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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『剣と魔法の世界に転移したが、俺だけFPS(重火器)システムを使える件 ~「貴様の魔法など効かん!」と張られた対魔法障壁を、対物ライフルで貫通させてみた~』

作者: 無音

銃 × 異世界転移 × 無双 重火器で魔法世界を蹂躙する、爽快なFPSファンタジーです。



【プロローグ:チュートリアルは実戦で】

 意識が覚醒すると同時に、俺の視界には見慣れた、しかし「ありえない」文字列が浮かんでいた。


【SYSTEM REBOOT... OK】 【FPS SYSTEM:ACTIVATED】 【CURRENT LOCATION:UNKNOWN MAP】


「……マジかよ。VRの新作にしちゃあ、空気の味がリアルすぎるぞ」


 俺――霧島きりしま大河タイガは、むくりと起き上がった。  背中には土と草の感触。森の中だ。  だが、俺の意識を占有しているのは、目の前の風景に重なって表示されている半透明のUIユーザーインターフェースだった。


 左下にはHPバーとスタミナゲージ。  右下には残弾数カウンター(現在は 0/0)。  そして右上には、未踏破領域だらけのミニマップ。


 俺はプロのFPSファーストパーソン・シューターゲーマーだ。  世界大会での優勝経験もある。だからこそ断言できる。  これはゲーム画面じゃない。脳に直接、システムが焼き付いている。


「ステータス画面、オープン」


 思考するだけでウィンドウが開く。


【NAME:TAIGA】 【JOB:GUNNER (Lv.1)】 【CPクレジットポイント:1000】 【SKILL:銃器召喚、弾薬生成、タクティカル・リロード】


「なるほど。剣と魔法の異世界に呼ばれたが、俺だけは『銃』で戦えってことか。……合理的でいい」


 俺はパニックにはならなかった。  ゲーマー特有の適応力の高さもあるが、何より俺は「効率厨」だ。  状況を嘆く時間があるなら、生存確率を1%でも上げるための行動をとる。


 ガサガサッ!!


 前方の茂みが激しく揺れた。  ミニマップに『赤点(敵性反応)』が点灯する。


「おっと、いきなり敵のお出ましか」


 現れたのは、身長2メートル近い緑色の巨人――オークだった。  粗末な皮鎧をまとい、手には錆びついたナタを持っている。  豚のような鼻を鳴らし、俺を見るなり汚い涎を垂らした。


「ブモォォォォ!!」


 咆哮と共に突進してくる。  速い。オリンピック選手並みの速度だ。  普通の人間なら、恐怖で足がすくんで終わりだろう。


 だが、俺の動体視力には「止まって」見えた。  俺は冷静にショップウィンドウを開き、初期ポイントで購入可能な『相棒』を選択する。


購入バイ。――『グロック17』」


 ジャキッ。


 重厚な金属音が響き、何もない右手に黒塗りの自動拳銃オートマチックが握られた。  重量、グリップの質感、スライドの冷たさ。全てが本物。  俺は流れるような動作でスライドを引き、初弾を薬室に送り込む。


「距離5メートル。……いただくぜ、ファーストブラッド」


 オークが鉈を振り上げる。  俺は両手で銃を構え(ツーハンド・ホールド)、ためらいなく引き金を引いた。


 パンッ! パンッ!


 乾いた破裂音が森に木霊する。  9ミリパラベラム弾が音速を超えて発射され、オークの眉間に二つの風穴を開けた。  ダブルタップ(二連射)。狂いなし。


「ブ、ゴ……?」


 オークは自分が何をされたのか理解できないまま、勢いで数歩つんのめり、俺の足元にドサリと倒れ込んだ。  後頭部が弾け飛び、絶命している。


【TARGET ELIMINATED】 【GET:50 CP】


「威力は十分。反動も制御可能リコイル・コントロールの範囲内だな」


 俺は銃口から立ち昇る硝煙の匂いを嗅ぎ、ニヤリと笑った。  剣? 魔法?  悪いが、こちとら数百年分の「殺傷技術の結晶」を持ってるんだ。負ける気がしない。


【第1章:森の逃亡者】

 オークを倒してから数十分。  俺は警戒しながら森を進んでいた。  目的は、人里の発見と情報の収集。


 その時、視界のミニマップに『警告アラート』が表示された。


【WARNING:多数の敵性反応を探知】 【FRIENDLY:1(北東300メートル)】


「味方反応? 人間か?」


 多数の赤点に囲まれた、たった一つの青い点。  俺は迷わず走り出した。  善意からではない。この世界の住人と接触し、情報を得るためのチャンスだからだ。


 木々の隙間から、開けた場所に出る。  そこでは、一方的な「狩り」が行われていた。


「ハァ……ハァ……っ!」


 逃げていたのは、一人の少女だった。  透き通るような金色の髪に、尖った耳。エルフだ。  森の妖精と呼ぶにふさわしい美貌だが、その緑色の狩猟服はボロボロに裂け、白い肌には痛々しい擦り傷が無数にある。


 彼女は巨大な古木を背にして立ち止まり、手にした短弓を構えた。


「風の精霊よ! 我が矢に宿りて、敵を穿て! ――『ウィンド・アロー』!」


 彼女の指先から緑色の光が溢れ、放たれた矢が風を纏って加速する。  ヒュオオッ!  空気を切り裂く鋭い一撃。それは確かに、常人の目では追えない速度だった。


 だが。


「無駄だと言っているだろう、亜人風情が」


 追っ手の男――全身を銀色の重厚なフルプレートメイルで固めた騎士が、嘲笑と共に前に出た。  騎士は避ける素振りすら見せない。


 ガィィンッ!


 風を纏った矢は、騎士の鎧の直前で「見えない壁」に弾かれ、無力に地面に落ちた。


「なっ……精霊魔法による強化射撃が、通じない……!?」


 エルフの少女が絶望に顔を歪める。  騎士は兜の奥で低い笑い声を上げた。


「我らレグルス帝国軍の『魔導鎧マギ・アーマー』には、対魔法障壁アンチ・マジック・フィールドが常時展開されている。貴様らエルフが得意とする魔法など、そよ風以下の無意味な抵抗よ」


 騎士は一人ではない。ざっと10人。  全員が同じ魔導鎧を装備し、手には帯魔したロングソードを持っている。


「くっ……! 母なる森よ、彼らを拒絶せよ! 『フォレスト・バインド』!」


 少女は諦めずに詠唱する。  地面から木の根が蛇のように隆起し、騎士たちの足に絡みつこうとする。  だが、それも鎧に触れた瞬間にシュウウ……と枯れて霧散してしまった。


「魔法殺し……。そんな、どうやって戦えば……」


 少女の膝が折れる。  万策尽きた。  魔法に依存したこの世界の住人にとって、「魔法無効化」は死刑宣告に等しい。


「終わりだ。その綺麗な顔は、奴隷市場で高く売れるから傷つけるなよ?」


 リーダー格の騎士が剣を振り上げ、じりじりと距離を詰める。  少女は震えながら目を閉じた。


 ――そこへ。  俺は音もなく介入した。


【第2章:物理キネティックという名の暴力】

 俺が陣取ったのは、戦場を見下ろす小高い丘の上だ。  距離はおよそ50メートル。  ハンドガンでは心許ないが、この距離なら次のウェポンが火を噴く。


「ショップ、購入。――『アサルトライフル・M4A1カービン』」 「アタッチメント:ホロサイト装着」


 カシャッ。


 俺の手元に、無骨な黒鉄の自動小銃が現れる。  米軍制式採用の実績を持つ、信頼の塊。  俺はホロサイトの赤いレティクル(照準)を、リーダー格の騎士の兜に合わせる。


「魔法障壁、ね。厄介な代物だ」


 だが、俺のFPS知識が正しければ、あの手のバリアは「魔力干渉」を防ぐものだ。  飛んでくる火の玉や、魔力を帯びた矢は防げる。  じゃあ、**「火薬の爆発力のみで加速された、純粋な物理エネルギーの塊(鉛玉)」**はどうだ?


「検証開始といこうか」


 俺はセレクターをセミオート(単発)に合わせ、引き金を絞った。


 タンッ!


 乾いた発砲音。  次の瞬間、リーダー騎士の頭部が、兜ごと後ろに跳ね上がった。


 ガギンッ!  金属が砕ける音と共に、兜の額部分に黒い穴が空き、背後から鮮血が噴き出す。


「……は?」


 リーダー騎士は言葉を発することなく、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。  周囲の騎士たちが凍りつく。


「な、何だ!? 隊長が……!?」 「魔法か!? いや、魔力反応はなかったぞ!」 「どこだ! どこから攻撃した!」


 パニックになる騎士たち。  少女も目を見開き、呆然と倒れた騎士を見つめている。  その鎧の「対魔法障壁」は、今の攻撃に対して何の意味も成していなかった。


「検証完了。物理防御は紙同然、か」


 俺は冷徹に次弾を装填する。  5.56ミリNATO弾。  初速は秒速900メートルを超える。  弓矢? 魔法? 遅すぎる。音より速く届く死神に、反応できるはずがない。


「さて、残弾処理クリアリングだ」


 俺は立ち上がり、斜面を滑り降りながら射撃を開始した。


 タンッ、タンッ、タンッ!


 リズミカルな射撃音。  一発撃つごとに、一人また一人と騎士が倒れていく。  全員、頭部への精密射撃ヘッドショットだ。


「敵襲! 敵襲ぅぅぅ!」 「見えない! 何が飛んできているんだ!」 「障壁を最大出力にしろ! ぐああっ!?」


 騎士の一人が、仲間の盾に隠れながら俺の方を向いた。


「そこかぁ! 貴様、何者だ!」


 彼は剣先から火炎弾を放ってくる。  だが、弾速が遅い。俺にとっては止まって見える。  俺は半身でそれを躱しながら、走り抜けざまにトリガーを引く。


 タタタンッ!


 スリーラウンドバースト(三点射)。  三発の弾丸が騎士の胸板――心臓部分に吸い込まれ、分厚いプレートメイルを紙くずのように貫通して背中から抜けた。  魔導による強化装甲も、現代兵器の貫通力の前には無力だ。


「ば、バカな……。我らの魔導鎧が……」


 最後の騎士が、ガタガタと震えながら後ずさる。  俺はM4の銃口を突きつけ、冷ややかに見下ろした。


「悪いな。俺の魔法(物理)は、お前らの常識じゃ防げないんだよ」


 タンッ。


 最後の銃声が響き、森に静寂が戻った。  戦闘時間、わずか30秒。  エルフの魔法ですら傷一つつけられなかった帝国精鋭騎士団は、たった一人の「ガンナー」によって全滅した。


【第3章:異端の力】

「…………」


 俺はM4の安全装置をかけ、マガジンを交換タクティカル・リロードしてから、へたり込んでいるエルフの少女に向き直った。  彼女は恐怖と驚愕が入り混じった瞳で、俺と、俺の手にある黒い鉄のライフルを見つめている。


「怪我はないか?」 「あ……え、と……」


 彼女はおずおずと立ち上がり、震える声で答えた。   「た、助けていただき……ありがとうございます。私はセリア。森のエルフ族の生き残りです」 「俺はタイガ。……まあ、旅人だ」


 セリアは倒れている騎士たちの死体を見た。  どの死体も、鎧の急所を一撃で貫かれている。


「信じられません……。彼らの『魔導鎧』は、上級魔法ですら弾く最強の防具。それを、詠唱もなく、一撃で貫くなんて……」 「相性の問題さ。あいつらは魔法には強いが、物理的な衝撃には脆かった」


「物理……? いえ、確かに矢も剣も物理攻撃ですが、これほどの威力なんて……」


 彼女は俺のM4を凝視する。


「その……杖、ですか? 先端から火を噴いていましたが、魔力を感じません。それに、雷のような轟音……」 「こいつか? これは杖じゃなくて『銃』だ。魔力なんて高尚なもんは使ってない。火薬の爆発で金属の粒を飛ばしてるだけだ」


「カヤク……? チュウ……?」


 理解不能といった顔で首を傾げるセリア。  まあ、説明しても無駄だろう。  この世界には火薬という概念自体がないのかもしれない。


「それより、ここを離れたほうがいい。銃声おとで仲間が来るかもしれない」 「は、はい! ……あの、厚かましいお願いですが、近くの街まで護衛をお願いできないでしょうか? 私は一族を帝国に奪われ、ギルドに助けを求めに行く途中だったのです」


【QUEST発生:セリアを街まで護衛する】 【報酬:5000 CP、異世界の通貨、ギルドの登録権】


 視界にウィンドウが出る。  渡りに船だ。ギルドに行けば、この世界の常識も学べるし、金も手に入る。


「いいだろう。依頼を受ける」 「本当ですか! ありがとうございます、タイガ様!」


 セリアはパッと表情を明るくし、深々と頭を下げた。  こうして俺は、魔法使いのエルフと共に、最初の街を目指すことになった。


 だが俺はまだ知らなかった。  この「物理火力ゴリ押し」スタイルが、この世界のパワーバランス(特に武人としての誇り云々)を、根本から粉砕してしまうことを。


 道中、セリアは俺の戦い方を見て、何度も絶句することになる。


「え、あそこの木の上にゴブリン? 矢が届かない距離ですよ!?」  ――タンッ。(遠距離狙撃で排除) 「……当たりました」


「ワイバーン!? 空の敵には魔法でないと……」  ――ダダダダッ!(フルオート射撃で翼を粉砕し撃墜) 「……落ちました」


「タイガ様……貴方のその『筒』、精霊魔法よりタチが悪いです……」 「褒め言葉として受け取っておくよ」


 異世界FPS無双の旅は、まだ始まったばかりだ。


【第4章:ギルドの洗礼】

 セリアを連れて森を抜け、俺たちは辺境の城塞都市『バルディア』に到着した。  石造りの城壁に囲まれた、いかにもファンタジーな街だ。  門番たちは俺の迷彩服とM4カービンを見て槍を構えたが、セリアが「私の命の恩人です!」と説明し、なんとか通行許可が下りた。


 街の中は活気に満ちていた。  鎧を着た冒険者、ローブを纏った魔術師。  そんな中、アサルトライフルを背負った俺は完全に浮いていた。


「ジロジロ見られるな……」 「仕方ありません。タイガ様のその黒い筒、魔力を感じないのに威圧感が凄いですから」


 俺たちは冒険者ギルドへ向かった。  報酬の受け取りと、俺の身分証ギルドカードを作るためだ。


 ギルドの扉を開けると、喧騒が一瞬止まった。  荒くれ者たちの視線が突き刺さる。


「おい、見ろよあいつの格好」 「なんだあの鉄の棒は? 杖か?」 「魔力もねえヒョロガリが、調子乗ってんじゃねえぞ」


 お約束の展開だ。  俺は無視してカウンターへ向かう。


「新規登録だ。頼む」 「は、はい! 手続きをしますね。こちらの水晶に手を……」


 受付嬢が水晶を出し、俺が触れる。   【職業:銃士ガンナー】 【ランク:測定不能】


「ガ、ガンナー……? 聞いたことのない職業ですね」 「遠距離攻撃職だ。弓使いみたいなもんだと思ってくれ」


 その時だった。  背後から、ビリビリとした殺気が俺の背中を叩いた。


「おい、そこの奇妙な男」


 振り返ると、一人の男が立っていた。  長い黒髪を後ろで束ね、着流しのような和風の装備に、腰には長刀カタナ。  周囲の冒険者たちが「うわっ、剣聖様だ」「『閃光』のジークフリートだぞ」とざわめきながら道を空ける。


 剣聖ジークフリート。  帝国の息がかかったギルドの顔役であり、この街最強の男らしい。


「セリア嬢から聞いたぞ。帝国の騎士たちを『見えない魔法』で虐殺したそうだな」


 ジークフリートは侮蔑の眼差しを向けてきた。


「魔法や弓矢など、遠距離から一方的に攻撃するのは臆病者の戦い方だ。武人の風上にも置けん」


「……で?」  俺はため息をついた。 「俺は生き残るために戦ってるんだ。武人の誇りじゃ腹は膨れないし、仲間も守れないだろ」


「貴様ッ!!」


 ジークフリートが激昂し、床をダンッ! と踏み鳴らした。  空気が震える。


「神聖な闘争を冒涜したな! その減らず口、俺との『決闘』で償ってもらおうか!」


【第5章:剣聖 vs フルオート・ショットガン】

 ギルド裏の訓練場。  俺とジークフリートの決闘を見ようと、野次馬たちが黒山の人だかりを作っていた。


「おいおい、剣聖様に喧嘩売るとか死んだなあの坊主」 「ジークフリート様の『縮地』は目にも止まらねぇぞ。魔法の詠唱なんかしてる間に首が飛ぶ」


 セリアが青ざめた顔で俺の袖を引く。   「タイガ様、やめてください! 彼は『剣聖』です! 5メートル以内の間合いなら、音より速く剣を振るう化け物なんです!」 「安心しろ。……5メートル? 近いな」


 俺はM4を背中に戻し、ショップウィンドウを開いた。  相手は超高速で接近してくる近接特化型。  アサルトライフルでは、懐に入られた時に取り回しが悪い。  そして何より、相手は「弾丸を剣で弾く」とか言い出しそうな達人タイプだ。


 なら、「点」ではなく「面」で制圧すればいい。


購入バイ。――『AA-12』」 「オプション:32連ドラムマガジン。弾薬種:12ゲージ00(ダブルオー)バックショット」


 ガシャッ!!


 俺の手元に現れたのは、凶悪なフォルムをした巨大な銃だった。  『AA-12(オート・アサルト・12)』。  軍用フルオート・ショットガン。  毎分300発の速度で散弾をバラ撒く、近接戦闘における「暴力」の具現化だ。


「なんだそれは? 盾か? それとも棍棒か?」


 ジークフリートが鼻で笑い、腰の刀に手をかけた。  距離は10メートル。


「始めッ!!」


 審判の声と同時だった。    シュンッ!


 ジークフリートの姿が消えた。  いや、超高速移動だ。地面を蹴る爆発的な脚力で、一瞬にして俺の懐――ゼロ距離へと肉薄していた。


「遅いッ! もらったぁぁぁ!!」


 銀閃。  神速の抜刀術が、俺の首を狙って走り抜ける。  確かに速い。FPSのラグ(遅延)なんてレベルじゃない。  普通の「ガンナー」なら、引き金を引く前に斬られていただろう。


 ――だが、俺は最初から「狙って」なんていない。


 俺はAA-12の銃口を、ただ「目の前の空間」に向け、トリガーを引きっぱなしにした。


 ズダダダダダダダダダダダダダッ!!!!


 轟音が訓練場を支配した。  通常のショットガンなら「ドンッ」だが、こいつは違う。  「ズダダダダ」という連射音と共に、1秒間に5発、1発あたり9粒の鉛玉バックショットが吐き出される。  つまり、毎秒45個の金属片が壁となって襲いかかるのだ。


「なっ……!?」


 ジークフリートの表情が驚愕に染まる。  彼は本能的な危機察知で、攻撃を中断して刀を防御に回した。


 キキンッ! カカカカンッ!    最初の数発は、神業のような剣技で弾かれたかもしれない。  だが、次に来るのは32連発のドラムマガジンが尽きるまでの、鉛の暴風雨だ。


「ぐ、おおおおお!? なんだこの数はぁぁぁ!!」


 一太刀で一発の弾は弾けても、同時に飛んでくる無数の散弾は防げない。  剣聖の着流しが千切れ飛び、頬を、肩を、足が削り取られていく。


「やめっ、ま、待て……!」


 ジークフリートが後退しようとするが、ショットガンのストッピングパワー(阻止力)がそれを許さない。  衝撃で体が浮き上がり、ボロ雑巾のように後方へ吹き飛ばされた。


 カチッ。


 全弾撃ち尽くし、ボルトがホールドオープンする乾いた音が響く。  硝煙が晴れると、そこには壁に叩きつけられ、白目を剥いてピクピクしている「元」剣聖の姿があった。  (※手加減して足元中心に撃ったので、命に別状はない……はずだ)


「……は?」 「一瞬で……?」 「あのジークフリート様が、何もできずに……?」


 野次馬たちは口をあんぐりと開けて静まり返っている。  俺はAA-12を肩に担ぎ直し、倒れている剣聖を見下ろした。


「おい剣聖。アンタの剣技は見事だったよ。一発か二発なら弾かれてたかもな」


 俺は空のマガジンを抜き、地面に捨てた。


「だが、現代兵器ってのは『質』より『量』なんだよ。気合いで弾幕は防げない。覚えとくんだな」


「た、タイガ様……」


 セリアが駆け寄ってくる。その目は、恐怖を通り越して、何か崇拝に近い輝きを帯び始めていた。


「凄いです……! 剣の達人を、詠唱も動作もなく吹き飛ばすなんて……! 貴方のその武器は、神具ですか!?」


「いいや、地球産の工業製品(ただの鉄くず)だ」


 こうして、ギルドでの格付けチェックは終了した。  俺が「最強の飛び道具使い」として噂になるのと同時に、帝国軍の本隊が、この街に向けて進軍を開始しているという急報が届いたのは、その夜のことだった。


【第6章:絶望の包囲網】

 その夜、バルディアの街は紅蓮の炎に包まれていた。  帝国軍の本隊による奇襲だ。


 ヒュオオオオ……ズドォォン!!


 空から降り注ぐ火球が、石造りの城壁を飴細工のように溶解させる。  警報の鐘が鳴り響く中、俺とセリアは城壁の上に立っていた。


「ひ、ひどい……。こんな数、どうやって……」


 セリアが震える声で呟く。  眼下に広がる平原を埋め尽くしていたのは、文字通りの「軍団」だった。  数千の魔導歩兵。  城壁をも砕く巨大な『攻城ゴーレム』。  そして上空を旋回する、50騎以上の『ワイバーン騎竜部隊』。


「ハハハ! 見ろ! 辺境の田舎街など、我ら帝国軍の前では無力だ!」


 拡声魔法による敵将の勝ち誇った声が響く。


「降伏せよ! さもなくば、街ごと焼き尽くす!」


 衛兵たちは絶望し、武器を取り落としている。  剣聖すら倒れた今、この戦力差を覆せる者などいない。魔法障壁も、あの数の前では紙切れだ。


「タイガ様……逃げましょう。貴方だけでも生き延びて……」


 セリアが涙目で俺の腕を掴む。  だが、俺は冷静にUIウィンドウを操作していた。


【現在の所持CP:50,000】 (※オーク討伐、騎士団全滅、剣聖撃破、クエスト報酬で貯まりに貯まった)


「逃げる? なんでだ?」


 俺は空を見上げた。  ワイバーンたちが我が物顔で飛び回っている。  ファンタジー世界における最強の航空戦力。確かに脅威だ。剣や弓ならな。


「ちょうどいいターゲットが集まってるじゃないか。……セリア、耳を塞いでろ」


「え?」


「貯まったポイントを全放出する。――『キルストリーク(支援攻撃)』要請」


 俺は虚空から、一丁の無骨な通信機――ではなく、**『レーザー目標指示装置デジグネーター』**を取り出した。


【第7章:アパッチ・ロングボウ】

 俺は装置のファインダーを覗き、上空を旋回するワイバーンの群れにレーザーを照射ロックオンした。


「こちらアルファ1。目標、上空のトカゲ共および地上の鉄クズ集団。……許可クリアード・ホット」


 『Roger. Air support inbound.(了解。航空支援、進入する)』


 無機質なオペレーターの声が脳内に響く。  直後。  夜空の向こうから、独特なローター音が近づいてきた。


 ババババババババババッ!!


 腹に響く重低音。  ワイバーンの羽音とは違う、空気を暴力的に叩きつける音だ。


「なんだあの音は!?」 「空か!? ドラゴンか!?」


 帝国の兵士たちが空を見上げる。  雲を切り裂き、その「鋼鉄の怪物」は姿を現した。


 全長17メートル。  全身を無骨な装甲板とリベットで覆い、機首にはセンサーポッド、左右のスタブウイングには大量のミサイルとロケット弾ポッドを懸架した、空の死神。


 『AH-64D アパッチ・ロングボウ』。  世界最強の攻撃ヘリコプターだ。


「な、なんだあれは……! 鉄の……竜!?」


 ワイバーン部隊が動揺する。  だが、遅い。


 ズドドドドドドドドッ!!


 機首の下にある『30mm M230チェーンガン』が火を噴いた。  毎分600発以上の速度で放たれる30mm榴弾は、ワイバーンの鱗も肉も骨も関係なく、触れた瞬間に炸裂する。


「ギャアアアアッ!?」


 先頭のワイバーンが、血飛沫すら上げられずにミンチになって四散した。  続けて二頭、三頭。  アパッチのFCS(射撃管制装置)に捕捉された獲物に、逃げ場はない。


「ば、バカな! 落とせ! 火球を放て!」


 ワイバーンたちが反撃の炎を吐く。  だが、数キロ先から精密射撃してくるアパッチに対し、生物のブレスなど届くはずもない。一方的な虐殺だ。


「空の掃除は終わりだ。次は地上だ」


 俺は指示装置を地上の密集地帯――魔導歩兵とゴーレムの集団に向けた。


 『Hellfire, away.(ヘルファイア、発射)』


 アパッチの翼下から、閃光が走った。  対戦車ミサイル『AGM-114 ヘルファイア』。  レーザー誘導により、数ミリの誤差もなく目標へ吸い込まれていく。


 ドゥオオオオオオオオオォォォンッ!!!!


 巨大な爆発の華が咲いた。  城壁をも砕くと豪語していた巨大ゴーレムが、木っ端微塵に砕け散る。  1発、2発、3発。  連射されるミサイルが、帝国の主力部隊をピンポイントで蒸発させていく。


「ひ、ひぃぃぃっ!!」 「悪魔だ! 鋼鉄の悪魔だ!」 「退却ぅ! 退却しろぉぉぉ!」


 さらに追い打ちをかけるように、アパッチは『ハイドラ70ロケット弾』の雨を降らせた。  爆撃地帯と化した平原は、まさに地獄絵図。  剣と魔法?  悪いが、こっちは電子制御された近代兵器だ。文明のレベルが違いすぎる。


【エピローグ:英雄の請求書】

 ――戦闘終了まで、わずか10分。  数千を誇った帝国軍は壊滅し、生き残りは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。


 夜明けの空に、ローター音を残してアパッチが消えていく。  (召喚時間終了だ)


 城壁の上は静まり返っていた。  衛兵も、冒険者も、セリアも、誰も言葉を発せない。  圧倒的な火力。神の怒りとしか思えない破壊の爪痕を前に、彼らはただ呆然としていた。


「ふぅ……。とりあえず、守りきったな」


 俺はレーザー指示装置をしまい、M4のマガジンをチェックする。  すると、セリアが震える足で近づいてきて、いきなり俺に抱きついた。


「タ、タイガ様ぁぁぁ……っ!!」 「おっと」 「凄いです、凄すぎます……! あんな、あんな魔法見たことありません! 貴方は本当に、軍神の使いか何かなのですか!?」


 涙目で俺を見上げるセリア。  周囲の兵士たちも、畏怖と尊敬の眼差しで俺を見て、一斉に歓声を上げ始めた。


「英雄だ!」 「バルディアの救世主だ!」 「タイガ万歳!!」


 あっという間に胴上げされそうになる空気。  だが、俺はこめかみを押さえて溜息をついた。


「いや、喜んでるとこ悪いんだけどさ……」


 俺は虚空に表示された『請求書(リザルト画面)』を見て、顔を引きつらせた。


【TOTAL COST】 ・30mm榴弾 × 500発 ・ヘルファイアミサイル × 8発 ・ロケット弾ポッド × 4基 ・航空燃料費 -------------------- 【合計:50,000 CP(ポイント残高:0)】


「……弾代、誰が払ってくれんのこれ?」


 俺のぼやきは、歓声にかき消されて誰にも届かなかった。


 こうして。  異世界に転移した元プロゲーマーは、現代兵器の暴力的な火力を背景に、伝説の傭兵(兼、万年弾薬費不足の苦労人)として生きていくことになった。


「次は魔王城か? ……あそこなら『戦術核ヌーク』撃っても怒られないよな?」


 その呟きが現実になる日は、そう遠くないかもしれない。

最後までお読みいただきありがとうございます!


「M4カッコいい!」 「アパッチ最強!」 「圧倒的火力が好き!」


と少しでも思っていただけましたら、 【ブックマーク】や【評価(★)】をいただけると執筆の励みになります! (火力マシマシで続き書きます!)

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― 新着の感想 ―
面白かった。 現代兵器が召喚出来て無双する点がツボに入りました。 万年金欠になりながら頑張るんですね( ^ω^)・・・。
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