第十二話 始まりの焔
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義照は、自室で将大から来た追加の文を読んでいた。
「奴隷がのっていたのか……」
奴隷の取引は先の関白、藤穣吉康が禁止して以来皇帝圏域下の全てで禁じられている。
もしそんな事を行えば、朝意に叛したと看做される。
ーーー早すぎる小笠原公方の動きといい、奴隷の買主は小笠原公方か?それとも……。まぁ一先ず、力づくの解決策ができたな。
義照は数人の武者を連れ、五鈴館へと向かった。
五鈴館は先代氏康が接待の為に作った娼館だ。料理人から掃除人まで全員玄臣に雇われている。
義照の耳には小笠原公方がどんな様子か逐一報告が入っていた。
公方は背の高めの女子を三人選び連れて行ったと言う。どの娼婦も山禍との混血や小笠原の沙麻阿族の娘など異国の血が混じっているものだったそうだ。
「……それで、南蛮人も味わってみたいと思ったのであろうな」
義照の後ろで武者達は苦虫を噛み潰した様な表情をしている。
一行は公方の遊んでいる部屋の前で止まった。
「抜刀しておけ」
義照は小声で命じる。そして襖越しに聞き耳をたてた。
「玄臣め……高級娼館と言いながら醜女しか置いていないではないか……おい!そこの!早うせい」
女の声と不愉快な音が響き渡る。
「甘高原の女共は、本国の男に屈するのが好きじゃのう?なぁ?わしがお前ら全員本土に連れ帰ってやろうか?」
下卑た笑いと女の悲鳴が聞こえてくる。
どうやら、公方はかなり特殊な癖を持っている様だ。襖の隙間から覗くと、女達は裸にむかれ、縛られて床に転がされていた。
身体のあちこちに、刀で切りつけた様な傷がついている。
部下が殺気立つ。義照はまだ待てと、それを制す。
「どうした!甘高原の女共は堪え性がないのぉ!あぁ、南蛮の奴隷を貴様の君主のせいで失ったのだぞ?もう少し楽しませてみせろ」
その瞬間、義照は襖を蹴破り部屋に入った。
間髪入れずに若武者達が公方を押さえつける。
「な……なんのつもりだ!」
「小笠原公方様。実は困ったことになりましてな……。どうやら我々が沈めた船は外寇船ではなかった様で。幕府の関係者と繋がりのあるポトルギス人の船でした」
「そ、そうか……認めるのだな?では私が将軍との仲を取り持ってやろう!!今すぐ将大を差し出せ」
小笠原公方は義照の能面の様な表情を見て頬を引き攣らせた。
「いえいえ、わざわざ公方様の手を煩わせるなど……。我が弟将大が沈めた船からポトルギス人の男一名と南蛮女一名を救出した様でしてな……。彼らと共に、将軍様に直々にご説明差し上げようかと……白鬼島のポトルギス人、オレニア人達も出席させようと思っておりまする」
公方の顔から玉の様な汗が噴き出る。
女共は義照の連れてきた武者に助けられ、運ばれていく。
「その様な事をする必要はない!私に任せよ!!」
義照は手拭いを公方に渡した。
「公方様、私としては将軍様に対する釈明への手伝いではなく、別の事を手伝って頂きたいですな……」
「な、何を言うておる!さっさと将大を差し出せ!!これは将軍権威に対する不敬だぞ!」
公方を押さえていた部下が、彼の頭を床に叩きつけた。
「公方様……どうやら腹芸が苦手な様なのではっきりと言わせていただく。貴殿が違法な南蛮奴隷の取引に関与している証拠は揃っている。先ほど自身でもおっしゃられてましたな?」
「……そんなものっ!!なんとでもーー」
義照は公方の口を塞いだ。
公方は首を振り、足をばたつかせ必死の抵抗を試みる。
「良いですかな?今、私の部下を帝都に向かわせております。私はこの事を皇帝陛下に報告することもできるのですよ。さぁ、皇帝の定めた法に叛した朝敵を将軍様が助けるとお思いかな?」
公方の身体から力が抜けるのを感じ、義照は手を離した。
涎でべとべとになった手を近くの布で拭く。
「……わしは、何をすれば良いのだ」
「先ずは、オレニアとの鉄鉱石交易交渉に同席を。あとは5月程、ここ聖渡に滞在して頂きたく。また、その事を全国に触れ回ってください」
ーーーこれで鉄資源を確保しつつ、五月の間聖渡を真之の侵略から守れる。公方の座す都市を攻撃することは将軍ならびに幕府に弓引くことと同義であるからな。
公方は狼狽した様子で頷く。
「……わかった。その代わり、捕まえたポトルギス人と奴隷は処分すると約束してくれ……」
「えぇ、約束いたします」
義輝と公方は手を取り合う
ーーー公方よ、己の欲と保身で判断を誤ったな。奴隷商人の男はすでに海の底。玄臣長者になったとはいえそんなに簡単に皇帝陛下へ謁見できるはずがなかろう。
義照は自分の勝利に満足して、その場を悠々と去って行った。
ーーー幕府、真之、鉄への対処の目処はついた。残る懸案事項は……山禍と石蹴衆だな……。
本作は多層的な権力構造の上で動いています。
⚫︎権力構造
・皇帝(朝廷)
幕府(将軍、全国の武家を統括)
玄臣(武家の名門。皇帝の血を引く公家でもある。玄臣系の武家を統括する権利がある。)




