第十八話 盗賊の詩2ー5
月・金 更新 19:30
深々とした夜を書卓の蝋燭がぼんやりと照らす。
喜助が臆病な暖簾と呼んでいた蚊帳の中で氏忠は一人考えを巡らせていた。
庭から吹き込む風が火を揺らし、影は壁を滑るように動く。
結局設計図を手に入れる事はできた。
だが、喜助を殺してしまったのは今思えば悪手であった。監禁するなりなんなり方法はあったはずだ。
後悔の念が氏忠の頭を覆う。
ーー此処まで来たらやるしか無い。玄臣にバレぬよう設計図と娘を交換する。
不意に、庭で物音がした。
そして、泥だらけの忍びが転がり込んできた。
「殿!山禍の拠点から武装した小規模部隊が出立したとの報告がーーー」
ドン
突如、大きな音と振動が館を襲った。
「何事ーーー」
次の瞬間には、目の前で忍びが首から血を吹き出して地面に倒れていた。
そして、庭の壁を軽々と浮遊するように越え数人の山禍族が入ってくる。
氏忠は間髪入れず近くに置いてあった鈴を鳴らした。
左右の扉が開き十数人の武者が傾れ込んでくる。
ーー隆景を息子の元に向かわせておいて正解だったな。
山禍の一団から女が一人飛び出してきた。
「私の名前は憎羅。設計図を寄越せ」
女の目は硬く凍りついている。
一目で、交渉の効かない相手だと予感した。
「娘を返すのが先であろうが」
憎羅は鼻で笑う。
「設計図が先だろう。そもそも、こっそり娘を奪い返そうとしたのは貴様らでは無いか」
憎羅の左右に立っていた男達が歩み出て、無造作に何かを放り投げた。
それは、山禍を追跡させていた五人の猛者達であった。
ーー追跡中に殺されたか?挑発行動は控えるよう命じていたはずだ……。
「此奴らが先に我々の拠点を攻撃した」
憎羅は言い放つ。
数えると、山禍の手勢はたったの八人であった。
手には噂の黒い槍、黒鬼を抱えている。
氏忠は少し安堵すると同時に奮い立つ。
「であるならば、一度引き娘を連れて戻ってこい。同時に交換としよう」
配下の武士達が武器を構える。
火縄銃を持った者も二人いる。
ーー山では無類の強さなのだろうが、平地戦では大したことはない。
刹那、山禍の槍の先端が光った。
炸裂音が耳を塞ぎ、周りの猛者達が血を吹きながら次々と倒れる。
「ま、まさか……」
氏忠は目にした光景が信じられなかった。
山禍がーーー火器を使っている。
「設計図を渡せ」
憎羅は冷たく言い放った。




