第一話 渡人の宴1
月、金の19:30に投稿しようと思います。
あたり一面に広がる広大な水田地帯の真ん中を大きな道が突っ切っている。
中央の一番大きな道には、一定の間隔で車石が敷かれ、長年の往来の跡が刻まれている。
左右の脇道は土で作られており、畦道の様相をしている。
そんな中央の道を、一台の馬車がのんびりと進んでいた。
「こんな便利な物を本土では禁止しているそうだ」
「なんと、まぁ本土には本土の事情がございましょうや」
田んぼの水面には月が映り込み、波に合わせて揺らめいている。
「それにしてもねぇ……あの阿呆殿を呼び戻すとは」
馬車に乗っている男は南条顕樂。南方軍の総司令官だ。長い髪の毛に無精髭、顔にはまだ新しい傷がついている。
伝書鳩で登城要請が届いてからちょうど二十日目になる。鎮南城から甘高原中部の港湾都市である日断岩港を経て、そこからさらに百と二十里。馬で駆け続け、漸く聖渡城が視界に入った。
「あれだなぁ、なんで大殿は甘高原中央に遷都しないんだろうな?」
御者は肩をすくめる。
「まぁいいや、儂は寝るんで。気が向いたらそこのかたしといてくれ。全く、漸く眠れるなぁ」
ーーーしかし、義照様ももっと上手くやらねば、弟君に足を救われますぞ……。
眠りについた顕樂の横には、血塗れの刀が数本転がっていた。
ーーーーーー
神原州桑の国、鉄門城にて、二つの勢力が小競り合いをしていた。
一つは玄臣の旗。もう一つは……。
「菅原道貴め……」
物見櫓から小競り合いを見ていた男。坂下氏晴はつぶやいた。
玄臣家の賢弟、玄臣真之が十余年前に征服した土地であったが、近年になって神原州西岸を拠点としていた菅原氏が勢力を急速に拡大しており、この鉄門城にもその軍勢が姿を表すようになっていた。
先の太閤殿下から賜った神原の管理権を振り翳して玄臣の支配を否定する言説を流布しているそうだ。
「まぁ、この鉄門城を破れるほどの勢力ではないな」
氏晴は眼下の敵勢力を睥睨する。
数は二百程度、後ろには略奪された村の煙が何本も上がっている。おそらく精鋭部隊による独断先行だろう。現に関所を超えてこの鉄門城最外殻の大門、羅城関まで到達されている。
だが、例えばあの精鋭部隊が二万人であったとしても絶対にこの門は破られない自信が氏晴にはあった。
深さ二十六尺(8メートル)の空堀に、十五丈(45メートル)にもなる石垣。加えて、巨大な城門は厚い鉄で作られた特別性だ。
それに加えてーーー
突如左側からボンッと音がして地面が爆ぜた。
「うむ、鉄大将様は衝突を避けることを選ばれたようだ。だが一応準備をしておけ!」
砲兵達が弾丸の装填準備を始める。
この城には大筒が幾重にも備わっているのだ。
その爆発を見た菅原の軍勢は踵を返して去っていく。
「我らにはこの無限の鉄と真之様がおるのだ」
そのとき、物見櫓に一人の歩兵が飛び込んできた。手に持っている書の印を見る限り、伝令であろう。
彼は片膝をつき書状を読み上げた。
「伝令、鉄大将、玄臣真之様中央より緊急招集との事。今後の防衛体制に関して主要将校は中央天守に集まれとのことです!」
えぇー。
氏晴は部下に先程の軍勢を国境外へ追い払うよう追撃の指示を出すと、あたふたと物見櫓を降りて行った。
ーーーーーー
聖渡中央に聳え立つ高い石垣、そして黒石を使った美しい城壁に囲まれた荘厳な城がある。四連立の大天守閣は絢爛豪華に飾られており、街の中でも一際高い。
その天守閣の中腹部分に、この城の主である玄臣氏康の執務室があった。
黒石を砕いたもので着色された板材を漆塗りで磨き上げた床に、四辺には巨大な銅板と硝子を組み合わせた大鏡が設置されており、皇都から仕入れた畳、座布団、机が円形に五つ並べられている。
「暗いですな」
南条顕樂は立ち上がると火縄を取り、中央から吊り下げられた燭台の大きな蝋燭に当てて息を吹きかける。
燭台は引き上げられ、四辺に設置された大鏡が光を反射し部屋を満たす。
「よくきた。顕樂。道中無事で何よりだ」
氏康は顕樂の顔についた生傷を眺める。
「我が殿には敵いませんな」
「刀傷か?奴らの剣がそんなにーーー」
「いいや、あれは火器でしたな。それも射程の長い本土製に近い性能です」
氏康は顕樂の頬についた傷を指で拭うと匂いを嗅いだ。ほのかに硝煙の臭いがする。
甘高原で本土製に近い威力・精度を出せる火器を製造できる集団など、一つしかなかった。
「石蹴衆か……」
義照視点は2話からです。




