第二話 渡人の宴2
まだ朝靄が掛かる竹林の中で、義照は一人刀を振っていた。
違和感をおさめるため、ひたすらに刀を振る。
いつもは風に吹かれてカラカラと音を立てる竹林が、今日はとても静かだ。
玄臣の老中達は、この国がどれほど追い詰められているかを理解していない。
いや、理解しようとすらしていない。
四方に釣りられている竹を順番に切り飛ばしていく。
山禍、菅原、小笠原、そして清臣。
全ての敵を屈服させなければ、この国に平和は訪れない。
刀を丁寧に拭ってからしまい、瓢箪に入れられた水を煽る。
ふと、背後に人気を感じた。
「……よいぞ」
霧の中で片膝をついている男は、やけに籠った声で報告をする。
「真之様ですが、明日の暮れ七つ頃到着するとの事です」
バキッ
報告を聞いた瞬間、義照は瓢箪を握りつぶしていた。
暮れ七つというと、賓の火祭りが始まっているではないか。
玄臣長者の継承権第二位にいながら、重要な祭祀事に遅れるとは……。
あと祭りが始まる前に合議を行うと申し付けたはずだ……。
「下がって良い……」
「はっ」
「……まて」
「はい」
「報告には定刻法を使えと言っただろう?不定時法を使うのはやめろ、正確な情報が欲しい」
霧の向こうで狼狽える様子がわかる。
「大変……申し訳ございませんでした」
海軍改革にあたって定刻法を導入したが、どうにもまだ浸透しきっていない様である。
義照は深くため息をついた。
ーーーーー
聖渡のとある茶屋にて、二人の人物が鍋を挟み向かい合っていた。
「宮郷殿はあの連絡を受け取りましたかな?」
小太りの人物がニタニタと笑いながら、箸を鍋につける。それをもう一人は訝しげにみている。
「……あぁ、勿論ですとも……」
小太りの男は鍋から適当に具材を取ると、器を相手に見せた。
男は眉を顰め、顎で器を指す。
小太りの男は溜息をついて汁もよそい、飲み干す様に食べきった。
熱々の汁が喉を焼く。
「ゴホッゴホッ……それで鉄大将様。何故予定より早くいらしたんですか?」
「あの頓知鬼に知られたら、この聖渡におる間一生つけまわされるじゃろうが」
鉄大将、賢弟真之は扇で口元を隠しながらボソボソと喋る。
ーーーもう少し大きな声で喋ってくださいよ……。
「例の件、用意しておろうな……ズッ……ズブッ……」
鍋を啜りながら喋るため、扇に汁が飛び散っている。
「勿論ですとも……万事順調にございます。法の翁様も協力に前向きです」
鍋を啜る音が止まり、怒りに満ちた眉間が扇から出てくる。
「あの御老主がしっかり仕事をしておれば、既に霜原は私のものであったわ」
小太りの男は冷や汗をかく。
老中と継承権第二位の間で板挟みなど絶対になりたく無い。仲良くしてほしい。
「ば、万事順調に進めますゆえ、鉄大将様はごゆるりと火祭りをお楽しみください」
「……あんの弱腰の阿呆をはよう引き摺り下ろしてやりたいのぉ」
ズビ……ズビビ……。
その夜、茶室からは下品な啜り音が一晩中鳴り響いた。




