第十七話 盗賊の詩2ー4
月金 19:30投稿
霊和の庭番衆は隆景が幼少期から選定し、直々に鍛え上げた坂下最強の武者達である。
今回、その中から偵察に長けた者を五名選び山禍周の根城を侵入させていた。
その選抜隊の一員である、吉来晴隆は目の前の光景に圧倒されていた。
険しい峡谷に建てられた山禍の本拠地は驚くほど技術の高さを感じさせるものであった。
「あれは……版築か?」
渓谷の一部を巨大な城壁で区切っており、崖に開いた無数の穴は、入り口が朱色の木材でかたどられている。
さらに渓谷の底には巨大な天守閣の様な建物がいくつも立っており、石造りの四角い小屋からは煙が上がっていた。
「これが未開の民族と教えられているとは……見直すべきだな……」
晴隆は簡単に絵を描く。
帰還の後、次代の教育に使おうと考えていた。
「さて……仕事をするか、な……」
晴隆は大きく伸びをすると、崖伝てに音を立てず降りていった。
渓谷の底は、白い丸石で一面が埋め尽くされた庭園になっていた。
ーーどうやら、この渓谷の権力者の家なのだろうか?
晴隆は白い丸石を慎重に踏みながら歩く。
塀の外でカシャンと軽い音が何度も鳴り響いている。
ーー例の黒鬼と呼ばれている武器か……。山岳戦で無類の強さを発揮すると言う。
黒鬼――玄臣の諜報録に記されていた山禍の武器だ。黒い鉄の筒の様な形で、静かな音と共に先端がわずかに伸びるという。
この武器の特性を活かし、木々を使った高低差のある機動戦を行うのが山禍の特徴だ。
ーー狭い場所で戦えば、どうという事はない。
晴隆は目標の囚人が囚われているであろう洞窟を目指して歩みを進める。
晴隆はふと足を止めた。
白い丸石が、妙に整いすぎている。
庭園というよりーー
まるで、何かを測る為の装置のようだ。
足元で石がカラコロと回る。あまりにも軽く、まるで空洞の様だ。
「骸の音はいかがかね……」
突如、頭上から声が降ってきた。
崖の上に、小さな影が座っていた。
それが立ち上がる。
小柄な体躯だったが、背には人の背丈ほどの黒い杜を背負っていた。
「……倶利伽羅入道、大仙だな?」
大仙は少し驚いた顔をする。
「玄臣の諜報は優秀だ」
大仙は影から飛び降り着地する。
「そして……悲しくもある。せめて、乾いた死者に潤いを分けてやってくれ……」
凄まじい勢いで大仙の手が動き、気づけば晴隆の喉から血が噴き上がっていた。
ーー撃たれた!?
霞ゆく視界の中で、晴隆は黒鬼の先から煙が上がっているの見た。
ーーそんな……山禍が平原で戦う術を見つけてしまう……。隆景様に……知らせねば……。
必死でもがき、逃げようとする晴隆を大仙は蹴り倒した。
「他の四人も対処できたかな?」




