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玄臣戦記  作者: PM
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第八話 威怖同道

月、金 19:30投稿

 山禍が暗躍していた坂下家領の遥か北方、聖渡の南観台では連日軍議が行われていた。


 玄臣家を象徴する蝶の紋様があしらわれた台の上には土地の高低をも再現した精巧な地図が置かれていた。


「黒鉄軍の同行は?」


 義照は観楽に尋ねた。


「二万は既に甘菱海峡を渡って菱刈に帰還しております。残りの一万は対岸に残っておりますな」


 玄臣家大老、観楽は地図上に駒を配置する。


 義照は真之の動きに違和感を感じていた。

 一万、守るにも攻めるにも足りぬ数だ。恐らくは菅原四万五千と討伐軍にすり潰される事を恐れているのだろうが。


「……ともあれ、彼奴自身は菱刈へ渡っておるのだろう?であれば西方の菅原は奴に対処させる。甘高原駐屯中の一万の動向を探れ」


 観楽は頭を下げる。


「優先順位はやはり……鉄ですな……」


「そうだな、暫くの間は国庫と坂下家に預けている分で持つが、鉄の供給先を再度探さねばならぬ……」


 兵の翁によれば、大規模な戦が起きたとして、三ヶ月は補う事ができるという。


「法の翁、貴様が兵の翁に確認したそうだな?我々にも詳細を報告せよ」


「へ、へい」


 法の翁は治安を司る老中だ。

 豪華な羽織を着ているが、その禿げた頭と落ち窪んだ目は何処か貧相だ。


「法の翁、さ、堺清丸からほ、うこく申し上げ、ます」


「貴様の名前などどうでもよい、はよう報告せい」


 義照はぴしゃりと言い放った。


 正直、法の翁の事が好きではなかった。

 米神に人差し指を当て、血脈が畝り出しているのを触覚する。


「へ、へい。申し訳ございません」


 観楽も苛立っているのか、頭をしきりに掻いている。顕樂だけが、能面の様な笑顔を貼り付けて話を聞いている。


「現状の国庫備蓄は、鉛玉九百万発分、砲弾10万発分、刀・槍用地金が三万振り分、その他地金五万と六千貫となります……。続きまして火薬が……」


 バサっ。と音を立てて翁の持っていた巻物が床に落ちる。


「どうしてあんなのが老中なのですか?」


 義照は観楽に小声で聞く。


「奴には実績がありましてな……鉄大将様と菱刈制圧に一枚噛んでおるのですよ……」


 それを聞いて義照は頭が痛くなる。


 ーーー菱刈の制圧に……なるほどな。


 何故それをもっと早く言わない。と本当であれば叱責したかったが堪える。


「……兵糧に関しましては味噌玉の元となる味噌、米の生産数がーーー」


「鉄はどれくらい持つのかと、聞いておる」


「み、三月ほどかと……」


「どういう前提でだ?」


「……あの……」


 義照はポンッと手を叩いた。


「もう良い、下がれ」


 法の翁は額を床につけ平伏する。

 手はがくがくと震えている。


「……申し訳御座いませぬ」


 すると、耳をかっぽじりながら話を聞いていた顕樂が口を開いた。


「まぁ……今聞いた内容から推測するに、山禍との戦争が本格化したとして、三月保てば上等でしょうな。

 艦船については義照様の方が詳しいかと存じますが、現状規模の……水軍、失礼、海軍を維持するのは現実的ではございませぬ。

 数月後、動く事ができるのは今の三分の二か……。無論、帳簿上では全艦健在でしょうが。」


「やはり……最優先は鉄の確保でしょうな」


 観楽は地図上の甘菱海峡を手でなぞる。そして菱刈と山禍の本拠地霜原に赤いはじきを置いた。


「南進するか、西進するか、結局は同じ事です。霜原の鉄を取りに行くか、菱刈の鉄をとりにいくか……」


 霜原島は鉄の産地、山禍の武器もほぼ全てが霜原島で作成され、甘高原に持ち込まれている。

 霜原島にあると言われている鉱山を制圧すれば、菱刈からの需要分は補えるだろうという目算は出ていた。

 だが問題は……。


「難しいでしょうな。菱刈を賢弟様に任せて全勢力を南に向ける賭けを行ったとしても、三月で霜原島まで踏破する事は難しいでしょう。私は菅原と組んで賢弟様を叩き潰す事をお勧めします」


 顕樂は義照の心中の懸念を代弁するかの様にすらすらと話した。


「山禍の動向はここ数日どうなのだ?」


 尋ねると、顕樂は困ったという様に頭を掻いて答えた。


「……変わったことと言えば、恐らく石蹴衆が彼方についておりますな。

 あ、大殿にはお伝えしておりました。報告遅くなり大変申し訳のう御座います」


 ーーー此奴は、本当に食えん男だな。


「嫌な報告だな……大規模な戦の準備をしている様子は?」


「御座いませぬ、私の知る限りでは」


「それでは、決まりましたかな?菱刈の真之を擦り潰し、然る後に山禍を叩き潰す」


 観楽が盤上に駒を配置する。


 義照はやはり違和感が拭えなかった。どう考えても甘高原に真之が兵を残す理由がない。鉄門城には野戦砲があるのだから海峡を越えて向こう側で守れば良いものを。


「……何か、待っているか?」


 その時、文を持った武士が一人部屋に飛び込んできた。

 片膝をつき頭を下げる。


「失礼致します!南方の喜助様より早文あり。内容読み上げても宜しいでしょうか!」


 観楽が発言を促した。


「南方坂下家にて、長男八千代丸様の館爆破事件あり。下手人は石蹴衆と思われます。また、山禍も関わっている可能性有りとのこと」


 義照は顕樂をギロリと睨んだ。

 顕樂は済ました顔で茶を啜る。


「……私の手勢を三百程向わせましょうか?」


 喉を鳴らす様に笑いながら顕樂が提案する。


 三百など、山禍が動いているなら話にならない数字だ。だが坂下家は何としても守らなければならなかった。


「いっそ、紅海艦隊を甘菱海峡に回し、海上牽制をしているうちに南方を攻略することにしましょうか?」


 大老の言葉に室内がピリつく。


 この状況でも尚、紅海艦隊は紅海から動かせない。清臣とはそれ程恐ろしい相手であった。

 この場にいる者たちは皆、彼らの恐ろしさを身をもって体験している。


「紅海艦隊は動かせんよ」


 紅海艦隊もまた、最新の艦船に加え、清玄合戦において大きな功績を残した武者達で構成される精鋭であった。


「……やはり、南の脅威から対処しよう。山禍と石蹴衆が組むと厄介だ。奴らが平地の戦いを覚える前に叩かねば……」


 甘高原南方にある石蹴衆の総本山に赤いおはじきが置かれる。


「では、あくまで目標は甘高原から山禍共を締め出す事として、鉄はどう致しましょう」


 顎を摩り思案する顕樂の肩を大老がポンっと叩いた。


「白鬼を……使ってみますかな……」


 その言葉に義照と顕樂は目を見開いた。


 

義照の敵一覧

・清臣:強い(ひたすら強い)

・山禍:攻めるの難しい(山ばっかり、鉄豊富)

・真之:めんどくさい(鉄豊富、大砲いっぱい)

・菅原:よくわからない(鉄豊富、急にでかくなった)

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