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玄臣戦記  作者: PM
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第零話 召集

だいぶ説明回です。

地理情報、勢力情報多め。

 豪族の反乱から十九年後。


 義照は玄臣氏の次期頭主として頭角を現していた。

 南方からの凶報が、三日前に聖渡の義輝の元へと届いた。


 聖渡、その昔、皇帝がこの地、甘高原州を征服する際に降り立ったことからつけられた名前だ。

 その城郭都市は、帝都である京を元に作られたため、条里制の美しい街づくりとなっている。しかし、長い歴史の中で多くの増改築が行われ、京とは似ても似つかない外観となった。街の周囲は土類を黒石で覆った石垣で囲われており、中央には巨大な連立天守閣を持つ大城郭が聳え立つ。

 街の四方には巨大な城門が聳え立ち、これも全てこの地特有の黒石で作られている。城内の大通りは真ん中に馬車用の石畳が敷かれており、人々の歩く土の道と隔てられている。

 街の北方には小高い山があり、その頂上には豪華な屋敷が構えられている。


 その屋敷の一室で、義照と三人の男が話し込んでいた。


 四人の男たちは、地図が描かれた巨大な卓を挟み胡座をかいている。

 上座に座る老人は朝廷より甘高原を任された武家の棟梁、玄氏長者、玄臣氏康。

 老人の右手側に座するは玄氏宗家の懐刀、大老、玄臣観楽。

 観楽の右隣、氏康の正面に座するのは南軍副将、空町奉行、鏑木天康。

 残る最後の一人は勿論、次期玄家長者、玄臣義照だ。


「それで、南軍の様子はどうかのう?」


 観楽は頭をポリポリと掻きながら大きな地図の下座側を指し示す。


 中央の地図は現在玄臣家が支配する甘高原の立体図である。完璧に正確とは言い難いが、おおよその高低差などを再現していた。


 玄臣家は現在、南方を山禍、西方を菅原家、東方を清臣氏という巨大な敵対勢力に囲まれている。特に清臣氏清家は、玄臣氏玄家と並んで武家の頂点と見られる家格であり、仲は非常に悪い。

 つい数年前に、両軍合わせて九十万人を動員する清玄合戦が終わったところだ。今は清家と小康状態にあり、この機に南部へ軍事力を集中し、悲願の甘高原制圧を成し遂げるというのが玄家の基本方針であった。


 次期長者であり、当主と目されている義照は勢力的に各方面への視察を繰り返していた。


「つい先月、見に行って参りましたが、やはり山禍の待ち受ける山中へ踏み込む事は難しいですな。現在、南軍の総戦力は五万強と聞いております。

が、二年前、雲馬山の戦いで白兵戦に優れた精鋭部隊五千を失っておりますゆえ、弓や銃が使い辛い山中での戦いは困難を極めるとのこと」


 山禍は山中に住む未開の民族という印象が一般的だが、実情は一定の国家的秩序と、戦闘技術を持った民族集団である。

 数年前の清玄合戦においても、山禍の甘高原侵攻が小笠原での作戦遂行を困難にした。


「ふん、南軍が奴らを南海の果てに追い出さねば、小笠原への注力は厳しいですぞ。想定よりも遥かに時間が掛かっておりますな。南軍は何か手段は考えておるのですか?副将殿」


「率直に申し上げまして、現状の兵力での雲馬山攻略は厳しいかと。東方の耳石関を抜き、山禍本土への強襲を考えております。それでも現状の兵力では足りませぬが……。少なくともあと3万人は頂きたく……」


 耳石関は堅固な山城であり、攻略はかなり難しい。山中を攻め上るよりはましではあるが、やはり今以上の戦力が必要である。


 そもそも、玄臣家が得意とするのは海での戦いであり、山中での遭遇戦など全く経験した事もない。苦戦するのも当然の話である。

 この様な状況になってしまったのは、玄武水軍南船団が山禍の本拠地である霜原島と甘高原の間の太田海峡を守りきれなかったのが原因だ。補給を断ち切ることができなかった。


 また、南船団はこの際、壊滅している。本土急襲をしようにも、兵員輸送用の船団が足りない状況だった。


「また南船団を再編成するかの?銭がかかり過ぎますかな?大殿?」


 観楽が大殿、玄臣氏康に問いかけた。


「そうだな、先の大揺れで崩れた石垣の補修に回す金も足りんというのに……船団なぞ……」


 皇都である京と聖渡城の大きく異なる点は羅城を持っていることであった。大陸の煉瓦式とは違い、加工の容易な黒石で土塁を補強したものではあったが、かなりの高さを誇る城壁が築かれている。

 玄臣家がこの地に渡った時、周囲は皇帝に従わない蛮族だらけであり、尚且つだだっ広い平地という地理的特性から羅城が必要だったのだ。

 しかし、地鳴りの多いこの地では、城壁というものは非常に維持費が高くつく物であった。


 次期当主、義照は顎をさすりながら考える。

 

ーーー以前より羅城の必要性については何度も考えてきた。明らかに今の聖渡には必要ない物である。ここに攻め込まれた時点で、いや、甘高原中東部の日立岩を取られた時点で、玄臣家最大の軍港である櫛灘湾が使えなくなり、勝負は決する。


「羅城を保持する意味は無いのでは?最早敵勢力は遥か向こうです。祖先が渡ってきた時とは状況が違う。」


「甘高原内に敵がいる以上、聖渡の羅城を放棄するというのはありえない。それに、だ。息子よ、それ以前の問題がある。聖渡は皇帝自らが造営した都市、勝手に手放すことなど出来ようか?この都市を荒廃させれば、玄臣は天下の笑い物だ」


「現実的には、兵員輸送船は一回限り、倭寇と櫛灘の商人を雇うのが宜しいでしょうな。あとは足りない兵をどうするかというところのみですな」


「あの……」


 息子を教育する氏康を尻目に、南軍副将がおずおずと声を出す。観楽はいつもの事だから気にするなと声をかけ、副将に発言を促した。


「敵は山禍族、大血合わせの主要民族ではございません。幕府を頼ってはいかがか?」


「幕府!なにを言っておるのやら」


 観楽は呆れて天を仰ぐ、その様子を見ていた義照が割って入る。


「御老体、現実的な手段の一つにはなりえましょう。噂によれば将軍は城下に八万騎の兵を抱えているとか。幕府大老の方も小笠原への影響力も増したいと考えているそうです。喜んで我々に兵を貸すのでは?」


「幕府が何の条件もなく、ただ兵を貸すと?」

「それは、百余年以上続く我ら玄臣の権威が失墜すると言うことだ。数万の兵のために数十万石の支配地域を失う可能性がある。論外だ」


 若は現実が見えておりませぬな、と矢継ぎ早な批判が飛ぶ。

 義照は顳顬に青筋を浮かべ拳を握り締めた。


「では、父上と御老体は何か具体的な手段があるのですか?この状況を打開する手段が!」


 大前提として、五万で山禍族を征服する事はかなり難しかった。仮に追加の兵力を集められたとして、大規模な統率権を持つ武領位階五段以上の者、大将も足りていない。


「……そうですな。帰還……させますか?」


 室内がひりついた空気になる。


 氏康が溜息をつく。


「……まぁ、それしかあるまーーー」

「あの阿呆を呼び戻したところで混乱が広がるだけでしょう」


 義照が抑揚の無い冷たい声で言い放った。


 観楽と氏康は額に手を当てる。


「……ですが、現状それしかないのですね?」


 義照が睥睨する。


「では、鉄門城城主、玄臣真之。麾下三万騎を菱刈から鎮南城へ移します」


「うむ、流石の判断ですな。宮郷殿」


 義照は茶々を入れてきた歓楽を横目で睨んだ。


「ただし、玄臣真之の鉄門城に関しては、鎮南城に駐屯中の鎮南大将南条顕樂の管理下に置き、私が新たな城主を指定します」


 氏康は予想していたかの様に何度も頷く。


「結構、結構」


「わ、私は顕樂様に登城要請の文を出してまいります」


 南軍副将は慌ただしく部屋を出ていく。


「では、私もこれで」


 義照はお茶を飲み切ってから立ち上がり、退室した。


「……兄弟同士、仲良くできないものかの……」

改稿 

・地名変更

 神原→菱刈

 

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