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玄臣戦記  作者: PM
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第三話 渡人の宴3

「なんだそれは、公家の真似事か?」


 扇子で口元を隠す真之に思わず義照は尋ねる。

 結局、真之は合議の時間から半刻ほど遅れてやってきた。報告ほど遅くはなかったものの、全く意に関していないかの様な態度が義照を苛立たせる。


「くさいのぅ、聖渡はこんなに臭かったかのう?腐った木菟の匂いがしますな。な、顕樂殿」


 顕樂は涼しい顔でお茶を啜る。


「生憎ですが木菟の匂いがわからず」


 扉が開き、氏康と観楽が入ってきた。


「うほほ、全員揃っておりますな……」

「うむ、我らがが集まるのは何年振りであろうか」


 五人は地図を囲んで座っていた。


「さて、文にも書かれていたと思うが、鉄門軍を南方に配備しようと思うておる」


 真之は不快そうに扇子を閉じた。


「わかっておりまする。既に鉄門から南方鎮南城へ麾下3万人を移動させる準備をしております……」


「うむ……結構……」


 真之の眉間に皺がよる。


「……対菅原用に訓練を積んだ我が黒鉄隊をまさか南方に回すとは……南の司令官は何をやっていたのやら?」


 顕樂は涼しい顔で受け流す。


「或いは中央の戦略が誤っておるのでは?弱腰で南方船団に旧型軍を出さなかったとか……、最新式の紅海艦隊を南に回せば太田海峡失うなどと言う大失策を犯さなかったのではあるまいか?」


「……何が言いたい」


 こめかみに青筋を浮かべる義照。

 真之は目を細める。


「何も……。菱刈は何か考えておるのでしょうな?」


 正直、鉄門に兵を補充している余裕はなかった。


「鉄門に補給はしない。菅原はまだ菱刈東岸を脅かすほどの実力も準備もない」


「……本当に兄上は菱刈の軍事的重要性をわかっていらっしゃるのか?霜原が無ければ軍艦も作れぬ、弾薬も補充できぬ。南の蛮族なんぞに付き合うとる暇はない。清臣と休戦している今だからこそ、西征して菅原を打ちのめすべきと何度も言ったであろうが!」


 真之は扇子を地図の菱刈に叩きつけた。

 義照も今にも掴みかかりそうな雰囲気だ。目を閉じているが、眉間がぴくぴくと動いている。


 会議室に沈黙が流れる。


 すると、これまで黙っていた顕樂が口を開いた。


「……賢弟どの、決まりは決まりです。宮郷様が判断され、大殿も大老様も同意してらっしゃる。

 貴方様の言う通り、鉄門は重要な資源地帯だ。しかしもう我々は甘高原の支配権を確立する、という方向で動いてしまっているのです。

 つまりはここで何を言おうと次善の行動で対処するしかないのですよ」


 ーーー征西論など抜かしおって、菱刈を拠点に自分の影響圏を作ろうとしただけであろうが。


 義照は弟の野心をよくわかっていた。


「鉄門城には南軍副将、空町奉行、鏑木天康を城主として入れる。守備に優れた将だ、貴様がいなくとも完璧に守ってくれるだろうよ」


 氏康は立ち上がり、真之と義照の肩をたたく。


「お前たち、落ち着け。

紅海艦隊に関してだが、南に動かすことはできん。

清臣家は最近ポトルギス人を招聘して武蔵島に巨大造船所を作ったそうだ。紅海を手放せば櫛灘と本土間の貿易に支障が出る」


 氏康は真之の顔をじっと見つめた後、義照に視線を移す。


「鉄門の重要性は変わらない。だが、我々は南倉島を優先しなければならない。南倉島の宝真家と分断されてしまえば船が作れなくなり、霜甘海峡の管理もできず、鉄資源の運搬もままならない」


 氏康は顕樂を見つめる。


「であるから、甘高原から敵勢力を一掃するのは我々の最重要目標だ。南方に有能な二将を配置するのは当然であろう?」


「ですな……」


 観楽と顕樂も氏康の言葉に同意して頷く。


「……」


 真之は黙ったまま表情を動かさない。


 義照は歯痒い思いであった。観楽も顕樂も氏康には従うが、義輝と真之を値踏みしているかのような態度に思える。


 顕樂とは長い付き合いがあるため、少なくとも現時点で義照側ではあるだろうが、本心の読めない男だ。


 観楽に関しては何を考えているのか、何方を後継に後押ししているのか全くわからなかった。


 一方真之は鉄門城を根城に信頼のおける者を集め、派閥を形成しつつある。


 正統性は義照にあるが、この戦乱の世で安心はできない。


 義照は拳を握りしめた。


「やってくれるな?真之よ?」


「……承知いたした。中央の意見に従いまする……。父上がいらっしゃる限りは」


 真之は立ち上がると、裾を翻して出ていった。


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