第六話 盗賊の歌1ー2
土師把城では大変な騒ぎになっていた。
次期後継ぎである、八千代丸様の館が何者かにより放火されたのだ。
「姫の縁談のタイミングで襲ってきたのは偶然であろうか」
玄臣義照よりこの地に派遣された上総十坐右衛門ーー通名、喜助は、昨夜の襲撃について思索していた。
「上様はどう思われてますかな?」
「……」
坂下家現当主、坂下氏忠は答えない。
彼は机に向かい、筆を運ばせていた。
描かれているのは、霊和の間から望む庭園――日々変わらぬ、水墨の写しである。
仕事をしているようにも見えたが、そうではない。
氏忠がこの庭を描き続けていることを、喜助は知っていた。
同じ様に教えた筈だが……、まぁ素質の差であろうな。
胸中でそう呟き、喜助は小さく息を吐く。
庭には五人の武者が跪いていた。
皆立派な体格だ。
「……それで、彼らを呼ばれた理由はなんですか?氏忠殿」
氏忠の耳がぴくりと反応する。
「失礼ながら老中様、それは余りにも無礼にございます。訂正を」
「……であれば」
喜助は微笑を消した。
「上様に、私と会話するおつもりがあるのか、お伝え願えますかな」
氏忠の筆が、ぴたりと止まった。
「……日縁が」
短い沈黙の後、かすれた声が落ちる。
「日縁が、いなくなった」
「――」
喜助の思考が、一斉に回転を始める。
放火。
縁談。
八千代丸。
日縁姫。
可能性を切り分け、残った答えは一つだった。
「……家出、でございましょうか」
ーーーーーー
土師把の北側、この辺りはまだ開拓しておらず、巨大な樹海が広がっている。
そんな森林を五つの影が凄まじい勢いで駆けてゆく。
草葉にかかる朝露が宙に飛び、陽の光を反射する。
その影の一つは隆景だ。
隆景の横を並走している人影がきらりと光った。直後、轟音と共に鉛玉が飛来する。
間一髪で避けると草葉の向こう側へ踏み込み、発砲した者を串刺しにした。
そのまま歩みを止めることなく火縄銃を奪うと、走りながら玉込めを行う。
ーーーあと三人……。
残りの三つの人影は離れることなくついてくる。
鈍い音がして、足元の地面が爆ぜる。
ーーー残りの三人も鉄砲を持っているとは。
横目で敵の位置を確認すると、隣の草むらに飛び込み狙いを定めた。
直後、草をかき分けて覆面の男が現れる。
「⁉︎ちょっ!!!」
ドン
男は蹌踉めき倒れる。
ーーーあと二人……。
「ーーー素晴らしいな、坂下の兵よ」
隆景は反射的に後ろを振り返る。
「かかったな」
左右の藪から、二つの刺突が隆景を襲う。
しかし凄まじい反応で身を屈め避けると、背中に背負っていた長大な刀を抜き放って周囲の草ごと薙ぎ払った。
「……お、見事……なり……」
切断された草の影から現れた二人は地面に崩れ落ちる。二人とも既に息はない。
隆景は死体の笠と覆面を脱がせた。
丁寧に剃られた頭に、首からは拳大の朱色の数珠が下がっていた。
「こいつら……僧侶か?」




