれた文字はこうだ。

「自然薯の眠り揺るがす太陽と」

 おれは想像する。

 果てなき大地の柔らかい土の下で眠る自然薯。その上で輝く太陽が育て、大きくなる。

 間も無く目覚めの時だ。


「鉄の爪なりコンキスタ農夫」


 ドールと農夫で韻も踏めている。

 おれは満足してジャガイモを口にした。味を感じる。だが、その煉獄は果てしない。




 空いた皿を片付ける妻に声をかける。

「すまないね、いつもいつもだ。メシ毎に」

 妻が首を振る。

「いいの、大した手間じゃないから」

 たまには乱切りだの、銀杏切りだのしたくなるだろうが、仕方ない。

 おれがそういう病気なのだ。

「詠み続ければ いつか治るさ」

 そうだ。いつか、きっと。




【「これや!この!カレーや!」と言うおじさん食べていたのはシュクメルリ鍋】

 おれが最後に詠んだ短歌はこれだった。

 頭の中にある短冊は全て無くなった。

 そしておれは自由になり、店を出てから妻を思い出して、泣いた。


 間に合わなかった。


 おれは再び願い、アンドロイドの観音が残りの半分を焼き払った。

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