第7話 最初の引き金
開戦から数日後。最初の本格的な戦闘が始まった。
地響きとともに、森の中から灰色の塊が現れた。ソ連兵だ。
一人や二人ではない。蟻の大群のように、視界を埋め尽くすほどの歩兵が、雄叫びを上げて突撃してきたのだ。
「ウラー! ウラー!(万歳)」
その声は、地獄の底から響く怨嗟の声のように聞こえた。
「撃てッ! 撃ちまくれ!」
フィンランド軍の塹壕から、一斉に射撃が開始される。
機関銃が火を噴き、ライフルが乾いた音を立てる。
シモは雪に掘った穴の中に伏せていた。
心臓が早鐘を打っている。指先が微かに震える。訓練とは違う。的は紙ではなく、生きている人間だ。
スコープのないアイアンサイトの向こうに、こちらへ走ってくる若いソ連兵の顔が見えた。恐怖に歪み、必死の形相をしている。彼にも家族がいるのだろうか。
(迷うな)
シモは自分に言い聞かせた。
もし撃たなければ、隣にいるアンッティが殺される。後ろにいる避難民が殺される。
彼は深く息を吐き、時を止めた。
震えがピタリと止まる。
フロントサイトが、ソ連兵の胸板を捉えた。
――ターン。
指先が動いた。
ソ連兵が雪の上に崩れ落ちた。動かない。
吐き気のようなものが込み上げてきたが、シモはそれを無理やり飲み込んだ。
次だ。次の敵が来る。
ボルトを引く。排莢。装填。
シモ・ヘイヘという人間の中で、何かが壊れ、そして何かが完成した瞬間だった。
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