第十六話 盗賊の詩2ー3
月、金 19:30投稿
隆景は、遠方に聳え立つ中央山脈を眺める。
此処は坂下家の所領で最も高い建物、三重塔の屋根であった。
隆景の信頼する部下五名を山禍の拠点付近で待機させていた。
狼煙で合図を送り次第、突入できる様になっている。
ただあくまで日縁姫と設計図の交換が本命であり、潜入による救出は副案に過ぎなかった。
「しかしーー」
山を眺めながら呟く。
ーーできれば、設計図交換前に救出したい。このままでは山禍の言いなりで玄臣と敵対する事になる。
実際、坂下家の兵力では宇台家ですら倒すことは難しい。宝真は無論、玄臣・山禍と正面から争うなど自殺に等しい。
だからーー。
「上様、申し訳ございません。先に動きます……」
隆景は五羽の隼を放った。
足に文の巻きつけられた隼は、凄まじい勢いで中央山脈へと羽ばたいていった。
その文には一言、こう書かれていた。
『銅鑼が鳴らされた。』
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氏忠は治らない腕の震えを抑えながら縁側を歩いていた。
ーー娘を救う為に、砲撃艦の設計図は渡す。
設計図を管理しているのは喜助とその部下だ……。
氏忠は足早に喜助の屋敷へと向かう。
途中で、詰所から腕の立つものを数名えらび、連れてくる。
「……大殿、その……完全武装とのことでしたが……」
氏忠は若手の武士を横目で睨む。
隣にいた壮年の武士が若手の頭を小突いた。
「大変申し訳ございませぬ。後で言い聞かせておきまする」
氏忠と兵士達は、喜助の屋敷の前についた。
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喜助は焦っていた。
南方に放っていた子飼いの商人から、霜原から甘高原へ山禍の船団が鉄を輸送しているというほうこくがあったのだ。
それも二十日ほど前のことである。
ーー鉄の補給が中央山脈の前哨基地であるとすれば、もう少しで奴等は何らかの行動を取る可能性が高い……。
坂下家の所領、土師把を山禍から坂下単独で守るのは不可能だ。仮に宇台が参戦したとしても、非常に厳しいだろう。
喜助は急いで文をしたためると、義照より預かった図面を保管する蔵に向かった。
ーー設計図は今日中に宝真へ送らねばならない。あとは坂下家を守らねば……。
上空を五羽の隼が飛び去っていく。
喜助は早足で蔵の前につくと、蔵の扉は破壊されていた。
「誰がこんなことを……」
急いで門扉を潜ると、そこには義照より与えられた部下二人、首だけになって転がっていた。
そしてその奥に、血塗れの武者と氏忠がいた。
「上様……これは一体……」
喜助は少し困惑したが、氏忠の共の者がもつ血塗られた刀を見て全てを察する。
「此処にはございませぬぞ……」
「嘘をつけ!!」
氏忠は眼を血走らせながら叫ぶ。
「まさか……山禍も大したものですな……。姫の件が関係あるのですかな?」
喜助は隆景の部下が何やら中央山脈で行っているのを知っていたが、敢えて報告せずにいた。
「……坂下の未来は、私が決める」
二人の間に沈黙が流れる。
「その後坂下はどうするのですかな?」
喜助は嘆息する。
「……今から死を迎える貴殿の関知するところではなかろうが」
「宜しい……。
いいですか、私は玄臣の利益の為に此処におります……。そしてそれは坂下が存続することと考えておりまする。
後は頼みましたぞ」
氏忠はひどく怯えた表情で、周囲の武者に処刑の命令を下した。
複数の槍が喜助を貫いた。
喜助の手からは、南条顕樂に宛て飛ばすつもりであった坂下援軍要請の文が握られていた。




