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玄臣戦記  作者: PM
17/20

第十五話 盗賊の詩2ー2

月 金 19:30更新

 大仙和上は筋骨隆々の腕を見せびらかすように服をたくし上げると腰を下ろした。

 腕は所々萎びたように黒く爛れている。


 日縁はその見た目に、気味が悪いと思ってしまった。


「さて、坂下の姫君よ。羽虫を愛する八岐の君よ。山の話を聞く気はあるか?」


「大仙和上、貴殿が石蹴衆の棟梁だと?」


「いかにも」


 爆樂丸はそれを聞いて牢屋の隅に身を寄せる。


「説法なら寺で聞く。牢の中で聞く義理は無い」


 日縁は毅然と言い返す。

 大仙はにこりと笑うと徐に口を開いた。


「あれは十六年ほど前だったかな?……青玄戦争の事であった……」

 


 青玄戦争ーー。


 九十万の武者が動いた戦であった。

 それは玄臣の在り方を大きく変えた戦でもあった。


 玄臣は当初小笠原方面で非常に不利な状況に立たされており、陸上では清臣に手も足も出なかった。

 その時頭角を表したのが現在の玄臣長者、玄臣義照であった。


 義照は海を使った。

 火器を集め、船に載せ、海から戦を動かした。

 それは清臣の知らぬ戦い方であった。


 そして、その過程において大量に必要となった物資があった。


「それはなにか分かりますかな?八岐の君……」


 誰も語ってくれない青玄戦争の話に聞き入っていた日縁は思わず真剣に考えてしまう。


「……木と鉄か?」


 大仙はにっこりと微笑んだ。


「おっしゃる通り」



 大量の木が必要になった玄臣は義照の調達計画のもと、甘高原北部の大平原を開拓し、木材を供給した。


 ただ清臣は玄臣の海の脅威に対抗する為に、小笠原内海全域から海賊を雇っていた。


 激しくなる消耗線に、北部大平原の木材では供給が追いつかなくなった。


「北部平原の木材を刈り尽くした後、玄臣は山を狙った」



 中央山脈は手の出せない秘境だが、当時石蹴衆の修験者達が生活していたのは比較的里に近い山だった。

 玄臣中央の指示に、少数の修験者達が抗えるはずもなかった。ただ山は山伏にとっての聖域だ。

 その為、当時の石蹴衆は山の回復力と釣り合うような物量の提供を自ら申し出た。


 玄臣中枢はそれを受け入れた、筈であった。



「事が起きたのは、石蹴衆の指導者が玄臣中枢と約束を交わした数日後であった……」


 日縁は、大仙の腕が微かに震えているように感じた。


「大丈夫か……?」


 大仙は笑みを崩さない。



 玄臣の武者の一団が、石蹴衆の住まう山に現れた。


 彼らは突然山に火を放った。


 石蹴衆の当時の総本山を囲い込む様に、四方八方から火をつけた。

 山伏達は山を守る為に走り回った。

 武器を持ち武者と戦う者。

 木を守ろうと火に飛び込む者。


 だが、最終的には皆等しくーー。



「死んだ」


 大仙の指が小刻みに震えている。

 一方で声には不思議なほど抑揚がない。


「つまりは……それが理由か?」


 日縁は問うた。


「石蹴衆は思想体、一人の意見が全てを左右することは無い」



 山は三日燃え続けた。

 四日目には死んだ木々と焦げた肉の張り付いた骸が大量に残った。


 玄臣が欲した木は一本も手に入らなかった。


 代わりに武者達は、総本山の仏像や瓦を砕き、ありったけの金属を持ち去った。


 鉄砲玉と、砲身と、砲架にする為に。


 

「そして今は、何のために山に手を伸ばしているのだろう?」


 日縁は黙り込む。


「今は南倉島と宝真家という都合の良い犠牲者を見つけた様だが、あの殿は止まらないのでは無いか?

 清臣と覇権を争い、南倉島では収まりきらない量の木材を必要とし、いずれ甘高原全土を枯れ地にするのでは無いか?

 更なる拡大のため更なる資源を欲し、更なる資源のため更なる拡大を欲する。そうしてかの君の通った場所は荒地になる」


 爆樂丸は耳を塞ぐ。

 日縁は真っ直ぐに大仙の目を見つめた。


「だから我々は手を組んだ。そして石蹴衆は此処にいる……どうかな?八岐の君よ……」


 日縁は口に手を当て考え込む。


「貴重な話ではあったな……、だがーー」


 その時、上階から高い指笛の音が聞こえた。


「おっと失礼、行かなくては。また話を聞いて頂こう」


 大仙は弾む様に立ち上がると、上への道を登っていった。




「その怒りを、捨てられぬか……修験者よ」


 日縁は大仙が去った方を見て、呟いた。

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