第6話 コッラへ
フィンランド東部、ラドガ湖の北に位置するコッラ川流域。
シモたちが配属されたこの場所は、戦略上の最重要拠点の一つだった。ここを突破されれば、ソ連軍はフィンランドの背後へと回り込み、国は真っ二つに分断されてしまう。
トラックの荷台に揺られ、現地に到着したシモの目に飛び込んできたのは、想像を絶する光景だった。
道という道が、避難民の列で埋め尽くされている。家財道具を載せた荷車を引く老人、泣き叫ぶ子供を抱く母親。彼らは着の身着のまま、西へ西へと逃げ惑っていた。
「おい、あっちを見ろ……」
戦友のアンッティが指差した先、東の空が赤く燃えていた。夕焼けではない。村が焼かれているのだ。
ソ連軍は「焦土作戦」など生易しいものではなく、進軍経路にあるすべてを焼き払いながら押し寄せてきていた。
第34連隊第6中隊。シモの所属する部隊だ。
彼らが守るべき戦線はあまりに広大だったが、兵力はあまりに少なかった。
「いいか、よく聞け!」
中隊長のユーティライネン中尉が、集まった兵士たちに怒声を浴びせた。
「敵は4個師団、約6万人だ。戦車もある、大砲もある。対して我々は数千人。重火器もほとんどない」
兵士たちの間に動揺が走る。10倍以上の兵力差だ。
だが、中隊長はニヤリと不敵に笑った。彼はフランス外人部隊あがりで、「モロッコの恐怖」という異名を持つ豪傑だった。
「だがな、ここはフィンランドの森だ。スキーも滑れない、寒さで震えるロシアの熊どもに、森の主が誰か教えてやれ!」
シモはその演説を、列の後ろで静かに聞いていた。
恐怖はあった。だが、それ以上に強い感情が胸に去来していた。
(あの子連れの母親たちが逃げ切る時間を、俺たちが稼がなければならない)
彼は愛銃のストックを強く握りしめた。
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