(四)
それから毎週日曜日、雨の日以外は公園へ出かけた。
最初は軽い挨拶。そして短い世間話。ベンチに座って長く話が出来るようになるのに三ヶ月かかった。
旦那や子育ての愚痴を聞かされる。
食品会社の創業家の令嬢だが割と庶民的。鼻につく所は少ない。佳奈は大人しい。
「ちょっと飲み物買ってくるわ」
彼女が自動販売機へ歩いた。
私はカバンから小さなハサミを出した。
「佳奈ちゃん、服の襟が乱れているから直すね」
佳奈の服の襟を背後から直しながら後ろの髪をハサミで切ってハンカチに包んだ。
彼女は自動販売機の前でしゃがんでこちらを見ていなかった。
彼女を見る度に裸の彼を思い出す。
ほくろの位置、赤黒い乳首、腹の毛、半分皮が剥けた性器、毛深い足──
覆いかぶさった彼は腰を振って私の中で乱暴に脈打って果てる。縮んだ性器を抜く。私はシャワーを浴びて肌のぬめりを洗い落とす。快楽の後始末。一瞬で思い出す。
彼女はどんな顔で彼に抱かれるのだろう。
その結果、産まれた佳奈は可愛さや憎しみより何か不気味な魔物に感じる時がある。
「佳奈ちゃん。お父さんは優しい?」
襟を直しながら訊いても佳奈は黙ってどこかを見ていた。
私は「はい、出来た」とハンカチをバッグに入れた。
彼女が戻って来た。
「そういえば、あの人形は何だったの?」
彼女が思い出したように言った。佳奈は黙って座っている。
「ゲーセンで当てたの。可愛いから捨てられなくてね」
「捨てるなんてもったいないわ。可愛いし」
「そうなのよ。家に飾っているわ」
嬉しく言う私を彼女は少し引いている顔で見た。どういう風に見ているだろう。
「今度、うちに来ない?」
予想していなかった彼女からの誘いに私は驚いた。
「悪いわ。お邪魔するなんて」
「引っ越して来たばかりで知り合いがいないし気を遣わなくていいから」
「じゃあ。次の日曜日にお邪魔しようかしら」
私が言うと彼女は電話番号を教えた。
午後一時に公園で待ち合わせ。まあいいか。
帰宅して夕食。
「サエもパパの家に行く?」
私が訊くとサエは黙っている。
「パパに会いたい?」
サエは黙っている。
「そう。会えるかわからないけど行こうか」
私は笑ってサエに話した。




